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23 晴れ渡る青空
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悶々としていた気持ちが、考えを整理している内に少しずつ晴れてくる。
そうだよ、俺はもう、誰にも認識されないような影の薄い存在じゃないんだ。神子になったんだから、俺の声だってきっともっと聞いてくれる筈。
あまり主張するのは得意じゃないと思ってたけど、考えてみたらグイード恋しさのあまり獣王城に来てからはエリンやセドリックに主張しまくってるし。そう、俺はきっと、やればできる子なんだ!
こんな簡単なことに思い至らなかったのは、こっちに来てから緊張の連続で判断力が鈍っていたからなのかもしれない。二日かけて少し順応して、このままじゃいけないって感覚で分かった。
グイードと過ごした大切な洞穴が破壊されていたって聞いて、俺の中に多少なりとも残っていた遠慮ってもんがなくなったこともあるのかもしれない。人の大事なものをあっさり奪った相手の行動に、ブチッと切れたとも言う。要は俺は、開き直ったんだ。「そっちがその気なら、こっちだって好きにやるもんね」ってやつな。
突然空が晴れたみたいに方針が決まった途端、眠気が襲ってくる。
「あふ……――となると、行動は明日からだな。正常な判断はいい睡眠から。よーし、寝よう!」
相手の主張なんて、もう知ったことか。俺はグイードを探しに行くんだ。勝手に連れてこられたんだから、勝手に出て行ったって文句は言わせない!
こっちに来てから、俺はグイードに守られて生きてきた。だから今度は俺がグイードを守る番なんだ、きっと。
「グイード……必ず会いに行くからな……むにゃ……」
すっかり開き直った単細胞な俺は、グイードのもふもふに包まれて笑い転げる夢を見て――。
「……ふああっ」
幸せ一杯な気分で目が覚めると、窓の外には青空が広がっていた。
「――神子様!」
慌てた様子で部屋に駆け込んでくるエリン。余程慌てていたのか、頭の白い玉ねぎの位置が微妙に右にずれている。
「こ、この天気は一体!」
窓の外と俺を交互に見ているエリンに、俺は拳を握り締めて伝えた。
「俺、決めたんだ!」
「な、何をでございますか?」
「獣王に会って、これからグイードを探しに旅に出るって言う!」
「――はい?」
エリンが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
「考えてみてよ。そもそも俺は、勝手に連れてこられたんだぞ?」
「そ、それはそうですが……」
「だったら勝手に出て行ったっていいじゃん」
「ええ……っ」
エリンがあからさまに困ったような顔になったけど、もう決めたんだ。
「エリン、俺獣王に会いたい。会って話がしたいって伝えてくれる?」
「ですが……」
俺の唐突な変化に付いて来られていない様子のエリン。まあ昨日までウジウジしてたところしか見せてないもんな。そりゃ驚くか。でもグイードといた時の俺はこっちだし。つまりこっちが本当の俺ってことだ。
「閉じこもってるのは性に合わないってよーく分かったんだ。みんなさ、俺を弱らせるのが目的じゃないでしょ?」
「と、当然です!」
「なら会わせてよ」
にっこり笑いかけると、エリンは驚いたように目を瞠るだけで、暫く反応を見せなかった。あ、もしかして俺が笑う人間だって思ってもみなかった? 確かにエリンに笑いかけたのは、これが初めてかもしれない。だけど待っていると、やがて決心したように深く頷いてくれたのだった。
◇
エリンはきちんと話を通してくれて、その日の午後になっていよいよ獣王に会えることになった。
よーし、負けないぞ!
