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拭えない劣等感〖第30話〗──②
しおりを挟む早朝、と言っても寅の刻前、目を覚ますと隣の布団から転がったらしく懐に空がいた。温かい。起こさないようにそっと布団から出ようとしたはずなのに、空は蒼の寝衣を掴み、
「少しだけ、待って」
と言った。あまりに切ない声に振り向くと、空がじっと見つめていた。
「怖い夢でも、見たのか」
「ううん」
「どうしたんだ」
「ずっと夢だったの。大好きなひとと一緒に寝て、そのひとに優しく起こしてもらうの」
蒼は空に唇に触れるだけの口づけをした。
「朝だよ、空。でも少し早いな。もう一度眠るか?」
空は嬉しそうに笑うと、ぎゅっと蒼を抱きしめた。
「今日、大変なんでしょ?うっすら聴こえたよ。頑張って。負けないでそうにいちゃん。それと『空に想われる自信が、俺にはない』ってどういうこと?どうして?何があったら信じてくれるの?」
ちょこんと座り、空は蒼を見つめる。空が逸らすことなく見つめる透明な瞳にみっともない自分が映されている気がした。
「僕が、出来ることはないの?何でもするよ。そうにいちゃんのためなら、何でも」
じっと見つめる無垢な視線に、目を逸らす。
「空は、何で俺なんだ?何で俺が好きなんだ?」
「理由はないの。ただ、そうにいちゃんが好きなの。自分でも、解らないよ。どうしようもないの。理屈じゃないの。好きに理由が必要なの?ただ好きじゃいけないの?」
好きに、理由。考えたことなんか無かった。自分が空を好きな理由。ふと目をやると、大きな瞳はクシャッと笑う。理由なんて、ない。それに、空に望むこと……ただ『そうにいちゃん』そう、自分を呼んで笑ってくれるだけでいい。
「もう一度、布団で寝ていろ。気になるようだったら襖を開けておけばいい」
恥ずかしくなり、取り繕う代わりに冷たい物言いをする自分が嫌になる。
「あ、あの……まだ、早いから、刺繍をしようと思って」
「そうか」
少しだけ乱れた寝衣が初々しい色香を感じさせた。
「そ、そうにいちゃん。お願いがあるんだけど」
「何だ」
「あの、黒の、神獣の毛並みの姿になってほしいの。鉛筆で写して、刺繍にしたくて。翠くんは寝てるし、爺やさんは外で見張りをしてるから………」
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