上 下
107 / 156
第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女

第101話 絶望の魔女と始まる修行

しおりを挟む

 次の日、早速修行だと言ってレイズに連れ出された私はノルンを伴って昨日の森へとやってきていた。

「――――ん~……いやーあんなに美味い飯を食ったのは久々だな」

 ご機嫌な様子で前を歩くレイズが伸びをしながら満足げに呟く。この一場面だけ切り取ってみればこの幼女が絶望の魔女だなんて誰も気づかないだろう。

「……いくら美味しいからって朝からあんなに食べるなんてどうかと思うわ」
「……まあ、ウィルソンさんは喜んでたからいいんじゃないですか」

 呆れた顔でそう言うノルンに私は苦笑いで返す。というのも昨晩の内にパーティの仲間へ自己紹介を済ませたレイズはそのままご飯を食べずに寝てしまい、ウィルソンの料理を今朝初めて食べた。

 最初は寝ぼけ眼に欠伸を漏らしていたレイズだったが、料理を一口食べた瞬間、驚愕に目を見開き、大絶賛しながら夢中に食べ始めた。

 そこからおかわりの連続で、彼女は約六人前のご飯を一人で平らげてしまった。

 それを見て、その小さな体のどこにその量が入るのかと、料理を作ったウィルソン以外の全員が唖然としていたのは言うまでもない。

「…………それにしてもみなさん意外とあっさり受け入れましたよね」

 進む道すがら、雑談のつもりでノルンへ声を掛ける。話題はもちろん前を歩いているレイズについてだ。

「……実際に戦う姿をみんな見ていないもの。驚きはしても、あの見た目だと恐怖や畏怖の対象にはなりえないわ」
「言われてみれば確かに……トーラスさんなんか露骨に疑ってましたしね」

 レイズの戦いぶりを知っている私達三人を除いた仲間はノルンのいうようにどこか話半分に聞いている節があった気がする。

 もちろん、根本的に私達が嘘を吐いているとは思ってないだろうけど、それはそれとして大袈裟じゃないかとは思っていそうだ。

「そうね。まあ、これから生活していくうちにアレの本性も分かってくると思うわ」
「本性って……一体過去に何があったんですか……」

 深堀するつもりはなかったけど、相変わらずのレイズへの発言に思わずそんな言葉が零れた。

「……別に特別な出来事があったって訳じゃないの。ただ――――」
「おい、そろそろいい感じの場所に着くぞ」

 ノルンが理由を話し始めようとした瞬間、レイズがそれを遮る。話をしていて気づかなかったが、言われてみればレイズの指した辺りは開けていて、修行をするのにちょうどいい場所だった。

……偶然かもしれないけど、昨日といい、今といい、ノルンさんが過去を話そうとするとレイズさんが割って入って結局、聞けずじまいになる。

 無論、状況的に意図して会話を妨害した根拠はないけれど、それでも少しの違和感を感じざるを得なかった。

「――――よし、それじゃあ早速、始めるとするか」

 開けた場所に着いて早々、そう言いだしたレイズに私は思わず身構える。これから修行と称した殺し合いを強要されるかもと覚悟した私にレイズは目を丸くして首を傾げる。

「?どうした、急に身構えて」
「え、いや、これから修行をするんじゃ……」

 怪訝な顔をするレイズに私が困惑していると、横からノルンが呆れ顔で腕を組む。その様子からはやっぱりこうなったかという言葉が聞こえてくるようだった。

「……あのね、ルーコちゃん。普段の行動からは想像もできないかもしれないけど、アレは意外にも人に教えるのが上手なの」
「へ?え、あ…………」
「意外にもってなんだ、意外にもって」

 困惑する私を他所に、鼻を鳴らして抗議するレイズへノルンが言葉を続ける。

「自分の胸に手を当てて考えてみたらどうです?……ああ、ごめんなさい。当ててもその薄い胸の感触ぐらいしか分かりませんでしたね」
「……は?なんだ、喧嘩を売ってるのか。といううか、胸に関して言えば体型の比率的にお前には言われたくない」

