上 下
2 / 16
初恋の味はチョコレート・アイス

〖第2話〗永遠の別れ

しおりを挟む


私は昔は身体が弱かった。小児喘息だった。空気がいいからと、山の中にあるばあちゃんの家に預けられた。

良く遊んだ子は、ばあちゃんの従弟にあたる、簡単にいえば遠縁の家だ。一つ年上の男の子。

オミ。結城惟臣ただおみ。 

覚えているのは、博識で、
他の子、男の子にも女の子にも意地悪だったけど私にはとびきり優しかった。
蒼白い、整った顔の造作をしていた。


 ──そして心臓が弱かった。 


「一度、由梨とかけっこしたい。由梨は足が早いね。いつか出来るように、なれたらいいなあ」

夢見るように語るオミは、
それが実現しないと知っていた。

ただ、私が山を降りるとき、オミは普段歩くのも億劫がるのに


──今となっては身体を動かすこと自体がつらかったからだと解るけど──


そのオミが、私を乗せた軽トラックを追いかけて、坂道なんて絶対に走ってはいけないのに、つまづきながら手を伸ばし、私の名前を掠れた声で呼び続けた。

オミを追ってオミの家のおじさんおばさんがオミを押さえつけ止めにかかった。それでも、苦しそうに立ち上がり、私の名前を叫び続けた。

ああ、身を切られるというのはこういうことを言うんだ。涙が止まらなかった。オミ、ごめんね。苦しい思いをさせてごめんね。

次の瞬間、恐れていたことがおこった。
オミは発作を、おこした。
地面に胸を押さえて倒れ込むオミを見て、私は泣きながら、 

『降ろして!ばあちゃん!オミが、オミが!』

と言ったがばあちゃんは、 

『未練が残る。見るんじゃねぇ。あの子はだめだ。だめなんだよ。後がつらい。綺麗な思い出にしてあげろ』

と言い車を停めなかった。オミは何か薬を飲まされていた。私は窓にかじりついてただ泣きながらオミを見ているしかできなかった。
 
最後に見えたのは視界の遠くにぐったり力を失って小さくなったオミ。

これが、私が山で療養した生活の最後だ。
   
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

坊主女子:学園青春短編集【短編集】

S.H.L
青春
坊主女子の学園もの青春ストーリーを集めた短編集です。

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

俺と公園のベンチと好きな人

藤谷葵
青春
斉藤直哉は早川香澄に片想い中 公園のベンチでぼんやりと黄昏ているとベンチに話しかけられる 直哉はベンチに悩みを語り、ベンチのおかげで香澄との距離を縮めていく

ムーンダスト

晴菜
青春
「僕が、いや俺がこの子の親だ」 これは、何をやっても上手くいく器用貧乏昼行灯のヒロと人付き合いが得意だけど強情なツキネと、彗星の子供カナメとの偽りの親子の物語

坊主女子:女子野球短編集【短編集】

S.H.L
青春
野球をやっている女の子が坊主になるストーリーを集めた短編集ですり

刈り上げの春

S.H.L
青春
カットモデルに誘われた高校入学直前の15歳の雪絵の物語

和歌浦グラフィティ

真夜中
青春
レーズンの家の近くには二軒の本屋がある。雑誌を読むにはもっぱら大浦街道に面した大きい方を利用することにしている。倉庫のような白い建物にそれを照らすライティング設置用の黄色い鉄骨、看板には赤く大きな文字でBooKとある。その中にあったアイスクリームを主に売るテナントはオープンして三年程で消えた。レーズン達はよくそこで水風船を買いアイスクリームを頬張った。そこで覚えたラム・レーズンの味は最高。僕のニックネームはレーズンに決まった。 これから何度と淡い春が来て、その度にまた厳しい冬を乗り越えようとも、もう、あの頃と同じ情熱を感じることはないのかもしれない。僕は決して誠実な人間ではないけれど、あの時代に感じていたすべてを忘れることはないだろう。目一杯満喫したから二度と振り返らないなんて言わないし、サヨナラの手を振るつもりもない。あの頃からいろいろと吸うものは変わったけど、カクテルグラスに刺さった安いストローや、濃度の高い煙に巻かれながら、僕らは、この胸、深いところと共謀し、センチメンタルという一生懸命に甘くて、精一杯に酸っぱく苦しいドロップを互いの口に放り込む計画を立てている。かつて、僕のことをレーズンと呼んだあの悪ガキ達の残像が摺り寄って来ては、僕の横腹を突つきニヤっとささやくと、今、僕の横に掛けているのはあの頃とちっとも変わらないチャーミングな女の子。  それは、たった一度の魔法で、僕らはそれを初恋と呼んだ。

坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】

S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。 物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。

処理中です...