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〖第37話〗瀬川side
しおりを挟む遠ざかっていく、靴音。鷹に襟首を捕まれ揺さぶられる。
「このバカ!追いかけろ、瀬川!早く追いかけろよ!合鍵を返されるって意味、解ってんのか?あいつは、お前との関係は『終わりだ』って言ってんだぞ!」
鷹に襟首を掴んだ手を乱暴に突き飛ばされた。俺は言葉がでなかった。
こんなに、呆気なく終わってしまうものなのか。
泣きそうな顔をこらえて微笑む朱鷺の顔が浮かぶ。確かに『最後』と言っていた。声が震えた。
「あ、あんなこと言うつもりじゃなかった。『可愛くなったね。ただ、君があんまり可愛いから他の奴がちょっかいだしそうで不安になるよ』と笑って言いたかった。あんな顔を──笑いながら泣く顔をさせるつもりじゃなかった。言うつもりのない言葉だけが、すらすら出てくるんだ。言うべきではない言葉も。朱鷺は俺に失望しただろ。だめだ、行けない。拒まれたら?本当に終わりを告げられたら?どうすればいい?どうすれば──」
俺は額に右手を当てる。鷹がため息を一つはいた。
「お前、肝心なところで自信がまるで無いのな。普段自信たっぷりなのに。
今まで散々遊んできたくせに、本命が出来て遊びをやめたと思ったら、すんげぇ焼きもちやきで、根っこのところ臆病。
で、自信ゼロ。とりあえず追いかけろよ、早く」
「……あれだけ傷つける言葉を言ったんだ。俺だったら会いたくない」
「じゃあ、何で言うんだよ。病院んときと一緒か?あの後電話かけてきたよな。
あのときは間に合ったけど、これは最後通達だ。今行かなきゃ間に合わねぇぞ、早くしろよ!」
黙りこむ俺に鷹が言った。
「……俺が行く。あいつ今頃、泣いてる。慰めてやらないと可哀想だ」
俺は鷹の腕をつかんで訊いた。
「鷹、お前にとって朱鷺は何なんだ?」
「特別。じゃあな瀬川」
[[rb:縋 > すが]]るように[[rb:掴 > つか]]んだ俺の手を振りほどき鷹が部屋から消える。一気に部屋が静かになる。
鷹の後ろから顔を表した朱鷺は本当に可愛かった。つい見とれるくらい可愛らしくて、鷹がいなければ抱きしめていた。
あんな態度をとって、簡単に彼を無くしてしまった。
鷹はきっと朱鷺のことが好きだ。ずっと見てきた相手だ。だてに十年片想いをしていた訳じゃない。すぐ解る。温かい目をしている。
好きな奴には見守って包むように接するのが鷹のやり方だ。
──間に合わなくなる。俺が朱鷺なら鷹を選ぶ。
俺はコートと鍵と財布を手に、部屋を飛び出した。ポツポツと雨が降りだした。
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