 煽り合いばちばちと火花を散らす二人。どうして修行の意外性の話から胸の大小の煽り合いになっているのか不明だし、私に言わせればそんなのどっちでも構わないと思うのだけど、ここでそれに関して口を挟んでも碌な事にはならない事は目に見えているのでさっさと話題を引き戻そうと思う。

「あ、あのっ、それじゃあ、修行ってまず何をするんですか?」
「ん?ああ、そうだった。悪いな、つい熱くなって危うく忘れかけてた」
「……そういうところは見た目相応ですものね」

 ようやくレイズが本題に入ろうとした矢先にノルンがぼそりと煽り文を呟いた。それに対しレイズはむっとして反応しかけるも、呑み込んで話を進めてくれる。

「……まずは現状の確認からだ。ルーコ、お前は今の自分がどのくらいの実力なのかは理解しているか?」
「自分の実力……ですか?」

 それは等級に表したらという意味だろうか?それに当てはめるなら私は二等級魔法使いという事になるが……。

「……あくまでこれは俺の見立てだが、基礎能力に限って言えばお前は〝魔術師〟の領域に片足を突っ込んでいる。いうなれば一級の中で最上級くらいの実力といって差し支えないって事だ」
「……流石にそれは言い過ぎじゃないですか?」

 なんとなく自分の実力が二等級以上はあると思っていたけれど、他の一等級の魔法使い……ノルンやブレリオを知っているだけに、私がその中で最上級と言われてもいまいち納得しかねる。

「……そこに関して言えば私もソレと同意見……ルーコちゃんはもう少し自分に自信を持っても良いと思わ」
「別に自信がないわけじゃ…………」
「……ああ、もしかしてノルンの奴と比べてるのか?だとしたら比較対象を間違ってるぞ。こいつもすでに一級の実力は超えてるからな」

 私の考えを見透かしたかのようにレイズが言葉を返す。ノルンの元師匠だった彼女がそう言うならなるほど、そうなのだろう。

 けれど、だからといってやはりその言葉を額面通りに受け取る事はできなかった。

「……納得はしてませんけど、ひとまずは分かりました。私の実力がそうだとして、ここからどう修行を進めるんですか?」
「まあ、待て。その前に〝魔女〟と〝魔術師〟……あるいは他の最上位の称号とそれ以外の違いはなんだと思う?」

 話を進めるために呑み込んだにもかかわらず、質問で返してきたレイズに少し回りくどいなと思いながらも、考えを巡らせる。

 魔女と魔術師……単純に考えれば強さの違いなのだろうけど、問われているのはそういう事ではないのだろう。

 一等級と魔術師ならその違いは魔術を使えるか、否かと答えられる。でも、魔女との違いとなると話は別だ。

 以前聞いた魔女に至るための条件、偉業と絶対性という曖昧なもの。

 修行というこの場において問われているのはおそらく後者……つまりは絶対性の有無が違いという事になるが……。

「……絶対性の有無、ですか?」
「絶対性……まあ、間違ってないが、それじゃあ答えとしては曖昧過ぎるな」

 やはりと言うべきか、曖昧さ故に正解にはなりえなかったようだが、方向性としては間違っていなかったらしい。

 という事はアライアが絶対性という曖昧な表現を使ったものには具体的な答えがあるという事だ。

 まあ、それがなんなのか、今の私には分かりかねるけど。

「……ったく、絶対性なんて曖昧な表現はアライアのやつか。確かに言い得て妙だが、あえて教えなかったのか」
「えっと、一体何の話ですか?」

 一人、考え込むようにぶつぶつ呟くレイズへ怪訝な顔をして聞き返す。言葉からしてアライアが何かを隠していたように聞こえるが……。

「……はぁ、いいか?たぶん、お前はアライアの奴から魔女になるための条件として絶対性なんて曖昧な表現を教えられたのかもしれないが、本来、そこにはきちんと当てはまる言葉がある」
「当てはまる言葉……?」
「………………」

