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愛執の中

#48 (オマケSS追加 2022/03/10 #夢で会えたら)

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 チチチッ、と小鳥の泣き声が聞こえる。アダムは起き上がり、隣で静かに眠るシドを見た。
 艶やかな髪に触れるとスルっと指から零れて行く、彼がアダムにいつもする旋毛に口付けを真似してみた。
 じわりと愛しさが込み上げてくる、彼もこんな気持ちになるのだろうか。そのまましばらく寝顔を見つめた。気怠い体を起こし衣服を纏い部屋から出ると、クリフが挨拶をしてくる。

「おはようございます」
「クリフさん、ジョエルさんは?」
「はい、来ております」
「シドさんに服を着せてください」

 クリフは畏まりましたと軽くお辞儀をすると、シドの部屋へと入って行った。踊り場から下を覗くと、ジョエルとビビアンが二人揃って待っていた。アダムはジョエルへ軽く挨拶を済ませる。

「やはり芳香は王族に必要な物ですね」
「かも知れませんが、意図しない眠りに付くのは可哀想だと僕は思います」

 それでは後のことはお願いします、と挨拶を交わし、アダムは教会への道のりを歩きながら、ふと、国では床に伏せていることになっているはずのシドが、あんなに元気が良かったら、おかしいと思われないのだろうか? と思わず吹き出しそうになった。 
 次はいつ会えるのか分からない、けれど、幾年の年月が過ぎても、自分が求めるのは彼だけだと確信がある。仮に、これが最後だとしても、構わないとアダムは前を見据えた――――。


 それから数十日後。 

「どうして貴方がいるのですか!」

 けたたましい声が、獣の解体所に響き渡る。命を奪われた獣達にアダムが祈りを捧げている最中、ビビアンが呼びに来た際の出来事だった。

「お、ビビアンちゃん久しぶり?」
「私は何してるのかを聞いてます!」
「いやー、クリフから暇なら仕事しないかと言われてね」
「断って下さい!」 
「いやいや、もう引き受けたよ? ってか2日前からいるけどね?」

 数日前、たまたまレナルドがマズラの街をブラブラしていた所をクリフに声を掛けられたと言う。相変わらずの二人のやりとりを見ながら、アダムは溜息を吐いた。
 ビビアンに催促され解体所から離れようとした時、最後の獣が運ばれて来たのが見え、先にビビアンに行くように伝え、アダムはその獣にも祈りを捧げることにした。

「アダム様、先に畑に行っております」
「うん」

 随分前、クリフに自分達も獣なのに、獣を狩る事に抵抗は無いのかと聞いたが、どうやら、野生の大型獣は邪心が多く含まれているらしく、獣人になれない獣の大半は、そういう理由だと教えられた。だから、まったく抵抗はないのだと言う。最後の祈りを済ませするとレナルドに。

「じゃあ、僕はこれで」
「ん? ああ、そういえばシドはいつになったら帰って来るんだ?」

 一番聞かれたくない話だったこともあり、アダムは顔を下に向け素っ気なく「分かりません」と返事を返した。

「え……? あんなにイチャイチャと暑苦しかったのに…?」
「きっと忙しいのだと思います。年に一度くらいは来てくれるかも知れません」
「はあ?」
「失礼します」

 シドがディガ国へ運ばれてから、100日以上が経過していた。ジョエルが1日置きにアダムの町へと仕事に来るが、シドのことを聞いたりしたことは無かった。
 きっと重大な出来事があれば、アダムに教えてくれると、そう自分に言い聞かせ、なるべく気にしてない素振りを心掛けていた。
 少しでも寂しいと顔に出して、それをジョエルがシドに伝えたら? 直ぐに会いに来てくれるのかも知れない。けど、アダムはそんなことは望んではいなかった――。

 教会の住居の横にある畑に足を向けると、ビビアンが顔を泥だけにしながら、皆と一緒に作物の手入れをしていた。
 
「ビビアン、どうしていつも泥だらけに……」
「すみません」
「怒っているわけじゃないからね?」
「はい」
「綺麗な顔が台無しだよ、ほら拭いて」

 持っていた手拭をビビアンに渡すと、アダムは裾を上げ靴を脱ぎ裸足になり、そろーっと足を忍ばせ畑に入った。
 中央まで移動すると、ビビアンが被っているフードをガサガサ動かし不思議な顔をする。

