僕を貴方の傍において~ティーカップの妖精の恋~〖完結〗

カシューナッツ

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ぼくに『アレク』を探さないで〖第46話〗

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 肩に深山のコートを羽織り、くたりと座った少年は両手で目を擦りながら大声で泣き続けた。深山は、何も言えなかった。

    真実には返す言葉がない。幼い少年が『アレク』の姿をしていなかったら、少年の言うとおり、なんの関心も抱かなかっただろう。

    全身で悲しいと訴えて、大きな涙を零す幼い少年が、あまりに切なく、あまりに悲しい。彼ではないとは解っていても少年が泣くのはつらい。

 いつも『ふかやまさん、ふかやまさん』と明るい声で幼い少年はついて回り、深山を見ては笑ってくれた。深山には気づかれないように、胸の内に苦しさを貯めながら。深山は、この少年に救われてきたのを気づけなかった。

 だから余計にこの少年の言葉は深山に棘のように刺さった。少年の涙は、あまりにも痛みを伴う涙だった。

 深山は隣に座り少年を見つめた。幼い少年は涙で顔中を濡らし、溢れる涙を深山のコートの袖で拭きながら言った。小さな、呟きのような声だった。

『……もっと上手に林檎を剥ければいいんですか?お掃除を頑張ればいいんですか?部屋をきれいにかたづければいいんですか?オムレツも、上手に焼きます。これからもっと頑張ります……だから、だから、ぼくを見て。ふかやまさん。ぼくを見て……お願い。もう、ぼくに『アレク』を探さないで………』

 あまりにも、つらい。深山は少年を何も言わずに抱きしめた。

『ふ、ふかやまさぁん』

 暫く少年は深山にぎゅっとしがみつくように腕を回し、しばらく苦しそうに泣いていた。

 そのままコロンと横になる。枕の代わりに深山は腕を貸す。もう片方の腕は幼い少年の背中に回し、ポンポンとあやすようにたたいた。

「少しは、落ち着くか?」

 懐に収まった少年は、二回頷き、

『ふかやまさんの、匂いがします。いい匂い。金木犀と少し油絵の具の匂いがする………さっきはごめんなさい。でも、すこしでもいいから………解ってください』

「解ってるよ。私は君が可愛いよ。だからもう『割ってくれ』なんて言わないでくれ。頼むから。………天気が良い日に海を見に行こう。約束だ。いつ晴れるか解らない。明日から少しずつ荷造りをしよう。少し眠りなさい。君が寝つくまでこのままでいるから」

 穏やかな日が続いた。幼い少年は深山と目が合うと、深山が寂しそうに笑うのは癖のようなものだと思うことにした。ことあるごとに幼い少年を見つめて、悲しそうな顔をすることも。

    深山を悲しい顔を見たくない。だから、幼い少年は深山には近寄らなくなった。悲しい眼鏡の奥の瞳に『彼─アレク』として重ねられるのは幼い少年でも解っている。

 それを、気づかないふりをして笑うのは、幼い少年にとって、あまりにも難しい。それなのに、苦しいのに傍にいたい。

 深山に抱きついて『ぼくを見て』と言いたい。深山にぎゅっと抱きしめて欲しい。
    

この感情の名前が、幼い少年には解らない。

 
 カップを大切に緩衝材につつみ、籠に入れ、箱に入れ、バックに入れた。

「何かあったらカップに逃げ込みなさい。人目なんて気にしなくていいから」

 海へ、行く。
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