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手には入らないもの〖第27話〗
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我ながら大人気ないことをした。初めてなのに、空は………。最悪だ。全く加減ができなかった。
流石に掟は守ったが。体内に精を放つのは珠合わせまでのご法度だ、空がしょんぼり俯いたままなので、抱き寄せる。
「空、何を悩んでいるんだ?話してごらん」
「ぼ、僕やっぱり『好色』なんだ……爺やさん、言ってた。『何事も初めては緊張するし痛い』って。どきどきはしたけど、うっとりして、き……気持ち良くて。へ、変な声まで、でて………どうしよう。そうにいちゃん」
───────────
「随分長風呂でしたな。夕餉の支度が出来ています。私が全て毒味しましたゆえ。舞茸は採れたばかりです。ささ、召し上がって下され」
舞茸の炊き込みご飯を、空は『美味しい』とパクパクッと嬉しそうに食べる。空は食べ上手で、所作も綺麗だ。
山神さまが父という手前、母親に叩き込まれたのだろう。
自分も食べるが美味しい。他の料理も。空と一緒だからか。独りの飯は味気ない。贅沢な話だが。
食後に柿が出された。甘いゴマ柿だ。
「すごいご馳走だったよ。いつもすいとんか雑炊だったから、お正月気分だよ。感謝しなくちゃね。当たり前にならないように。ありがとう。爺やさん、もう毒味はいいよ。こんな美味しい料理を作るひとに悪いひとはいないよ」
「運ぶ者が毒されているかもしれん。引き続き頼む、爺」
蒼の言葉に、空は少し残念そうな顔をする。爺はそんな空を見て苦笑し、
「爺には大抵の毒の知識と耐性があるのです。お気になさらず、空様」
「爺やさん……身体を大事にして。柿、一緒に食べよう?」
「優しいお言葉。悼みいります。おお!甘くて美味しい。……では次の間で御二人でお過ごし下さい。爺は夕餉を下げ、暫く見張りを致したら下がりますゆえ」
爺が下がろうとしたところを蒼は爪で軽く裂く。黒い耳と尾が出る。爺は素早く後ろに引いた。白い耳と尾。先が若草色だ。
「寝静まった所をザックリか、翠。来るなら昼間、正々堂々と来い」
「手荒いなぁ。兄さん。ちゃんと本人が来たんだからいいじゃないか。二人に挨拶したかったけど警備がすごくて。仕方なく、ね。爺やさんは押し入れで眠ってもらってる。偵察っていい仕事だね。飽きない」
空が押し入れの爺を必死で起こしているのをチラリと見たあと、翠は小声で蒼に耳打ちした。
「兄さん、空が可愛いのは解るけど、風呂場ではだめだよ。浪漫がない。しかし……綺麗だな空は。あんな綺麗な生き物が世に居るとはね」
クッと笑うと、爺は翠の姿に薄い煙と共に変化した。空は、押し入れに走り眠る爺を呼ながら揺り起こしている。
「家督なら、くれてやる。お前が当主にでもなればいい」
「そんなもの、いらない。初めて、欲しいものができたんだ」
目覚めた爺を空は抱きしめていた。
「大丈夫?痛くない?爺やさん」
「面目ありませぬ、空様」
振り返り、心配そうに爺の頬を撫でる空を見て翠は笑う。
「眠りのつぼをついただけ。何の問題もないよ。あと半時も寝たら元通りだか……」
空は翠に早足で歩みより、思いっきり空は翠の頬を張り、涙をためた目で睨み付けた。
「やっていいことと、悪いことの区別もつかないの?謝りなさい!爺やさんに、蒼様に!」
「な、何で、僕が。お前に何の権利がある!」
「許婿として。僕は貴方にとってお義兄さんになる!」
一瞬の傷ついた表情を、蒼は見逃さなかった。爺は部屋の隅で布団と毛布に絡まり、うとうととしている。
「解ったよ、悪かったよ」
思いっきり舌打ちし、翠は言う。
「ごめん、兄さん、空。爺やさんにも僕が謝ってたって伝えて」
すっと、空の手が翠の頬にのばされた。冷たい手だと翠は感じた。あんなに乱れて白い身体を桃色に染めていたのに……。空に触れられ翠の頬の痛みは消えた。けれど、胸の痛みは消えてくれない。絶対に手に入らないもの。
