宝珠の神子は優しい狼とスローライフを送りたい

緑虫

文字の大きさ
23 / 46

23 晴れ渡る青空

しおりを挟む
 悶々としていた気持ちが、考えを整理している内に少しずつ晴れてくる。

 そうだよ、俺はもう、誰にも認識されないような影の薄い存在じゃないんだ。神子になったんだから、俺の声だってきっともっと聞いてくれる筈。

 あまり主張するのは得意じゃないと思ってたけど、考えてみたらグイード恋しさのあまり獣王城に来てからはエリンやセドリックに主張しまくってるし。そう、俺はきっと、やればできる子なんだ!

 こんな簡単なことに思い至らなかったのは、こっちに来てから緊張の連続で判断力が鈍っていたからなのかもしれない。二日かけて少し順応して、このままじゃいけないって感覚で分かった。

 グイードと過ごした大切な洞穴が破壊されていたって聞いて、俺の中に多少なりとも残っていた遠慮ってもんがなくなったこともあるのかもしれない。人の大事なものをあっさり奪った相手の行動に、ブチッと切れたとも言う。要は俺は、開き直ったんだ。「そっちがその気なら、こっちだって好きにやるもんね」ってやつな。

 突然空が晴れたみたいに方針が決まった途端、眠気が襲ってくる。

「あふ……――となると、行動は明日からだな。正常な判断はいい睡眠から。よーし、寝よう!」

 相手の主張なんて、もう知ったことか。俺はグイードを探しに行くんだ。勝手に連れてこられたんだから、勝手に出て行ったって文句は言わせない!

 こっちに来てから、俺はグイードに守られて生きてきた。だから今度は俺がグイードを守る番なんだ、きっと。

「グイード……必ず会いに行くからな……むにゃ……」

 すっかり開き直った単細胞な俺は、グイードのもふもふに包まれて笑い転げる夢を見て――。

「……ふああっ」

 幸せ一杯な気分で目が覚めると、窓の外には青空が広がっていた。

「――神子様!」

 慌てた様子で部屋に駆け込んでくるエリン。余程慌てていたのか、頭の白い玉ねぎの位置が微妙に右にずれている。

「こ、この天気は一体!」

 窓の外と俺を交互に見ているエリンに、俺は拳を握り締めて伝えた。

「俺、決めたんだ!」
「な、何をでございますか?」
「獣王に会って、これからグイードを探しに旅に出るって言う!」
「――はい?」

 エリンが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。

「考えてみてよ。そもそも俺は、勝手に連れてこられたんだぞ?」
「そ、それはそうですが……」
「だったら勝手に出て行ったっていいじゃん」
「ええ……っ」

 エリンがあからさまに困ったような顔になったけど、もう決めたんだ。

「エリン、俺獣王に会いたい。会って話がしたいって伝えてくれる?」
「ですが……」

 俺の唐突な変化に付いて来られていない様子のエリン。まあ昨日までウジウジしてたところしか見せてないもんな。そりゃ驚くか。でもグイードといた時の俺はこっちだし。つまりこっちが本当の俺ってことだ。

「閉じこもってるのは性に合わないってよーく分かったんだ。みんなさ、俺を弱らせるのが目的じゃないでしょ?」
「と、当然です!」
「なら会わせてよ」

 にっこり笑いかけると、エリンは驚いたように目を瞠るだけで、暫く反応を見せなかった。あ、もしかして俺が笑う人間だって思ってもみなかった? 確かにエリンに笑いかけたのは、これが初めてかもしれない。だけど待っていると、やがて決心したように深く頷いてくれたのだった。




 エリンはきちんと話を通してくれて、その日の午後になっていよいよ獣王に会えることになった。

 よーし、負けないぞ!

 部屋から一歩出ると、行ったことなんて勿論ないし完全なイメージだけど、ベルサイユ宮殿とかバッキンガム宮殿とかがこんな感じなのかな? ていう豪華絢爛な調度品に囲まれた通路に圧倒される。所々に衛兵っぽい獣人が立っていて、雰囲気は結構物々しかった。

 尚、小柄だけど尻尾がふんわりして大きいからリス獣人かなって人とか、どことなく馬面だなーと思ったらやっぱり尻尾も馬っぽい人とかもいて、内心「うおー!」て興奮してました。ちょっと触りたいって思ったけど言ってないから許して。

「神子様、段差がございます」
「あ、うん」

 エリンに急遽呼び出されたセドリックが、なぜか恭しく俺の手を取りながら案内してくれている。俺ってそんなに危なっかしく見える? グイードも俺の扱いこんなのだったよね。これまで見た獣人はみんな、大きさの大小はあっても体格がいい。エリンだって何気に筋肉質な身体つきだし。まあ猫って筋肉だらけって言うしな。逆に俺みたいな筋肉のきの字もないヒョロガリは珍しいのかもしれない。

 セドリックを見上げると、時折視線が交わる。すぐに目元を綻ばせてくれるから、セドリックが急に呼び出されたことを嫌がってないのが分かるのがまだ救いだった。でもさ、耳と目元が赤いのって、もしや昨日ので風邪引いちゃったのかな。だとしたらごめんな。治してあげたいけど、グイードには俺の血のことは喋るなって言われてるからできないしなあ。

 重厚で大きな木製の扉をいくつか抜けた先には、天井と壁はどこ? てくらい縦にも横にも広い王の間があった。こっちにもシャンデリアの文化ってあるんだね。で、映画祭とかで見かけるようなレッドカーペットの先には、大きなステンドグラスを背にした誰も座っていない玉座が、でん! と構えていた。うおお、でかい。ドラキュラ伯爵とかが足を組んで座ってそう。まだ獣王は来てないのか。

 レッドカーペットの上を「やっべ、沈む!」なんてちょっと興奮しながら歩いていたら、真っ先に駆け寄ってきたのはひとりの着飾った老人だった。

「これはこれは神子様! ようやくお会いすることができて光栄でございます!」

 元は黄土色だったっぽい、白髪混じりのネコ科の耳。痩せた顔に、ニョキッと飛び出した牙がちょっとばかり怖い。尻尾は細くて長く、先端に茶色い毛の塊がぽんと付いていたから、獅子族なんだろうなって推測した。……ん? 獅子族。なんだかど派手な衣装。まさかこの人――。

 笑ってるんだけど笑ってないようなちょっと悪どそうにも見える笑みを浮かべた老人が、揉み手をしながら頭を垂れる。

「獣国の宰相を務めさせていただいております、ガーフィールと申します」

 うげ! やっぱり宰相じゃん! うっわー、まさかこっちと先にエンカウントするとは思ってなかった! どうしよう、全然なんにも対処を考えてない!

 俺は大いに焦った。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

召喚失敗、成れの果て【完結】

米派
BL
勇者召喚に失敗され敵地に飛ばされた少年が、多腕の人外に保護される話。 ※異種間での交友なので、会話は一切不可能です。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき
BL
 仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。 「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」  通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。  異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。  どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?  更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!  異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる――― ※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

処理中です...