宿命の星〖完結〗

顛末と黒幕〖第46話〗

「先代を訪ねてきた術師だ！」

「無理やり薬草を売りつけた、あの術師か」

「先代を探せ！あの術師は縛り上げておけ！自害はさせるな！」

    断末魔の苦しみに悲鳴をあげながら、術師は悶え苦しむ。

「とどめをさしてやりたそうな顔つきに見えるよ、そうにいちゃん」

   チラリと大きな目が蒼を見る。冷笑を浮かべる空のこんなに冷たい底冷えするような顔をみたのは初めてだった。蒼は、

「まさか。そこまで、優しくはない」

    蒼は暗く下を向き口の端をあげた。しかし、この術師、何処かで見た顔だ。と二人でまじまじと見る。

「そうにいちゃん、あの『神降り』しちゃったときの叔父さんの棟にいたよ！挨拶回りで訪ねたとき、手土産を渡した従者さんだ！今まで苦しませるだけ苦しめて、そうにいちゃんがいる目の前であきにいちゃんを殺す気だったんだ！許せない！」

「どこまで腐っているんだ。俺と暁が幼なじみなのを知っていて。ここまでするか？ここまで………！暁は関係ないだろう………！それに、ことの次第では狛井家と獅子尾家の溝になりかねない。それに叔父上がどんなでっち上げをするか検討もつかない。舌を抜くか。焼き切るか？」

「沈黙の鎖を胸に」

「山神さまの、人間に打つようなものか？」

    そう言うとニコリと空は笑った。無垢な子供の残酷さに似た、美しい微笑みに見惚れる。術師の胸に、空は手のひらを当てた。

『全ての言葉を発するなかれ。自害も法度。術も法度。他害も法度！』

他人への情報伝達手段はない。

自害も出来ない。

術も使えない。

他人を傷つけることも。

このまま死ぬまで術返しで悶え苦しむだけ。

　背いたら見えない術の鎖が心臓を徐々に時間をかけて締めつけ、最後には鎖が心臓を握り潰す。

　鎖の術を言い放った瞬間、空は脱力し足元がおぼつかなくなったので、先に暁の部屋に居るように言った。

    星影の知らせを受け、暁の家の者に屋根裏を見てもらうと、暁の父は暁の部屋の屋根裏に縛り上げられていた。ただの紐ではなく、術がかけてある解けないようにされていた特殊なものだった。

　あまりにも残酷なことをする。息子が苦しみ息絶える様を、天井裏で見ているしか出来ない。そして、自分は暁が亡くなれば、消されるか、濡れ衣か。暁の親父さんは衰弱していたが命には別状はないそうだ。ホッとし、暁の部屋に急ぎ足で向かう。

    傷だらけだった暁の身体は包帯が巻かれていた。暁の父に化けた術師が伝染る病かもしれないと触れ回った為、ここずっと独り、家族にも会えず、まともに食事もなかったと暁は言う。少しやつれたが顔色は思ったよりいい。空は布団をのべてもらい休んでいる。

「蒼、空は強い術を使ったみたいだな、疲れた顔してるから休んでろって言った。流石にお前の愛しの花婿に俺の布団では寝せられないからな。今日はありがとな。まさか病が術で、術師が親父に化けてたなんて。しかも、真上にいたなんて……。親父……。こんな中でごめんな、婚姻の挨拶に来たんだろ？おめでとう。空も蒼も………助けてくれてありがとな」

    何も出来なかった。術と解っても、それを返すなんて自分には出来ない。

「俺、何にも出来なかった。お前に声をかけるしか、出来なかった……すまない」

    蒼の目から、涙が溢れた。

「馬鹿だな。『しっかりしろ』って聴こえた。戻ってこれた。ありがとな。感謝してるよ」

    暁の言葉にほっとして、みっともないくらいボロボロ泣いた。暁も『大袈裟だなあ』と笑いながら泣いていた。

「お前と空に。獅子尾家からの品だ」

『結婚指輪』っていうものだ。なくすなよ。と渡されたビロードの紫の小箱。開けてみると二つの綺麗な大きな宝石のついた指輪があった。

「指回りがおっきいのが蒼。ちっちゃいのが空。石の大きさは同じ。左手の薬指につけるみたいだ。指輪をお互いにつけてやる儀式が外にはあるんだとさ。この石は『ぶらっくおぱある』っていう石らしい。星空みたいだろ」

    澄んだ空気の夜空に様々な色の星が煌めくようだと思った。綺麗だ。