部屋から一歩出ると、行ったことなんて勿論ないし完全なイメージだけど、ベルサイユ宮殿とかバッキンガム宮殿とかがこんな感じなのかな? ていう豪華絢爛な調度品に囲まれた通路に圧倒される。所々に衛兵っぽい獣人が立っていて、雰囲気は結構物々しかった。
尚、小柄だけど尻尾がふんわりして大きいからリス獣人かなって人とか、どことなく馬面だなーと思ったらやっぱり尻尾も馬っぽい人とかもいて、内心「うおー!」て興奮してました。ちょっと触りたいって思ったけど言ってないから許して。
「神子様、段差がございます」
「あ、うん」
エリンに急遽呼び出されたセドリックが、なぜか恭しく俺の手を取りながら案内してくれている。俺ってそんなに危なっかしく見える? グイードも俺の扱いこんなのだったよね。これまで見た獣人はみんな、大きさの大小はあっても体格がいい。エリンだって何気に筋肉質な身体つきだし。まあ猫って筋肉だらけって言うしな。逆に俺みたいな筋肉のきの字もないヒョロガリは珍しいのかもしれない。
セドリックを見上げると、時折視線が交わる。すぐに目元を綻ばせてくれるから、セドリックが急に呼び出されたことを嫌がってないのが分かるのがまだ救いだった。でもさ、耳と目元が赤いのって、もしや昨日ので風邪引いちゃったのかな。だとしたらごめんな。治してあげたいけど、グイードには俺の血のことは喋るなって言われてるからできないしなあ。
重厚で大きな木製の扉をいくつか抜けた先には、天井と壁はどこ? てくらい縦にも横にも広い王の間があった。こっちにもシャンデリアの文化ってあるんだね。で、映画祭とかで見かけるようなレッドカーペットの先には、大きなステンドグラスを背にした誰も座っていない玉座が、でん! と構えていた。うおお、でかい。ドラキュラ伯爵とかが足を組んで座ってそう。まだ獣王は来てないのか。
レッドカーペットの上を「やっべ、沈む!」なんてちょっと興奮しながら歩いていたら、真っ先に駆け寄ってきたのはひとりの着飾った老人だった。
「これはこれは神子様! ようやくお会いすることができて光栄でございます!」
元は黄土色だったっぽい、白髪混じりのネコ科の耳。痩せた顔に、ニョキッと飛び出した牙がちょっとばかり怖い。尻尾は細くて長く、先端に茶色い毛の塊がぽんと付いていたから、獅子族なんだろうなって推測した。……ん? 獅子族。なんだかど派手な衣装。まさかこの人――。
笑ってるんだけど笑ってないようなちょっと悪どそうにも見える笑みを浮かべた老人が、揉み手をしながら頭を垂れる。
「獣国の宰相を務めさせていただいております、ガーフィールと申します」
うげ! やっぱり宰相じゃん! うっわー、まさかこっちと先にエンカウントするとは思ってなかった! どうしよう、全然なんにも対処を考えてない!
俺は大いに焦った。
そうだよ、俺はもう、誰にも認識されないような影の薄い存在じゃないんだ。神子になったんだから、俺の声だってきっともっと聞いてくれる筈。
あまり主張するのは得意じゃないと思ってたけど、考えてみたらグイード恋しさのあまり獣王城に来てからはエリンやセドリックに主張しまくってるし。そう、俺はきっと、やればできる子なんだ!
こんな簡単なことに思い至らなかったのは、こっちに来てから緊張の連続で判断力が鈍っていたからなのかもしれない。二日かけて少し順応して、このままじゃいけないって感覚で分かった。
グイードと過ごした大切な洞穴が破壊されていたって聞いて、俺の中に多少なりとも残っていた遠慮ってもんがなくなったこともあるのかもしれない。人の大事なものをあっさり奪った相手の行動に、ブチッと切れたとも言う。要は俺は、開き直ったんだ。「そっちがその気なら、こっちだって好きにやるもんね」ってやつな。
突然空が晴れたみたいに方針が決まった途端、眠気が襲ってくる。
「あふ……――となると、行動は明日からだな。正常な判断はいい睡眠から。よーし、寝よう!」
相手の主張なんて、もう知ったことか。俺はグイードを探しに行くんだ。勝手に連れてこられたんだから、勝手に出て行ったって文句は言わせない!
