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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第102話 絶望の魔女と魔力集点の可能性
しおりを挟む「〝醒花〟……?」
聞き覚えのない単語にそれを反芻して首を傾げる。レイズの口ぶりからそれが何かの境地、あるいは技能を指す単語なのだろうというのは分かるが、記憶を思い返してみても全く聞き覚えがなかった。
まだ外の世界の本をそんなに読めていないから分からないけど、少なくとも私が目を通してきた文献には載ってなかったはず……。
もし、境地や技能だというならどこかに記載されていてもおかしくないのだが、ないという事はまだ新しい、もしくは秘匿されているのかもしれない。
「……まあ、聞き覚えがないのも無理はない。説明のためにああは言ったが、実際には最上位の称号の中でも限られたやつしか使えないからな」
「え?でも魔女と魔術師の違いなんじゃ……」
使えなくても魔女になれるならここまでの前置きはなんだったんだという話になってくる。
「だから説明のため、と言っただろう?そもそも戦闘能力は必須といえど、最上位の称号……こと、魔女に限って言えば研究肌が強く、その実績で昇格した者もいるのだから一概には言えないんだよ」
「……絶対性の正体って言ってましたけど、それならアライアさんの説明があっていたんじゃないですか?」
そう言って肩を竦めるレイズに私は胡乱な視線を向けながら棘を孕んだ言葉を返した。なるほど、確かにアライアの条件の説明は曖昧だったかもしれない。
しかし、魔女の称号にその〝醒花〟というのが必ずしも必要ないというなら、絶対性の表現に関してはあの曖昧なものが適当といって差し支えないはずだ。
「まあ、だから間違っちゃいないとも言ったろ?そもそもこの話はルーコ、お前に当てはめた説明なんだから絶対性の正体に関してはこっちの方が合ってる」
「……ルーコちゃんなら研究方面も向いてると思うけど?」
合ってると言い切るレイズにここまで口を挟まなかったノルンが難しい顔をして問い返す。おそらく私の本好きの面を見てノルンはそう言ってくれたのだろうけど、自分では向いているかどうかなんて分からない。
「向いてる、向いてないはあるかもしれないが、研究方面で魔女を目指すのは時間が掛かる。最短で魔女を目指すなら〝醒花〟に至る道しかない」
ノルンの問いに片目を瞑り答えるレイズ。たぶん、最短を考えてくれたのは私の事情を聞いて汲んでくれたからだろう。
ならこれ以上、話の腰を折るわけにもいかないと、黙って言葉の続きを待った。
「……っと話が大分遠回りになったな。要はそこに至り、自在に操る事さえできれば魔女になれるといっても過言ではない境地……それが〝醒花〟。ま、言葉だけじゃピンとこないかもしれないが――――」
そう言ったレイズが両目を閉じると、途端に空気が張り詰め、見えない圧力が周りに伝播していく。
「――――これなら分かりやすいだろ?」
目に見えた変化こそないが、レイズから放たれる魔力の奔流と圧力はあまりに圧倒的で、気を抜けば気絶してしまいそうな凄みがあった。
……こんなに凄くて気圧される見た事のない境地なのにどうしてだろう、こんなにも既視感を覚えてしまうのは。
畏怖と疑問を浮かべながら〝醒花〟を発動させたであろうレイズを見つめていると、彼女は私の表情を察したのか、その状態のまま再び片目を瞑る。
「ふむ、どうやら気付いたみたいだな。これの既視感に」
「……どういうことですか?」
まるで私が既視感を覚える事を分かっていたかのような口ぶりに眉を顰め、問い返す。
「なに、少し考えればわかる事だ。現にノルンの奴も気付いてるみたいだぞ?」
そう言うとレイズはノルンへと視線を向け、続きを話すように目で促した。
「…………ルーコちゃんの既視感は気のせいじゃないわ。たぶん、自分でも薄々気付いてるんじゃないかしら。この〝醒花〟があなたの使う魔術……〝魔力集点〟と似てるって」
「それは……」
