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手には入らないもの〖第27話〗──②
しおりを挟む空が押し入れの爺を必死で起こしているのをチラリと見たあと、翠は小声で蒼に耳打ちした。
「兄さん、空が可愛いのは解るけど、風呂場ではだめだよ。浪漫がない。しかし……綺麗だな空は。あんな綺麗な生き物が世に居るとはね」
クッと笑うと、爺は翠の姿に薄い煙と共に変化した。空は、押し入れに走り眠る爺を呼ながら揺り起こしている。
「家督なら、くれてやる。お前が当主にでもなればいい」
「そんなもの、いらない。初めて、欲しいものができたんだ」
目覚めた爺を空は抱きしめていた。
「大丈夫?痛くない?爺やさん」
「面目ありませぬ、空様」
振り返り、心配そうに爺の頬を撫でる空を見て翠は笑う。
「眠りのつぼをついただけ。何の問題もないよ。あと半時も寝たら元通りだか……」
空は翠に早足で歩みより、思いっきり空は翠の頬を張り、涙をためた目で睨み付けた。
「やっていいことと、悪いことの区別もつかないの?謝りなさい!爺やさんに、蒼様に!」
「な、何で、僕が。お前に何の権利がある!」
「許婿として。僕は貴方にとってお義兄さんになる!」
一瞬の傷ついた表情を、蒼は見逃さなかった。爺は部屋の隅で布団と毛布に絡まり、うとうととしている。
「解ったよ、悪かったよ」
思いっきり舌打ちし、翠は言う。
「ごめん、兄さん、空。爺やさんにも僕が謝ってたって伝えて」
すっと、空の手が翠の頬にのばされた。冷たい手だと翠は感じた。あんなに乱れて白い身体を桃色に染めていたのに……。空に触れられ翠の頬の痛みは消えた。けれど、胸の痛みは消えてくれない。絶対に手に入らないもの。
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