宝珠の神子は優しい狼とスローライフを送りたい

緑虫

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24 獣王

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 獣王よりも先に、宰相とエンカウントしてしまった。

 慌ててセドリックを見上げる。セドリックはアルカイックスマイルを浮かべつつ、さり気なく俺を背中に庇ってくれた。頼り甲斐があるねえ。うんうん。

「これは宰相閣下。本日は陛下と謁見の予定なのですが、何故閣下がこちらに? ちなみに陛下はどちらかご存知ですか?」

 宰相のこみかみが、ぴくりと苛立たしげに震えた。

「……これは騎士団長殿。神子様に随分と贔屓にされておられるようだが、図々しくも神子様の進路を邪魔するのはいかがなものかな」
「はて。私の目には、神子様が閣下の勢いに驚かれて怯えておいでのように見えましたが、神子様に忠誠を誓う私の行動に何か問題でも?」
「く……っ! へ、陛下はすぐに参られる!」

 ふん! とでも今にも言い出しそうな勢いでそっぽを向く宰相。いや子供かよ。

 セドリックは若干呆れたような微笑を浮かべたまま、俺を振り返る。

「神子様、こちらにお座りいただきお待ちいただけますか」
「あ、うん」

 玉座の手前には、レッドカーペットに沿って細長いテーブルが置かれていた。玉座を上座とすると、下座の位置に二人は座れそうな深紅のソファーチェアが置かれている。

 セドリックに手を支えられたまま、ゆっくりと腰掛けた。……やっぱりさ、セドリックの俺の扱いって女子に対するものっぽくない? いや、昨日も手の甲にチュッてされたしさ。それともこっちの世界って男女関わらずやるものなのかな。何となく聞くタイミングを逃してしまって、未だに聞けてない。

 セドリックは一緒には座らず、俺の後ろに守るように立った。宰相はというと、玉座の右隣に同じように立っている。こちらをチラチラ見てくるので、滅茶苦茶居心地が悪い。早く獣王来ないかな。何やってんだろ。

 グイードと過ごしている時は、細かい認識の違いで話が若干すれ違うことはあったけど、なんていうか人としての根底にあるものは通じ合っていた。まあグイードのことは完全に狼だと思ってたけど、そういうことじゃなくて――物は大事なら壊さないようにするよね、とかそういうことだ。だから、あ、この世界も元の世界と大体考え方は一緒なんだなって思ってた。

 それがさ、あの獣王ときたら、出会い頭でいきなり有無を言わさず魔法をぶっ放してきたんだよ? こいつ話が通じない人! 怖い! てなるじゃん普通。だから俺が最初獣王を怖がっていたのも仕方ないことだと思う。

 だけど、割と俺と感覚が近いかもって思えるエリンとセドリックの獣王に対する評価は、思ってたよりも悪くなかった。すごく意外だったけど。だから俺は「話したら案外いけるんじゃないか」と考え直した訳だ。会いたいって言ったらこうして時間を割いてくれたし、余計な宰相も何故か来てるけど、これなら対話もいけると踏んでいた。

 暫く手持ち無沙汰で待っていると、ステンドグラスの横にある扉が開くのが見えた。少し窮屈そうに屈んで扉を潜ってきたのは、獅子の耳に黄金の仮面を着けた、ガッチリとした大柄な体型の獣人だ。端っこに毛皮が付いた立派な真紅のマントが、彼の動作と一緒に動く。威風堂々という言葉がピッタリ、そんな出で立ちだった。

 セドリックも大きな人だけど、獣王は縦にも横にもひと回り以上大きい。身長は二メートルはあるんじゃないか。日本人の平均身長程度しかない俺とは、頭ひとつ分以上違う。隣に並んだら首が痛くなりそうだ。

 獣王が、大きな身体だけどしなやかな動きで玉座に座る。さすがは猫科。

「――神子様、お待たせして申し訳ない」
「え、あ、はい」

 うお、思ってたよりも丁寧でびっくりした。

「……城での不都合はありませんか」

 そしていきなりきたー! ある、勿論あるよ! そもそも拉致されたからね!

 獣王が着けている仮面は、よく磨かれた金色の金属製のものだ。これまで一瞬しか見る機会がなかったから気付かなかったけど、顔全体を隠してると思っていたら、鼻から下は隠されていなかった。頑固そうな顎と整えられた黄土色の顎髭を見る限りでは、整った顔をしていそうに見える。

 吊り目に切り抜かれた目の穴の向こうからは、知性が感じられる青い目がこちらを見つめていた。この目をした人なら、話を聞いてくれるんじゃ。単細胞な俺だけど、こういう直感は結構当たるので、直球で聞いてみることにした。

「まず言いたいことがあるんですけど」
「――聞きましょう」

 お、やっぱり考えていたよりもまとも! 俺はずずいと前のめりになると、はっきり言う。

「そもそも俺、有無を言わさず貴方に無理やり連れて来られたんですけど。それに対しての謝罪はないんですか?」
「……申し訳ない」

 低い唸るような声だけど、苛ついたようには聞こえなかった。よーし、謝らせたぞ! 次にいくぞ俺!

「はっきり言って、俺怒ってます」

 この場にいる三人が全員息を呑んだのが分かった。
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