「アダム様? 何でしょう音楽が」
「ん? あ……」

 頼りない笛の音が聞え、その音にアダムの胸がドキドキと震えはじめる。ふと、音楽に気が付いた子供達が急にクスクス笑い出すと。

「アダムお兄ちゃん、これ音程がおかしいね?」
「そうだね」
「讃美歌は~、こう――♪……でしょ?」

 いつまでも続く音色は、アダムに早く来いと言っている。
 そして、その笛を吹いている主は、そのうち吹くのを止めて「まったく……」と口癖の台詞を吐きながら、呆れた表情を見せアーチから顔を覗かせる気がした。
 アダムは、ふっと口を緩ませ、土からぴょんと飛び出ている葉を見つけ、それを引っこ抜き、出て来た根野菜の周りに張り付いている土をパタパタと払い、それを籠へと入れた。
 しつこく鳴り響く笛の音に察したビビアンが「ここはいいから行って下さい」と言うが、アダムは首を左右に振りながら。
「大丈夫だよ。待っててくれるから」とアダムは視界を滲ませながら作業を再開した――。




End.





オマケ 2022/03/10



#夢で会えたら



 シドは国王の座を正式にジークに受け渡し、今後は一切の権利を放棄すると伝えた。それでも補佐役として何かあれば手助けはすると確約し、国に縛られることは無くなった。
 ようやく肩の荷が下り、アダムの元へと帰って来たが、次の日に神殿の手伝いがあり帝都へ向かうと言い、アダムはひと月ばかり町から離れると言い残し、シドを置いて出て行った。
 こんな仕打ちがあって良い物だろうか? せっかく帰って来たというのに肌にも触れさせず、身を清めなくてはいけないと言い、前日から聖水を頭からかぶり数十回と祈りを捧げていた。

 ――人間という生き物は、愚かすぎる。

 シドは窓の外を見つめ、溜息を零しながら寝酒を終えると、ベッドへと身を沈めた――――。




「おはようございます」
「……ああ」
「今日は隣町の討伐で御座います」
「分かった、ところで…」
「あと10日で御座います…」
「そうか」
「そろそろ、毎日聞くのはやめて頂けませんか?」

 シドはアダムが戻ってくるまでの日数を毎日確認するのが日課になっていた。クリフは目を細め、聞かなくても分かるでしょうに、と言うが、万が一と言う事もある。もしかして知らぬ間に、日数が進んでいる可能性もあるだろう? と言うとクリフは呆れた顔を見せた。
 衣服を整え出かける準備が出来ると、見慣れた男が踊り場で待っていた。
 
「んじゃ行くか」
「ああ、ところでお前は家は何処だ? 家族はいないのか?」
「あー、俺もアダムと一緒で孤児なんだわ」

 レナルドは両手を広げると肩を竦めて見せた。両親がいないことは、それほど珍しいことではないと言い、この大陸はレナルド達が幼かった頃は戦争で治安が悪かったと言う。
 最近になって漸く平和が訪れたと言うが、平和の為に罪なき者の命が奪われたと聞き、人間の王は無能だと感じた――。

 数日後クリフが、ブラウエルス公爵から送られて来た美酒を、寝酒に用意してくれた。ディガ国より豊富な果実が多い人間の国は、とにかく美味い酒が多かった。
 
 ――これは、美味いな……。

 ベッドへ身を沈めるにはまだ早かったが、それなりに強い酒だったようで、あっと言う間に眠気に襲われた。ふと誰かの気配を感じ目を開けた。

「……夢? いや、夢でもいい……」

 幻でも構わないと隣に見えるアダムを見つめた。あまりにも見事な幻影に、妙だなと思いつつ、その幻影にそっと触れる。いつもの肌の感触を楽しみながら組み敷くと、幻影が頬を染め瞳を潤ませた。
 触れる口づけも甘く、漏れる吐息まで聞こえる。

