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毒の仕業〖第24話〗──②
しおりを挟む空は蒼の見たこともない冷たい声と顔に怯えながら、身体を起こし、しがみついた。
「仕返しなんか、だめだよ。僕は元気だし、お夕飯も楽しみだよ。いきなり来た僕も悪かったんだよ。そうにいちゃんの家のひとだもの、信じなくちゃ。黒い硝子で見たら皆が黒く見える。僕はただ、そうにいちゃんが好きなだけだって、珠合わせと祝言をあげに来ただけだって、信じて欲しいから。そうにいちゃんは僕と祝言をあげて『当主』になりたいの?」
「『祝言をあげて当主になる』最善だが、こんなことがあるなら、当主なんていらない。空がいればいい……解った。犯人捜しはやめるよ」
空を抱きしめるといつもの柔らかな甘い匂いがした。胸に抱き髪を撫でる。そっと蒼の背中を這う細い指。犯人を半殺しにしたい気持ちだったのに気分が凪いでいくのが解る。
多分翠の所の養育係の差し金だ。
「空様、お湯の準備ができています。薬効の強い野草をいれております。お湯にお入りくだされ。一応先程のことも」
「お風呂は、何処にあるの?」
「部屋の奥の引き戸を入ったらすぐに。若様と楽しんできてくだされ」
ありがとう、先にお湯をいただきます。そう言いパタリと戸が閉まる音が聞こえた。
蒼は顔が音をたてるように赤くなるのを感じた。遊ぶ分には、蒼は遊んだ方だ。後腐れなくただ一夜を共にした相手など男でも女でも掃いて捨てるほどいる。
今あるのは、空だから抱きたい。あの綺麗な白い肌を重ねたい。悩ましく喘ぐ声を聞きたい。清廉な少女のような空を自分との閨の時だけ艶かしい美女のように変えてしまいたい。
「それと、ご依頼の件、空様への『あっち』の講義と要は閨の講義です。一応生々しい話もきちんと教えましたゆえ。最終的には悪いことでも、怖がることでもないと。若様といるときは素直に自分の気持ちを伝え、状態を言い、身を任せればよいと」
「すまない……自分では、どうしても……」
蒼は真っ赤な顔で俯いた。
「そんなものです。ささ、お湯にでもつかって空様をいたわって、仲直りしてきてくだされ。空様は何処か不安なご様子です」
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