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《第1話》奏という存在、ドクターという存在。
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注意書き⚠
『オメガバース』
とありますが、この作品には
『世界観』
とα、β、Ω、の特性は逐一出ては来ますが、
『αとΩの恋愛模様を描く』 というようなものは出てきません。
(最初のうちは…のちにベタに出てきます)
特殊な『力』を持った美少年が、主人公となります。
また、オリジナル設定として
*αには『圧』(プレッシャー)という力があるという設定があります(Ω対策αフェロモン抑制剤。通常薬系は効きません)
α同士の個体としての力の優位性です。 自分より強いαの『圧』をうけると精神的にダメージを受けます。廃人になる人もいます。
怒りの感情などで無意識に相手に『圧』をかけてしまう場合もあります。
*Ωは本能的にαの力が強いαに惹かれ、妊娠しやすくなります。
*男性Ωで、生まれつき繁殖能力の弱いものがいます。その場合普通にαと行為をしても、妊娠しません。
妊娠の可能性があるとすればαの力の強さです。
強いαとの行為程、妊娠しやすくなります。 以上を踏まえて 宜しければ、どうぞ! ────────────────
「ドクター、もう帰るの?」
栗色の長い髪が真っ白なシーツに豊かな曲線を描く。簡素なベッドライトが二つの影を作る。
粗末なベッドと夥しい本しかない、薄暗い部屋。
窓もない。
情事の後か、軽く乱れた呼吸の中、整った造作の長い髪の少年はベッドに腰かける『ドクター』の少し細い背中を見つめる。
少年は慣れたようすで身支度を始める綺麗な男を『ドクター』と呼ぶ。
真っ白い壁で時計すらない。
時間はもちろん季節さえ存在しない部屋。
勿論ドクターに名前など、存在しない。
実際少年は自分と情事を重ねたドクターの名前など知らない。
だから『ドクター』は
『ドクター』だ。
昔、名前を知りたくてしつこく訊いたが、ドクターが悲しそうな顔をするので、やめた。だから、『ドクター』でいい。
『ドクター』と呼べば男は振り向き少年に微笑んでくれる。それで少年は充分だった。
少年はその冷たい印象を与えるほどの綺麗な男に「キスして」とだけ言った。
「困った子だね」 とだけ言いドクターは少年に口づける。
長く絡むように少年とドクターは口唇を重ねた。
少年の腕はドクターの首が定位置のように回される。
口唇を離すと、ドクターは白いシャツを直しながら、少し声を固くして言った。
「一学期の全校集会の後、迎えに来る。今度の『仕事』もいつもと同じことをすればいい。Ω(オメガ)とα(アルファ)の人数がいつもより多いから疲れると思う。しかも抑制剤の薬漬けだ。『力』は、かなり使うと思うが──ちなみに転入先のクラスはαの特別コースだ」
「うん。それで、また寮生活?ドクターがいないとつまんないよ。だって皆バカなんだもん。先生も。やんなっちゃう。量子力学も解んないんだよ。適当にまた遊ぼうかな。αは後腐れないし、どうせ、始末するんでしょ?」
ちらりと甘えるように少年はドクターに視線を送る。
大きな、睫毛の長い、虹彩が薄い茶色の瞳は、一回り以上年の離れて見えるドクターを真っ直ぐ見つめる。
けれど、大人びたことを言っても、少年の瞳は濡れていて、ドクターに必死で『帰らないで』と言っているようだった。ドクターは苦笑して、
「本当に、困った子だ。程々に遊びなさい」
と、少年の悲しい瞳を無視した。
「派手に遊んだら、叱りに来てくれる?」
「いい子にしていたら、褒めに行くよ。一学期が終わったら少し休もう。何処に行きたい?」
「海へ行こうよ、ドクター」
「奏の好きな遊びをしよう」
「ずっと、ドクターとベッドに居たい」
ドクターは苦笑する。
「ああ、一日中、抱いてあげるよ」
「こんな風に?」
少年はドクターの手を取り、指を口に運ぶ。
まるでキャンディーを食べるように舌で繊細な白い指を転がし、媚態を作り、上目遣いでドクターを見つめる。
「敵わないね、奏には」
