僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
53 / 115

花開く〖第26話〗──①*

しおりを挟む

    傷だらけなのは空の方だ。自分よりも五歳も小さくて、生きる上で沢山の制約と不自由とつらい思いをしてきたはずなのに。

『忌み子』と
『穢れた巫女』と

自分だけでなく、大切な母親まで踏みにじられてきた。

    自分は………結局は温室育ちだ。でも、根づいてしまった劣等感、卑屈な心、猜疑心、穢い毛並みは消えない。

『珠合わせのために、隠し事はするな』

といわれている。自嘲したくなる。こんな自分、誰も愛さない。自分ですら愛せないのだから。

「そうにいちゃんが嫌になったことはないか?空」

    ふふっと空は笑う。

「無いよ。ずっと好きだよ。嫌いになることがあったら、好きだからだよ。ずっと好きだよ。何があっても。小さいときにも言ったよ『ずっと好き』って。僕、そうにいちゃんの手、好き。さらっとして、大きくて。触れられたところに熱が集まるんだよ」

    色のある微笑みは蒼の理性を壊していく。

「空の黒いつやのある髪は変わらないな」

「おじさん……山神さまが切ってくれるの」

「空、ここのところずっと疲れてないか?そうにいちゃんに怪我させられて、薬を盛られて」

「大丈夫。あ、指が動く。治ったみたい」
   
ふふっと笑う空の後ろから抱きしめて蒼は言う。理性なんて、もう欠片もない。

「……このお風呂は北の外れにある。誰にも聴こえない。爺にも聴こえないよ。そうにいちゃんは、空に口づけがしたい、空は?」

「ぼ、僕に……口づけて、そうにいちゃん」

   頬を染める空に、口づけた。深く舌を絡ませ味わうような、濃い溶けるようなもの。

「『あいしてる』って言ってくれないか?空」

「そうにいちゃん、あいしてるよ。ずっとあいしてるよ。……どうして泣いてるの?泣かないで。不思議だね。今日はそうにいちゃんが泣いてばかり。どうして?」

「泣いてる……?本当だ。不思議だな。しあわせだからかな」

   鼓膜に絡む、声。何度も口づける。空は甘えた仔猫のような可愛らしい息継ぎをする。唇を離すと、

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

処理中です...