ノルンに指摘され、既視感の正体がはっきりした。そうだ、今のレイズの状態は改良前の〝魔力集点〟を使った私の姿と重なる。
とはいっても、自分で客観的に使ってる姿を見た事がある筈もないし、私にここまでの圧力を出せるかと問われたらできないけれど、それでも似てると言われれば納得はする。
「まあ、厳密にいえば違うものではあるが、お前の〝魔力集点〟が〝醒花〟という領域に片足を突っ込んでいるのは間違いない」
言い切るレイズに私は言葉を返さず、少し俯き気味に考え込む。
正直、魔女に至るための境地に近いというその言葉に私は大分、懐疑的だった。
確かに指摘されて納得はしたし、改良前の魔力集点が魔力以外の要素を代償にしているのも、そんな領域に片足を突っ込んでいるのだとすれば説明はつくかもしれない。
けれど、だからといって才能のない私が足掻くために編み出した魔術が……たとえ特別な境地であろうと類似しているものがあると言われて思うところがないわけないだろう。
「……待ってください。確かに私はレイズさんとの戦いで〝魔力集点〟を使いました。けど、それは改良版……〝醒花〟と似ている改良前のものは見てない筈です」
「ん、ああ、そうなのか?俺はお前の言うところの改良版を見て似ていると判断したんだが……」
どうにも噛み合わないと思ったらそういうことか。私は自分の感覚的に改良前を思い浮かべていたけど、それを見ていないレイズにとって〝魔力集点〟は改良版の方を指しているのは当然だ。
……待って。だとしたら改良前の〝魔力集点〟ならどこまで――――
改良版はあくまでも安全面を考慮しての改案、出力は全てを消費し、変換する最初の魔力集点の方が圧倒的に高い。つまり、レイズが改良版を見てそう判断したのなら、改良前は〝醒花〟にもっと近いはずだ。
「……確かジアスリザードの時に使ったのが改良前の方だったかしら?」
「はい、あの時は連戦で残り魔力が少なく、改良版では出力が足りなかったので」
読書仲間としてよく話すようになってから、ノルンにはよく魔法について相談していた。その中で魔力集点についても話しており、直接は見ていないものの、ノルンは二種類ある事を知っていた。
「……ふむ、出力の面でも改良前の方が高いのか?なら今ここでそれを見せてみろ」
「え、ここで……ですか?」
少し考えるような素振りを見せた後にそういうレイズ。いや、まあ、見せること自体は可能ではあるけど、たとえ少しの間であっても改良前を使ってしまえば魔力を一気に消耗してしまう。
今から修行をするというのに始める前から魔力をそこまで消費するのはどうしても躊躇ってしまう。
「そうだ、本当に出力が高いならお前の底を知るという意味でも見ておく必要がある。ああ、魔力の消耗の事なら気にしなくてもいい。見せるのは一瞬で構わないし、元々、今日は実践よりも講義寄りにしようと思っていたからな」
「……分かりました。本当に少しだけですよ」
確かに修行が一日、二日で終わるものじゃない事を考えれば、私がどこまでやれるかを知ってもらうのは必要な事だ。
……仕方ない、一瞬でいいって言ってるし、習得までの修行中は何度も使ってきたんだ。いまさら調整を間違える事もないはず。
呼吸を整えて瞑目、全身の魔力の流れを意識しながら大きく息を吸い込んだ。
「…………〝命の原点、理を変える力、全てを絞り、かき集める。先はいらない、今欲しい。灯火を燃やせ、賭け進め〟――――『魔力集点』」
魔力を中心に集め圧縮、それを一気に解き放つことで身体の底から力が溢れるような感覚と共に私の周囲へ衝撃が木霊する。
っ……全快の状態で使うのは久しぶりだから魔力の出力が抑えられないかも。
溢れる魔力の奔流をどうにか内に抑えながら、息を吐き出す私の姿にレイズが興奮したように目を輝かせる。
「おおっ!それが本当の〝魔力集点〟か!よしよし、いいぞ……それじゃあまずその状態で今の俺と戦ってもらおうか」
「………………え?」
さっきまでの発言をひっくり返してそう言ったレイズに私は思わず呆気に取られて気の抜けた声を漏らしてしまった。
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