と言い、ドクターは少年──奏に口づけた。奏は嬉しそうに笑いながら無垢な瞳でドクターの与える愛撫を受け入れる。
這う舌、胸を滑る手の平、口づけを交わし熱い吐息を絡ませる。
なんのてらいも、恥じらいもなくドクターの身体を受け入れる。
奏は一連の行為は特別とは思っていない。
ただ、ドクターが好きで、快楽も好き。
それだけ。けれど、奏がこの行為で幸福感を感じるのは、ドクターに抱かれている時だけ。
遊びはただの遊びだ。
身体は瞬間満たされるが心は渇いていく。
奏の『遊び』は感情もなく、ただ行為により快楽を得る。
もしくは他人の感情をもてあそび、捨てる、精神的な嗜虐の遊び。
奏が感情が激しく揺れ動かされるのは、ドクターに関することだけだ。
───────────────────
ドクターが奏に与えたいのは不安定な奏の精神を安定に誘導するための肯定の言葉。それと思考が霞むほどの快楽。
きっと身体を重ねる間は奏は何も考えない。
それでいい。全て忘れてしまえれば良いのに、ドクターはいつも思う。
全て無かったことに。
今までのことは無かったことに。
過ぎたことはなかったことにしてあげたい。
最初の『仕事』の時は、あまりの奏の精神的ダメージに、研究所に居た今までの過去も、『仕事』で見た惨状も、ドクター自身の存在の記憶も、全て記憶から消すことを考え、それが奏の為になると思ってドクターは告げたこともある。
記憶の消去を受け入れると思っていた。
しかし、まだ幼さを残す奏の答えは違かった。
吐いて、胃液まで吐きながらも、ドクターを忘れることを拒否した。
今は『仕事』の後の、無惨な狂乱の風景を猫の痴話喧嘩程度しか思っていないようにドクターには見える。
前回の仕事の時もその気色悪い風景を笑いながらドクターにつぶさに話した。
罪も罰も自分が背負う。そうドクターは思い泣きたくなる。
こんなことはさせたくない。
研究所は狡猾だ。
そして、九条財閥も。
奏を連れて逃げ出したいが何をされるか解らない。
奏はただ従っただけだ。
我儘で、自分勝手な権力をもつ大人達の事情に利用されているだけだ。
奏はどう考えているかは解らないが、多分この様子だと自分がしていることに罪悪感は感じてはいないだろうと、ドクターには思えた。
もう、初めて『仕事』した頃の奏とは違う。それで良いはずなのに、何処か、つらい。
───────────────────
壊れたのか 考えることをやめたのか それとも何も感じなくなったのか、 善悪の基準すら解らなくなったのか──
──多分、仕事をするうち壊れていった。そして、ここでの洗脳的な教育。
ドクター自体αとΩの差別主義だった。
昔、研究所で実験用に飼っていた金魚が目の前で馬鹿な研究員に殺されてショックをうけて泣きに泣いて、その日の夕飯を食べられず、無理に食べ、吐いたことがあった。
今はただ淡々と奏は『仕事』をこなす。 いつか言っていた
『運命は受け入れる』
と。 それでも昔のような奏には会える。 動植物には愛着を示す。
それらに接する奏は、穏やかなあの日のままだ。
それでいいとドクターは、はしたなく足を開き、足先を痙攣させながら喘ぐ奏の下肢の間に顔を埋めながら、思う。
奏には酷な仕事をさせてきた。だからこそドクターは思わずにはいられない。
『罪』を『罪』と感じていなければ良い。 ずっと、そうあって欲しいとドクターは望む。
罪悪感など、要らない。
あったらあまりにも、むごい。
ドクターは奏の精神が、もう『破綻』していることを望んだ。
永遠の子供のような。
『通常』とよばれる精神なら、これからを生きてはいけない。
真っ正面から全てを受け止めるには奏の精神は脆く、弱すぎる。
熱に浮かされる大きな瞳を悲しく見据え、ドクターは加速度を増し身体を奏に打ち付ける。
何度も奏は『ドクター』と呼ぶ。背に手を回し、離れるのを怖がるように、奏はドクターを、ドクターも、奏の名前を繰り返す。
「奏、愛してるよ、奏──愛して、いるんだ………」
愛しい奏。
悲しい奏。
粗末なベッドライトが作る大きな影。 いつしか眠りにつく奏を見つめ俯くそれは、愛し方を間違った、醜い自分だと、ドクターは思った。 ─────────《第2話》へ