こっちに来てから、俺はグイードに守られて生きてきた。だから今度は俺がグイードを守る番なんだ、きっと。
「グイード……必ず会いに行くからな……むにゃ……」
すっかり開き直った単細胞な俺は、グイードのもふもふに包まれて笑い転げる夢を見て――。
「……ふああっ」
幸せ一杯な気分で目が覚めると、窓の外には青空が広がっていた。
「――神子様!」
慌てた様子で部屋に駆け込んでくるエリン。余程慌てていたのか、頭の白い玉ねぎの位置が微妙に右にずれている。
「こ、この天気は一体!」
窓の外と俺を交互に見ているエリンに、俺は拳を握り締めて伝えた。
「俺、決めたんだ!」
「な、何をでございますか?」
「獣王に会って、これからグイードを探しに旅に出るって言う!」
「――はい?」
エリンが、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。
「考えてみてよ。そもそも俺は、勝手に連れてこられたんだぞ?」
「そ、それはそうですが……」
「だったら勝手に出て行ったっていいじゃん」
「ええ……っ」
エリンがあからさまに困ったような顔になったけど、もう決めたんだ。
「エリン、俺獣王に会いたい。会って話がしたいって伝えてくれる?」
「ですが……」
俺の唐突な変化に付いて来られていない様子のエリン。まあ昨日までウジウジしてたところしか見せてないもんな。そりゃ驚くか。でもグイードといた時の俺はこっちだし。つまりこっちが本当の俺ってことだ。
「閉じこもってるのは性に合わないってよーく分かったんだ。みんなさ、俺を弱らせるのが目的じゃないでしょ?」
「と、当然です!」
「なら会わせてよ」
にっこり笑いかけると、エリンは驚いたように目を瞠るだけで、暫く反応を見せなかった。あ、もしかして俺が笑う人間だって思ってもみなかった? 確かにエリンに笑いかけたのは、これが初めてかもしれない。だけど待っていると、やがて決心したように深く頷いてくれたのだった。
◇
エリンはきちんと話を通してくれて、その日の午後になっていよいよ獣王に会えることになった。
よーし、負けないぞ!
部屋から一歩出ると、行ったことなんて勿論ないし完全なイメージだけど、ベルサイユ宮殿とかバッキンガム宮殿とかがこんな感じなのかな? ていう豪華絢爛な調度品に囲まれた通路に圧倒される。所々に衛兵っぽい獣人が立っていて、雰囲気は結構物々しかった。
尚、小柄だけど尻尾がふんわりして大きいからリス獣人かなって人とか、どことなく馬面だなーと思ったらやっぱり尻尾も馬っぽい人とかもいて、内心「うおー!」て興奮してました。ちょっと触りたいって思ったけど言ってないから許して。
「神子様、段差がございます」
「あ、うん」
エリンに急遽呼び出されたセドリックが、なぜか恭しく俺の手を取りながら案内してくれている。俺ってそんなに危なっかしく見える? グイードも俺の扱いこんなのだったよね。これまで見た獣人はみんな、大きさの大小はあっても体格がいい。エリンだって何気に筋肉質な身体つきだし。まあ猫って筋肉だらけって言うしな。逆に俺みたいな筋肉のきの字もないヒョロガリは珍しいのかもしれない。
セドリックを見上げると、時折視線が交わる。すぐに目元を綻ばせてくれるから、セドリックが急に呼び出されたことを嫌がってないのが分かるのがまだ救いだった。でもさ、耳と目元が赤いのって、もしや昨日ので風邪引いちゃったのかな。だとしたらごめんな。治してあげたいけど、グイードには俺の血のことは喋るなって言われてるからできないしなあ。
重厚で大きな木製の扉をいくつか抜けた先には、天井と壁はどこ? てくらい縦にも横にも広い王の間があった。こっちにもシャンデリアの文化ってあるんだね。で、映画祭とかで見かけるようなレッドカーペットの先には、大きなステンドグラスを背にした誰も座っていない玉座が、でん! と構えていた。うおお、でかい。ドラキュラ伯爵とかが足を組んで座ってそう。まだ獣王は来てないのか。
レッドカーペットの上を「やっべ、沈む!」なんてちょっと興奮しながら歩いていたら、真っ先に駆け寄ってきたのはひとりの着飾った老人だった。
「これはこれは神子様! ようやくお会いすることができて光栄でございます!」
元は黄土色だったっぽい、白髪混じりのネコ科の耳。痩せた顔に、ニョキッと飛び出した牙がちょっとばかり怖い。尻尾は細くて長く、先端に茶色い毛の塊がぽんと付いていたから、獅子族なんだろうなって推測した。……ん? 獅子族。なんだかど派手な衣装。まさかこの人――。
笑ってるんだけど笑ってないようなちょっと悪どそうにも見える笑みを浮かべた老人が、揉み手をしながら頭を垂れる。
「獣国の宰相を務めさせていただいております、ガーフィールと申します」
うげ! やっぱり宰相じゃん! うっわー、まさかこっちと先にエンカウントするとは思ってなかった! どうしよう、全然なんにも対処を考えてない!
俺は大いに焦った。
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