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ジキタリスの花
〖第4話〗
しおりを挟む廊下を歩く姿。第一印象は、別格と言えるほどの綺麗な顔をしているけれど冷たそうなひと。
熱い視線を送り甘ったるい声を出す女子達を一瞥するのを何回も見た。皆が見る。そしてそこに居るだけで人の目を引くって、凄いな。と思った。
歩くだけなのに皆が振り返る。羨望の視線、好意の視線、色んな感情が先輩に取り憑きそうだと思えた。
陸上部の顧問の先生がノロウイルスにやられた間、部活は少し滞った。地獄のノルマのようなメニューを早々にこなし、美術室へ向かう。
ここずっと、美術部でもないのに美術室に足しげく通っている。
正確には窓越しから、ある絵を見るため。この前、不思議な花の絵を見てからだ。見たこともない花。ただ、そのキャンバスと呼ぶには小さい枠の中に閉じ込められた花がどうしても気になった。
「ジキタリスに興味があるの?」
後ろを振り返ると佐伯先輩が居た。いつの間にか陽が斜めに差し、先輩の白い綺麗な顔を、より綺麗に浮かび上がらせていた。
ちらりとネームプレートを見る。
『三年八組 佐伯光宏』
漢字まで何だかお洒落だ。「雲の上の人」と、クラスの女子が言っていたが、成程と、ひとり納得した。
「絵が好きなの?」
「あの、絵が…不思議な花の絵が、気になって………」
緊張する。何でこのひとが、こんな自分に普通に話しかけてくれるのだろう。あまりにもそぐわなくて少し怖い。
「ああ、裏庭にあるんだ。見に行かない?」
答えも聞かないうちに手を掴まれた。手が、ひどく冷たい。生きているひとなのかと思うくらいのひやりとして乾いた手だった。
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