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〖第34話〗朱鷺side④
しおりを挟む「鷹ちゃん!久しぶり。鷹ちゃんに言われてダメって言えませんよ。それにキャンセル入って本当に大丈夫」
「この子、あんまり切らずにイメージ変えられないかな?」
「私としてはストレートパーマかけて切ったらガラッと変わると思う。素材としてはすごくいい」
鏡の中の僕を二人は珍しい生き物を見るかのように見る。
「た、鷹さん、僕、誰かに触られるの怖いんです。だから、いいです」
高橋さんはじっと鏡の中の僕の目をみて言った。
「触れないように、軽く揃えてあげるだけ。安心して」
ショートカットの凛々しい女性。にっこり笑うと覗く白い歯。どうしてか、この人の期待を裏切りたくなかった。
「………お願いします」
それしか言えなかった。
最初は、背中に虫でも入れられたような不快感しかなかった。
でも次第に慣れて、つぶってた目を開いて膝に置いた手を見るくらいの余裕は出来た。
パラパラと少量の髪が床に散っていく音がした。自分の嫌いだった部分が切り落とされていくようだった。
「出来ましたよ。長さはあんまり変えずに軽くしてイメージを変えてみました。良く見て。すごく素敵。アンティークドールみたい」
ずっと手を見ていた視線を上にあげ、おそるおそる鏡と目を合わせる。
怖いくらいに、いつもとは違う自分がいた。
「鷹ちゃん来てみて」
白いソファに座っていた鷹さんが立ち上がり、僕を見て目を見張る。
「駄目、ですか?」
鷹さんは首を振り笑ってずっと
「可愛いぞ。少し切っただけでこんなに変わるんだな。可愛い。可愛い」
と笑いながらずっと褒めてくれた。
頭をくしゃくしゃっといつものように鷹さんは撫でてくれようとした。そこに、
「セットしてあるからさわっちゃ駄目」
と高橋さんの言葉が入った。楽しそうに高橋さんは言う。
「ベタ甘ね。鷹ちゃんの恋人なの?確かに本気で綺麗な子だけど」
「朱鷺は俺の特別だから」
「じゃあ、手は出せないわ。残念」
そう言い二人は笑っていた。何だか不思議な気分だった。
心なしか気分が軽い。夜の街。辺りがキラキラしていて苦手だった。前は景色にすら気後れしてあまり楽しめなかった。
今は少し違う。ちゃんと景色を楽しめる。
「瀬川もびっくりすんだろうな。自分の恋人がこんなに可愛くなってるんだなんてなぁ」
「そう、ですか?」
鷹さんに手放しで褒められて、嬉しくて、少し恥ずかしくて、むずがゆい。
これであの視線──先輩と二人で歩くと痛いほど感じた視線。
先輩を見てからの、僕を見る少し嘲笑が入ったような、あの視線──も受けずにすむんだろうか。
「瀬川んとこ寄ってくか」
「はい」
タクシーをつかまえ、あっという間に見慣れた風景にたどり着く。
僕は合鍵は使わず、玄関で先輩の声を聞く。
「俺だ、上げてくれ。凄く良いもん持ってきた」
「今、開ける」
ガラスの扉が開く。久しぶりの七〇二号室。
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