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〖第62話〗朱鷺side③
しおりを挟む片方の指も絡める。先輩の大きな手。僕を気づかう様子を見せる、冷たい先輩の手も震えていた。
「先輩、震えてますよ?」
「──好きで好きで、仕方がない相手を抱くんだ。もう、二度と触れられないと思ってた」
うなじに顔を埋めながら先輩は器用に僕のシャツのボタンを外す。大きな水のような手。だんだん先輩の肌から伝わる熱も上がっていく。
「好きだよ。朱鷺くん」
そう言い先輩は熟知しているかのように僕の弱点を、丁寧に手や舌や唇で弄ぶ。緊張による震えはいつしか快感を訴える痙攣に変わる。先輩が触れる事で僕のパーツは意味をなす。恥ずかしげもなく、僕は甘い声を出して先輩の愛撫を求めた。
「──朱鷺くん。身体を楽にして。怖がらないで」
この前のことが頭をよぎる。この冷たい手で、無理やり酷いことを──先生と同じ事をされたと。
「朱鷺くん?」
「大丈夫です。先輩、大丈夫だからやめないで」
先輩はそっと額に口づけて言った。
「ごめんね。こんなに震えてる。手も俺より冷たい。怖かったね。──もうやめよう──朱鷺くん。ごめんね」
最後の『ごめん』はこの前のことだと、すぐ解った。温度が──冷めていく。先輩の手も、だんだんといつものように冷えていく。瞳の熱量も。僕は身体を離そうとする先輩の首に腕を絡め、熱の残る目で先輩を見つめて言った。
「先輩、『して』。無理やりにでもいいから。先輩以外何にも考えられないようにして。震えていても、泣いても無視して。僕を抱いて──お願い」
先輩は僕に口づけた。荒く、長く、絡ませる。
「──朱鷺くん」
僕の慣らされた身体は先輩を中に許す。快感が頭を貫く。身体が熱い。思わず甲高い声が出て、僕は思わず手で口を押さえる。自分の口からこんな声が出るとは思わなかった。
先輩は僕を丁寧に扱う。この前みたいな痛みはなかった。だんだんと強い快感が僕を支配する。
思考はぼやけるのに、感覚は鋭敏になる。先輩が動く度に、甘えた猫みたいな出したことがない声が出る。恥ずかしくてたまらなくて、僕は口を塞ぐ。
先輩は微笑みながら息を切らせ、僕を見つめる。僕は先輩から顔を背ける。見ないで欲しい。きっと僕は、みっともない顔をしている。先輩は耳元で『可愛いよ。朱鷺くん』と囁き、優しく手を添え甘く口づけた。
「朱鷺くん。声、きかせて。それとこっち向いて。乱れた君の顔が見たい」
僕はおそるおそる先輩と向かい合う。先輩の熱っぽい目にぶつかる。初めて見る顔だった。切なそうに僕だけを見る表情。僕と目が合うと先輩は嬉しそうに目を細めた。
僕は今どんな顔をしているんだろう。今、この時間、空間、身体、全てが先輩と抱き合うためだけに存在している。
すべて、いとおしくて、全てが怖い。
これが夢なら、醒めた僕は生きてはいけない。
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