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初恋の味はチョコレート・アイス
〖第5話〗幽霊の正体
しおりを挟む後ろ手に閉めた二人きりの図書準備室。私が黙りこんで、らしくなくしてると、
「忘れちゃった?」
光太郎くんではない人の声。右手のゴディバの袋。多分、保健室登校の男子生徒。蒼白い綺麗な、何処か懐かしいフェイスライン。多分、噂の『幽霊』はこのひとだ。
軽く陽が翳り彼は振り返り笑う。何で、私を知ってるのか。『一目で解った』って。頭の整理がつかない。
「『何で光太郎くんじゃなくて幽霊なんだよ。チョコ返せよっ』て思ってる?でも、僕の下駄箱にチョコ入ってたよ」
クスクス笑う幽霊に、私は苛々して、
『チョコ返して!』
と言った。幽霊はまだ笑っている。
「無理だよ。全部食べたから。ゴディバのチョコは流石に美味しいね」
私はポロリと涙をこぼした。
まさか自分が泣くなんて思わなかった。つかつかと歩みより、幽霊をひっぱたいた。
「やっていいこととわるいことがあるよ!」
「じゃあ、『僕をお婿さんにする』て言ったのを忘れている君は?」
「え………?」
「僕を忘れた君は?──『オミ』だよ。覚えてないか」
「……結城惟臣、『オミ』………オミ?アケビと、ポポが好きだった。食べすぎてめっちゃ二人で怒られたオミ?地球と月のホクロのオミ?生きてたの?生きて、たの?皆、忘れなさいって言って、考えないようにしてた。もういない。オミには二度と会えないんだって。認めたくないのに諦めるしかなくて。オミ、オミ………」
涙が溢れてくる。
もう一度逢えた。生きてた!
「うん。生きてた。何とかね。光太郎くんには、時間を差し替えたカードをいれた。
チョコは食べてないよ。ただ、ちょっと悪ふざけ。由梨に会いたかった。
後十分くらいしたら光太郎くん、ここに来るよ。本当に、久々に会いたかったんだ。それだけだよ」
小児喘息が酷かった私は一時期、ばあちゃんの家に預けられた。
ばあちゃんは巫女だ。頼まれて近くの神社を持ち回る。普段は唯一社務所があり、お守りなどを売っている神社で働く。
家で一人の時間が多かったがつらくはなかった。斜め隣に住む「オミ」がいたから。
物知りで話も上手い。幼心に魅力的だった。
「忘れてないよ。でも、声が違う。面影は………笑窪が一緒、目尻の地球と月のホクロも。オミ、手術は?どうして?」
「僕の家はまあ、お金がないから、
有名な先生のまあ、悪い言い方で言えば実験台みたいなことで手術をした。
経過良好。無理はできないけどね。
病院すぐそこだから、ここの学校にしたんだよ。一人暮らしだよ。
まさか、由梨に会えるとはな。一目で解った。由梨も元気になったみたいで良かった。あと半年の命が、18歳になれた。
長生きして良かった。綺麗になったね、由梨。会って話してみたかった。意地悪してごめんね」
こんなときでも、オミはやさしい──。
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