 ――ん……感触が生々しい……な。

「……本物か?」
「はい」

 返事をするアダムをしばらく見つめた。何時の間に帰って来る日がやって来たのかと、確認の言葉を出した。

「…今日は何日目だ」
「えっと、あれから25日目です。神殿からもう戻って来ても良いとっ……」

 ベッドへ軽く押し付けると、アダムは初心な顔を見せ、更に頬を赤く染め始めた。

「まったく、どれだけ待っていたか」
「シドさん眠っていたのでは?」
「もう覚めた」
「起こす気は無かったんです。だから、その……」

 アダムの言いたい言葉を遮るように、柔らかな肌に舌を滑らせ、胸元の飾りを口に含めばアダムが愛撫に反応し、軽く自分の脳が揺れる。
 眩暈がするのは久々だからだろうか、それとも寝酒のせいか、アダムが放つ芳香か、どちらにしても酔わされている。

 ふと、顔を上げアダムを見つめると、虚ろに視線を動かし何かを探しているように見えた。

「どうした?」
「何だか、すごく……、気もちがよくて……」
「…そうか」

 衣服を剥ぎ取れば、可愛らしい性器の先端から蜜が零れ始めている、僅かに触れただけだと言うのに、もう溢れそうに充血していた。
 指で突いてやれば、小さく悲鳴をあげ腰をくねらせながら、淫らに誘う姿は何とも悩ましかった。
 考えてみればアダムも同じ期間、肌を合わせていないのだから、少し敏感になっているのだろう。うつ伏せにし後孔に舌を這わせ、まだ準備の出来てない蕾を往復する。
 
「ああぁ、それ、だ、め……」

 ヒクヒクと動き始めたのは孔だけではなく、細く柔らかな太腿の肌がプルプルと振えて始めていた。

「ダメと言うわりには、いい声だな」

 顔をペタとベッドへ張り付かせ、浅く呼吸を繰り返し可愛らしい両手が、ぎゅっとシーツを掴んでいる。濡れて光る窄みへ指を忍ばせると、コクコクと咥え込んでいく。

「ん……ぅふ…」

 更に唾液を追加し滑りが良くなれば、肉襞がうごめいて指へ吸い付いてくる。一体いつの間にこんな身体になったのだろうか、シド自身が全てを教え込んだが、こんなに厭らしい身体に育つとは思っても見なかった。
 出入りする指がぬらぬらと濡れ、自ら腰を揺らし堪え切れないと喘ぐ。

「あっ……ぁあ、も、……ぅ……」
「我慢しなくてもいい」

 果てそうだと訴えようとしているが、声が出ないようだった。ぶるっと体が震えると同時に白濁した液がポタポタと落ちる。
 アダムの掠れた鳴き声が耳に心地良く、背後からうなじに噛みつけば、漏れ出す吐息にさらに酔いそうになる。

「は、そんな事どこで覚えて来た?」
 
 凝縮する襞が落ち着くと、アダムが小さな手を使い片手で蕾を広げる。赤く染まった頬と溢れる雫が可愛いが、その仕草は挿れて欲しいと男を誘い、何処までも淫らな姿だった。

「困ったものだな…」
「……あ、あぁ……っ」

 少しだけ己の先端を潜らせた。アダムの背中が仰け反り産毛が立ちあがると、足先がピンと張りつめた。

「俺のせいで、こんな身体になったわけではなさそうだ…」
「ん…っぅぅ……あぁああ……っ」

 くぷっと全てを埋め込むと、細く長い悲鳴が吐き出され、足をバタつかせ体を痙攣させている。挿れただけで達するとは、男冥利に尽きるなと、シドは笑みが零れた――。
 幾度目かの吐精を放ち、アダムの体はパタっと糸が切れたように、ベッドへ横たわり眠りに付いていた。
 シドは興奮状態が落ち着くのを待ったが、なかなか落ち着くのに時間がかかる、獣人は一日かけて数十回と精を放つが、流石に人間には辛いだろう。
 一度、欲望のまま放って見たいものだとアダムの頭を撫でた。シドは、まだ残っている寝酒に手を伸ばし飲み干すと、アダムの体に無数の赤い印を残した。
 


#夢で会えたら    END.



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