 溜息を吐き、頭を掻きながら片目を瞑るレイズとその先を知っているのか、無言のまま瞑目するノルンへ視線を向けながら次の言葉を待つ。

「……そうだ、そしてそれこそが魔女と魔術師の最大の違い。文字通りの次元を隔する力――――〝醒花せいか〟。それがアライアの指す絶対性の正体だ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

東京ケモミミ学園

楠乃小玉
青春
学校に遅刻しそうになった武は全速力で道を走っていた。 その前に突如現れたのは「遅刻!遅刻~!」 と叫びながら口にお腹にパンパンにイクラがつまった紅ジャケをくわえた モッフモフの尾をもった狐さんだった。 狐娘さんの豊満なオッパイが武の目の前に!

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

【完結】転生したらいじめられっ子のヒロインの上に醜い死神将軍に嫁がされたんだが、聖女に匹敵するこの魔力は内緒でモブに徹したい。

猫又
恋愛
過労死した後、本の中に転生していた。 転生先は超いじめられっ子ヒロインのリリアン・ローズデール伯爵令嬢。 うじうじグズグズ泣き虫のリリアン。親兄弟やメイドにまで役立たずと言われるほどの引っ込み思案でメソメソメソ泣き虫さんだったようだから、ここはひとつ元30代主婦、夫の浮気に耐え、姑にいじめられた経験を生かしてハピエン目指して頑張るしかないっしょ。宝の持ち腐れだった莫大な魔力も有効活用して、醜い死神将軍に嫁がされてもめげないでめざせ離縁! めざせモブ! そしていつかはひっそりと市井で一人で暮らそう! 

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

【完結】呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私

灰銀猫
恋愛
学園では首席を争うほど優秀なエルーシアは、家では美人で魔術師の才に溢れた双子の姉の出涸らしと言われて冷遇されていた。魔術師の家系に生まれながら魔術師になれるだけの魔力がなかったからだ。そんなエルーシアは、魔力が少なくてもなれる解呪師を秘かに目指していた。 だがある日、学園から戻ると父に呼び出され、呪いによって異形となった『呪喰らい公爵』と呼ばれるヘルゲン公爵に嫁ぐように命じられる。 自分に縁談など来るはずがない、きっと姉への縁談なのだと思いながらも、親に逆らえず公爵領に向かったエル―シア。 不安を抱えながらも公爵に会ったエル―シアは思った。「なんて解除のし甲斐がある被検体なの!」と。 呪いの重ねがけで異形となった公爵と、憧れていた解呪に励むエル―シアが、呪いを解いたり魔獣を退治したり神獣を助けたりしながら、距離を縮めていく物語。 他サイトでも掲載しています。

出来損ない王女(5歳)が、問題児部隊の隊長に就任しました

瑠美るみ子
ファンタジー
魔法至上主義のグラスター王国にて。 レクティタは王族にも関わらず魔力が無かったため、実の父である国王から虐げられていた。 そんな中、彼女は国境の王国魔法軍第七特殊部隊の隊長に任命される。 そこは、実力はあるものの、異教徒や平民の魔法使いばかり集まった部隊で、最近巷で有名になっている集団であった。 王国魔法のみが正当な魔法と信じる国王は、国民から英雄視される第七部隊が目障りだった。そのため、褒美としてレクティタを隊長に就任させ、彼女を生贄に部隊を潰そうとした……のだが。 「隊長~勉強頑張っているか~?」 「ひひひ……差し入れのお菓子です」 「あ、クッキー!!」 「この時間にお菓子をあげると夕飯が入らなくなるからやめなさいといつも言っているでしょう! 隊長もこっそり食べない! せめて一枚だけにしないさい!」 第七部隊の面々は、国王の思惑とは反対に、レクティタと交流していきどんどん仲良くなっていく。 そして、レクティタ自身もまた、変人だが魔法使いのエリートである彼らに囲まれて、英才教育を受けていくうちに己の才能を開花していく。 ほのぼのとコメディ七割、戦闘とシリアス三割ぐらいの、第七部隊の日常物語。 *小説家になろう・カクヨム様にても掲載しています。

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

処理中です...