73 / 78
〖第72話〗朱鷺side③~回想~
しおりを挟む急に自分が汚いものに思えて血が滲むほど身体をかきむしることがあったりしました。
急に先生との『行為』の最中、涙が止まらなくなったりしました。
先生は僕の壊れていく過程を見ていた。これ以上は駄目だと、僕が本当に後戻り出来ない所まで来ている思ったんだと思います。
幼い僕はそんなことは解らなかった。
僕は独りが嫌だった。先生は一瞬黙ってから、
『嫌いだよ』
と言いました。そして、
『嫌いだからこういうことをするんだ』
と言って僕を床に強引に押し倒しました。いつもみたいに我慢すればいい、と思っていました。
でも実際は違かった。その日の先生は乱暴に、僕を人形のように、感情もなく犯しました。痛くて、つらくて、悲しかった。
『私のことは忘れて欲しい。君の記憶に残りたくない。最後のトローチだ。最後のひとつだ。忘れなさい』
『嫌だ』
僕がそう返すと
『──こんなに酷いことを、痛くてつらい思いをさせたのに?レッスンの度に酷いことをしたのに?』
泣きながら先生は僕を見つめました。僕は、
『先生を忘れたくないよ。病気だからでしょ?早く治して一緒にいようよ。オムライス作ってよ。気持ち悪いのも、怖いのも我慢するから、独りにしないで』
と床に突っ伏して泣きじゃくりました。
『じゃあ、私が食べる。君のことを、全部忘れる』
先生はトローチを自分の口の中に放り込みました。砕けるトローチの音は、あの時に僕にと世界が終わるような音でした。
『返して、食べちゃだめ!先生、僕を忘れないで』
泣き叫びました。今となればトローチで忘れられるはずはないとは解っています。でも、あの時の僕にはトローチは魔法でした。
『嘘つき!返して!それは僕のだ!僕にもちょうだい!トローチちょうだい!』
と僕は泣きながらメトロノームで先生を殴りました。
先生は、笑ってた。幸せそうに微笑んで、息をきらせた僕が血まみれのメトロノームを放り投げると優しく僕を抱きしめて、
『ありがとう』と言いました。
先生に抱きしめられたのは、これが初めてでした。そして、最後でした。
──それが、僕が覚えている全てです。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる