王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

4 入学試験の裏側

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「学園長。こちらが本日の試験に関する報告書になります」

「ありがとう……やはり問題なく進めることは難しいようですね」

 王立学園の入学試験が終わった日の夜。
 入学試験の報告を行うために教員の一人が学園室を訪れていた。
 報告書には試験の結果だけでなく試験中に発生した出来事も書かれていた。マイヤー男爵を始めとした一部貴族の教員の振る舞いについてもだ。

「古くからの貴族は兎も角として新興貴族だと態度が顕著です。学園が本格的に始まってからが心配です」

 長い歴史を誇る貴族の中にも平民を蔑視する者たちは存在する。けれど、貴族としてのプライドから人が見ている場所であからさまなことはしない事がほとんどだった。
 どちらかといえば数代前に功績を上げて陞爵された者たちに多い印象だ。

「分かっています。そのために貴方を呼んだのです……力を貸してください、カトレア様」

「できる限りは尽力しますが、わたくしはしがない男爵夫人ですから」

 カトレアは茶目っ気のある表情で、あまり期待しないでくださいねと言葉にするが学園長は苦笑を浮かべるだけだった。

「ご謙遜を。元スエンティア公爵家の令嬢にして王妃様からの信頼も厚い貴方は長い歴史を持つ貴族であれば無視できないだけの影響力をお持ちでしょうに。少なくとも貴族夫人のなかでは侯爵家当主であるわたくしをも凌ぐ影響力をお持ちだと思いますよ」

 学園長に報告を行っていた彼女の名前は、カトレア・オルデイン。
 エスペルト王国の南西部に位置するオルデイン男爵領の夫人にして元スエンティア公爵令嬢。現宰相にして公爵家当主のニールヘッグの妹でもある。
 元々、ラティアーナと同級生にして友人であった彼女は王族と各公爵家との繋がりが強かった。それは男爵家に嫁いだ現在でも王族や公爵家を含めた有力貴族たちと友好関係を結んでいることに変わらなかった。

「それでしたら貴方も人の事を言えないでしょう……ローザリンデ様?」

 そして、カトレアに学園長お呼ばれていた彼女の名前はローザリンデ・アリスター。
 ラティアーナの異母妹にして元第4王女。卒業後も王立学園の教員として魔術の研究を続け、功績を上げたことで侯爵位を授かり臣籍降下したアリスター侯爵家当主。よく王城に出入りいているため宰相や各大臣とも繋がりがある人物でもある。

「わたくしは最早王族ではありませんし高位貴族との繋がりも豊富とは言えませんよ……少なくとも王国の重鎮と言える貴族たちとの繋がりは、お兄様やお姉様のおかげですから……」

 ローザリンデは少しだけ寂しそうな表情で残念そうに呟くと試験の結果について目を通し始めた。試験の結果は項目ごとに評価された点数と試験官から見た補足事項が書かれている。
 結果自体はローザリンデの予想通りでコルネリアスやアスカルテを始めとした王族と公爵家子息が上位を占めていた。

「公爵家以上が基礎点数で満点を取っているのは流石ですね。それにしても今年の入学生に王族と4大公爵家が揃い、Aクラスに平民出身の生徒が混じる……あの頃を思い出しますね」

 ローザリンデが思い浮かべたのはローザリンデの一つ上の世代だった。つまりはラティアーナやカトレアの学年で当時の王立学園の教師たちは随分と対応に追われたらしい。

「そうですね。わたくしは生徒としてでしたが……それでも学園で様々な事件も発生しました。途中で革命などもあって大変なこともありましたが今でも大切な時間だったと思いますよ」

 カトレアも10年以上前のことを懐かしみながら言葉にした。

「ですが、あの時よりも状況は良くありません。王位争いを含む貴族たちの派閥争いが激化と治安の悪化。教会の影響力も以前よりも増してますし逆に貴族が教会に取り入ろうと接近している場合もありますから」

 ローザリンデは今でも定期的にリーファスと情報交換をしている。元王族として他の貴族が知らないようなことも知っていて精霊教を警戒している数少ない貴族でもあった。

「第6席がコルネリアスとアスカルテが気に入っている平民。第7席は教会上層部の子息。第8席は貴族至上主義派、第9席は第2王子派、第10席は教会で育てられた聖女候補の平民。今年のAクラスに全ての関係者と派閥が揃うのは過去にもないことでしょうね」

 カトレアの言葉通り現在の貴族たちはおおよそ5つの派閥に分かれていた。
 まず一番人数が多く主流なのが国王派で現国王のリーファスと王太子のコルネリアスを支持している派閥だ。厳密にいうと4大公爵家は派閥に属していないが基本的には国王に忠誠を誓っているため同じ括りにはいることになる。
 次いで勢力が大きいのが第2王子派でコルネリアスの1歳下の弟を次期国王に推している派閥だった。
 そして、上位2つの派閥には劣るが新興貴族を中心に国政から平民を排除し貴族のみを重用したい貴族至上主義派、力を増している教会に味方し王国に対しての影響力を増やしたい親精霊教派、どこにも所属せず様子見をしている中立派といった順に派閥が存在した。

「Aクラスの担任としてお願いしますね。学園では身分に関係なく平等に扱う規則がありますが学園外や卒業後のことを考えれば無関係とは言えません。様々な圧力に屈することなく動くことができるのはカトレア様を始めとした一部しかおりませんから」

「わかっています。貴族として王国を守るのは当然ですし……彼女の理想を守り続けたいとも思っていますから」
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