流石に掟は守ったが。体内に精を放つのは珠合わせまでのご法度だ、空がしょんぼり俯いたままなので、抱き寄せる。
「空、何を悩んでいるんだ?話してごらん」
「ぼ、僕やっぱり『好色』なんだ……爺やさん、言ってた。『何事も初めては緊張するし痛い』って。どきどきはしたけど、うっとりして、き……気持ち良くて。へ、変な声まで、でて………どうしよう。そうにいちゃん」
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「随分長風呂でしたな。夕餉の支度が出来ています。私が全て毒味しましたゆえ。舞茸は採れたばかりです。ささ、召し上がって下され」
舞茸の炊き込みご飯を、空は『美味しい』とパクパクッと嬉しそうに食べる。空は食べ上手で、所作も綺麗だ。
山神さまが父という手前、母親に叩き込まれたのだろう。
自分も食べるが美味しい。他の料理も。空と一緒だからか。独りの飯は味気ない。贅沢な話だが。
食後に柿が出された。甘いゴマ柿だ。
「すごいご馳走だったよ。いつもすいとんか雑炊だったから、お正月気分だよ。感謝しなくちゃね。当たり前にならないように。ありがとう。爺やさん、もう毒味はいいよ。こんな美味しい料理を作るひとに悪いひとはいないよ」
「運ぶ者が毒されているかもしれん。引き続き頼む、爺」
蒼の言葉に、空は少し残念そうな顔をする。爺はそんな空を見て苦笑し、
「爺には大抵の毒の知識と耐性があるのです。お気になさらず、空様」
「爺やさん……身体を大事にして。柿、一緒に食べよう?」
「優しいお言葉。悼みいります。おお!甘くて美味しい。……では次の間で御二人でお過ごし下さい。爺は夕餉を下げ、暫く見張りを致したら下がりますゆえ」
爺が下がろうとしたところを蒼は爪で軽く裂く。黒い耳と尾が出る。爺は素早く後ろに引いた。白い耳と尾。先が若草色だ。
「寝静まった所をザックリか、翠。来るなら昼間、正々堂々と来い」
「手荒いなぁ。兄さん。ちゃんと本人が来たんだからいいじゃないか。二人に挨拶したかったけど警備がすごくて。仕方なく、ね。爺やさんは押し入れで眠ってもらってる。偵察っていい仕事だね。飽きない」
空が押し入れの爺を必死で起こしているのをチラリと見たあと、翠は小声で蒼に耳打ちした。
「兄さん、空が可愛いのは解るけど、風呂場ではだめだよ。浪漫がない。しかし……綺麗だな空は。あんな綺麗な生き物が世に居るとはね」
クッと笑うと、爺は翠の姿に薄い煙と共に変化した。空は、押し入れに走り眠る爺を呼ながら揺り起こしている。
「家督なら、くれてやる。お前が当主にでもなればいい」
「そんなもの、いらない。初めて、欲しいものができたんだ」
目覚めた爺を空は抱きしめていた。
「大丈夫?痛くない?爺やさん」
「面目ありませぬ、空様」
振り返り、心配そうに爺の頬を撫でる空を見て翠は笑う。
「眠りのつぼをついただけ。何の問題もないよ。あと半時も寝たら元通りだか……」
空は翠に早足で歩みより、思いっきり空は翠の頬を張り、涙をためた目で睨み付けた。
「やっていいことと、悪いことの区別もつかないの?謝りなさい!爺やさんに、蒼様に!」
「な、何で、僕が。お前に何の権利がある!」
「許婿として。僕は貴方にとってお義兄さんになる!」
一瞬の傷ついた表情を、蒼は見逃さなかった。爺は部屋の隅で布団と毛布に絡まり、うとうととしている。
「解ったよ、悪かったよ」
思いっきり舌打ちし、翠は言う。
「ごめん、兄さん、空。爺やさんにも僕が謝ってたって伝えて」
すっと、空の手が翠の頬にのばされた。冷たい手だと翠は感じた。あんなに乱れて白い身体を桃色に染めていたのに……。空に触れられ翠の頬の痛みは消えた。けれど、胸の痛みは消えてくれない。絶対に手に入らないもの。
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