『オメガバース』
とありますが、この作品には
『世界観』
とα、β、Ω、の特性は逐一出ては来ますが、
『αとΩの恋愛模様を描く』 というようなものは出てきません。
(最初のうちは…のちにベタに出てきます)
特殊な『力』を持った美少年が、主人公となります。
また、オリジナル設定として
*αには『圧』(プレッシャー)という力があるという設定があります(Ω対策αフェロモン抑制剤。通常薬系は効きません)
α同士の個体としての力の優位性です。 自分より強いαの『圧』をうけると精神的にダメージを受けます。廃人になる人もいます。
怒りの感情などで無意識に相手に『圧』をかけてしまう場合もあります。
*Ωは本能的にαの力が強いαに惹かれ、妊娠しやすくなります。
*男性Ωで、生まれつき繁殖能力の弱いものがいます。その場合普通にαと行為をしても、妊娠しません。
妊娠の可能性があるとすればαの力の強さです。
強いαとの行為程、妊娠しやすくなります。 以上を踏まえて 宜しければ、どうぞ! ────────────────
「ドクター、もう帰るの?」
栗色の長い髪が真っ白なシーツに豊かな曲線を描く。簡素なベッドライトが二つの影を作る。
粗末なベッドと夥しい本しかない、薄暗い部屋。
窓もない。
情事の後か、軽く乱れた呼吸の中、整った造作の長い髪の少年はベッドに腰かける『ドクター』の少し細い背中を見つめる。
少年は慣れたようすで身支度を始める綺麗な男を『ドクター』と呼ぶ。
真っ白い壁で時計すらない。
時間はもちろん季節さえ存在しない部屋。
勿論ドクターに名前など、存在しない。
実際少年は自分と情事を重ねたドクターの名前など知らない。
だから『ドクター』は
『ドクター』だ。
昔、名前を知りたくてしつこく訊いたが、ドクターが悲しそうな顔をするので、やめた。だから、『ドクター』でいい。
『ドクター』と呼べば男は振り向き少年に微笑んでくれる。それで少年は充分だった。
少年はその冷たい印象を与えるほどの綺麗な男に「キスして」とだけ言った。
「困った子だね」 とだけ言いドクターは少年に口づける。
長く絡むように少年とドクターは口唇を重ねた。
少年の腕はドクターの首が定位置のように回される。
口唇を離すと、ドクターは白いシャツを直しながら、少し声を固くして言った。
「一学期の全校集会の後、迎えに来る。今度の『仕事』もいつもと同じことをすればいい。Ω(オメガ)とα(アルファ)の人数がいつもより多いから疲れると思う。しかも抑制剤の薬漬けだ。『力』は、かなり使うと思うが──ちなみに転入先のクラスはαの特別コースだ」
「うん。それで、また寮生活?ドクターがいないとつまんないよ。だって皆バカなんだもん。先生も。やんなっちゃう。量子力学も解んないんだよ。適当にまた遊ぼうかな。αは後腐れないし、どうせ、始末するんでしょ?」
ちらりと甘えるように少年はドクターに視線を送る。
大きな、睫毛の長い、虹彩が薄い茶色の瞳は、一回り以上年の離れて見えるドクターを真っ直ぐ見つめる。
けれど、大人びたことを言っても、少年の瞳は濡れていて、ドクターに必死で『帰らないで』と言っているようだった。ドクターは苦笑して、
「本当に、困った子だ。程々に遊びなさい」
と、少年の悲しい瞳を無視した。
「派手に遊んだら、叱りに来てくれる?」
「いい子にしていたら、褒めに行くよ。一学期が終わったら少し休もう。何処に行きたい?」
「海へ行こうよ、ドクター」
「奏の好きな遊びをしよう」
「ずっと、ドクターとベッドに居たい」
ドクターは苦笑する。
「ああ、一日中、抱いてあげるよ」
「こんな風に?」
少年はドクターの手を取り、指を口に運ぶ。
まるでキャンディーを食べるように舌で繊細な白い指を転がし、媚態を作り、上目遣いでドクターを見つめる。
「敵わないね、奏には」
と言い、ドクターは少年──奏に口づけた。奏は嬉しそうに笑いながら無垢な瞳でドクターの与える愛撫を受け入れる。
這う舌、胸を滑る手の平、口づけを交わし熱い吐息を絡ませる。
なんのてらいも、恥じらいもなくドクターの身体を受け入れる。
