イシュラヴァール放浪記

道化の桃

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第三章 王宮編

砦の攻防

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 中で待ち受けていた敵は4人。数ではこちらが勝っていた。
 うおああっ、という雄叫びとともに、敵味方が激しくぶつかり合う。
 外壁の内側には、更に城の土壁があった。天井高くそびえる城と外壁との隙間から、うっすらと砂が降ってくる。
「隊長!先へ!」
 部下の一人が叫び、ウラジーミルは二名を連れて先へ進む。階段を三層目ほどまで上ると、ちょっとした広間に出た。丁度、別動隊のパブロとザイオンもそれぞれ別の通路から現れる。
「7人やった。負傷者は一人」
「こっちは8人、階下したでまだ戦っている。カーリーとジョンが負傷した」
 二人の報告を受けて、ウラジーミルが素早く計算する。
「敵の残りは5~6人か。ここの兵士の生き残りもいるはずだ。パブロ、俺と階上うえへ来い。ザイオンは何人か連れて地下を」
了解アイアイサー
 一方、壁によじ登ったアトゥイーは、弓の射手の喉を掻き切った。通常ならば灼熱の太陽に熱せられた鉄壁の温度は100度近くまで上がる。が、砂嵐によって太陽が遮られ、更に強風で冷やされていた。
 そのままアトゥイーは射手のいた小窓から砦の二層目へ滑り込む。外壁沿いに巡らされた回廊を駆け抜け、階段を見つけて三層目に駆け上がる。途中、遭遇した敵を一人、二人と次々に斬り伏せる。
(迷うな。殺せ)
 心に響く声に従い、身体の反応するままに剣を突き出していく。そうして繰り出されるアトゥイーの剣は、真っ直ぐに相手の急所に吸い込まれていった。
 賊の頭目は、砂嵐のさなかを突いての急襲に焦っていた。
「もうすぐ仲間が来るはずだ……それまで持ち堪えれば……」
 だが砂嵐で仲間たちも足止めを食ったのか。砦の裏側、外壁の三層目にある見張り台に出たが、砂混じりの風で視界が効かない。子供たちは隅で身を寄せ合って震えている。
「ぎゃあっ!」
 背後を見張っていた仲間が斬られた。斬ったのはまだ若い兵士だ。一人を倒した勢いで頭目の男に斬りかかってきたが、そこに子供の姿をみとめて、一瞬動きが鈍った。男はその隙に、兄妹で一番幼い妹を片腕で抱え上げた。
「くそっ……!お前ら、来い!」
 男は剣を収め、もう片方の手で弟の腕を取って、回廊を反対側へ駆けた。まだ背の低い弟が半ば引きずられるように連れていかれるのを、兄が必死で追う。男は飛び降りるように階段を下り、裏門の脇の厩から馬を引き出し、兄弟を乗せた。自分も妹を抱えてもう一頭に飛び乗る。
「どう!」
 追いついてきた兵士に前脚で蹴りかかって、そのまま門を飛び出した。兄弟の乗った馬も手綱で繋がれて、後を追う。
 若い兵士――アトゥイーは、厩に残っていた馬の一頭に飛び乗って、男を追った。

 塔の上に出たウラジーミルたちは、そこにいた敵一人を取り囲んで拘束した。
 アトゥイーの言った通り、砂嵐はもう止みかけている。
「怪我はないか?」
 パブロが縛られていた女たちを解放し、真っ赤に焼けた背にマントを羽織らせる。と、おもむろに女の一人が叫んだ。
「坊っちゃん!ああ、あそこ……!誰か……!」
 女は塀の外――見下ろした砦の一点を指している。そこでは、賊の一人が馬を引き出して、まさに砦の裏門を出るところだった。
「しまった、逃げられるぞ!リン!」
 ウラジーミルに呼ばれた東洋人のリンが、すかさず銃身の長い銃を城壁越しに構えた。
「子供を連れている!あれは……?」
「隊長のお子様方です!ああ、誰か!連れて行かれる!」
 女が必死で叫ぶ。
「二人……いや、三人か?くそ、子供を人質に取りやがったな」
 パブロが歯噛みする。
「ウラジーミル!だめだ、撃てません!子供に当たる」
 リンが叫んだ。
 子供たちを連れた男は、馬に乗って砂漠へと駆け出している。と、それを猛追する者があった。
「あれは……?」
「アトゥイーだ!追っている!」
 アトゥイーを乗せた馬は、すぐに敵に追いついた。
「速い……!」
「いいぞ!」
 アトゥイーが斬りかかると、男はバランスを崩して馬から落ちた。アトゥイーも馬を下り、剣を構えて対峙する。
「加勢するぞ!二人来い!」
 ウラジーミルが叫び、部下二人を伴って階段を駆け下りていった。

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