奏は一連の行為は特別とは思っていない。
ただ、ドクターが好きで、快楽も好き。
それだけ。けれど、奏がこの行為で幸福感を感じるのは、ドクターに抱かれている時だけ。
遊びはただの遊びだ。
身体は瞬間満たされるが心は渇いていく。
奏の『遊び』は感情もなく、ただ行為により快楽を得る。
もしくは他人の感情をもてあそび、捨てる、精神的な嗜虐の遊び。
奏が感情が激しく揺れ動かされるのは、ドクターに関することだけだ。
───────────────────
ドクターが奏に与えたいのは不安定な奏の精神を安定に誘導するための肯定の言葉。それと思考が霞むほどの快楽。
きっと身体を重ねる間は奏は何も考えない。
それでいい。全て忘れてしまえれば良いのに、ドクターはいつも思う。
全て無かったことに。
今までのことは無かったことに。
過ぎたことはなかったことにしてあげたい。
最初の『仕事』の時は、あまりの奏の精神的ダメージに、研究所に居た今までの過去も、『仕事』で見た惨状も、ドクター自身の存在の記憶も、全て記憶から消すことを考え、それが奏の為になると思ってドクターは告げたこともある。
記憶の消去を受け入れると思っていた。
しかし、まだ幼さを残す奏の答えは違かった。
吐いて、胃液まで吐きながらも、ドクターを忘れることを拒否した。
今は『仕事』の後の、無惨な狂乱の風景を猫の痴話喧嘩程度しか思っていないようにドクターには見える。
前回の仕事の時もその気色悪い風景を笑いながらドクターにつぶさに話した。
罪も罰も自分が背負う。そうドクターは思い泣きたくなる。
こんなことはさせたくない。
研究所は狡猾だ。
そして、九条財閥も。
奏を連れて逃げ出したいが何をされるか解らない。
奏はただ従っただけだ。
我儘で、自分勝手な権力をもつ大人達の事情に利用されているだけだ。
奏はどう考えているかは解らないが、多分この様子だと自分がしていることに罪悪感は感じてはいないだろうと、ドクターには思えた。
もう、初めて『仕事』した頃の奏とは違う。それで良いはずなのに、何処か、つらい。
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壊れたのか 考えることをやめたのか それとも何も感じなくなったのか、 善悪の基準すら解らなくなったのか──
──多分、仕事をするうち壊れていった。そして、ここでの洗脳的な教育。
ドクター自体αとΩの差別主義だった。
昔、研究所で実験用に飼っていた金魚が目の前で馬鹿な研究員に殺されてショックをうけて泣きに泣いて、その日の夕飯を食べられず、無理に食べ、吐いたことがあった。
今はただ淡々と奏は『仕事』をこなす。 いつか言っていた
『運命は受け入れる』
と。 それでも昔のような奏には会える。 動植物には愛着を示す。
それらに接する奏は、穏やかなあの日のままだ。
それでいいとドクターは、はしたなく足を開き、足先を痙攣させながら喘ぐ奏の下肢の間に顔を埋めながら、思う。
奏には酷な仕事をさせてきた。だからこそドクターは思わずにはいられない。
『罪』を『罪』と感じていなければ良い。 ずっと、そうあって欲しいとドクターは望む。
罪悪感など、要らない。
あったらあまりにも、むごい。
ドクターは奏の精神が、もう『破綻』していることを望んだ。
永遠の子供のような。
『通常』とよばれる精神なら、これからを生きてはいけない。
真っ正面から全てを受け止めるには奏の精神は脆く、弱すぎる。
熱に浮かされる大きな瞳を悲しく見据え、ドクターは加速度を増し身体を奏に打ち付ける。
何度も奏は『ドクター』と呼ぶ。背に手を回し、離れるのを怖がるように、奏はドクターを、ドクターも、奏の名前を繰り返す。
「奏、愛してるよ、奏──愛して、いるんだ………」
愛しい奏。
悲しい奏。
粗末なベッドライトが作る大きな影。 いつしか眠りにつく奏を見つめ俯くそれは、愛し方を間違った、醜い自分だと、ドクターは思った。 ─────────《第2話》へ
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