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第13章 2度目の学園生活
3 平民としての2度目の入学試験
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マイヤー男爵の装飾された剣は、実戦向きではなくても質が相当良い物だ。彼自身の動きも熟練の兵士や騎士に比べれば弱いだろうが、戦いの経験がない者が相手であれば必ず勝てるくらいの実力はある。
「どうした!?防戦一方では勝てないぞ?」
「っ……」
武術の試験は魔力を使った時点で失格となるため魔術はもちろんのこと、身体強化や魔装すらも使えない。
元々この1年で少しなら身体強化を使っても問題ないくらいにはなっているが、命がかかっているような状況以外では身体強化を使わないようにしていた。
問題があるとすれば木製の魔杖ということでマイヤー男爵が持つような鋼鉄の剣を受けきれないことと、私の身体能力が年相応よりも低いことだろう。
結果として、マイヤー男爵の剣を余裕を持って躱しつつも避けられない攻撃だけを杖で受け流して耐えるしかできなかった。
「反撃する気も見せないか……やはり、期待はずれだな」
攻撃を一方的に受け続けてギリギリのところで捌き続けてしばらく経った頃。マイヤー男爵の攻撃が徐々に大振りになってくきた。攻め続けたせいで疲れてきたのか苛立ちが大きくなってきたのか分からないが、剣の軌道が短調になり隙が徐々に大きくなる。
「殿下が選んでくれた理由を見せると言ったはずです」
私はマイヤー男爵が大きく振り下ろした剣をわざと横に倒れ込むように避けた。
次の瞬間、マイヤー男爵の全身が力むのを感じた。片足を引いて重心を下げて剣を横に構えたところを見ると、身体能力に任せて私を斬るために飛びかかろうとしているのだろう。
「これで終わりにしますから」
私は体勢を整えて杖を片手に持ちを大きく後ろに引いた。
「それは、こちらの言葉だ!」
マイヤー男爵は、そう言い捨てると全力で飛び掛かってきた。一気に跳躍した勢いを斬撃に全て乗せるかのように剣を横に振おうとする。
同時に私も杖を全力で投擲した。木製ということもあって比較的軽量なこの杖は、身体強化を伴わない幼い私の力でも十分に投げることが可能だった。
投擲にせよ射撃にせよ大事なのは放つタイミングと位置だけだ。点による攻撃は、たとえ速度が足りなくても然るべき時間と場所に存在するだけで当てることができる。
「そこまで!」
マイヤー男爵は私が投げた魔杖を鳩尾に受けたことでバランスを崩して地面に足を着きたたらを踏む。
そして、傍で模擬戦の審判をしていた教員が終了の合図を言い渡した。
「まだだ!今の一撃は重くない一撃。模擬戦を終わりにするには至らない!」
「今回の模擬戦は、あくまで試験を受けた者の実力を計るためで勝敗をつけるものではありません。試験官側に修練場の保護が発動した場合は終わりと学園長からも説明があったでしょう?」
これが実戦であれば痛いだけで怪我を負わせるには至らなかっただろう。 通常の模擬戦であっても、これくらいの攻撃であれば有効打にならないと判断されるだろう。
けれど、試験であれば保護が発動した段階で攻撃が当たったとみなされるわけだ。言い換えれば保護が発動するだけの最低限の威力を持つ一撃であれば試験で結果を残すことができることになる。
「ぐっ……」
このルール自体は100年以上続いているもので私がラティアーナだった頃から変わらないこと。当然、マイヤー男爵もそのことは知っているはずだ。
彼は表情を歪め反論できないように沈黙する。
「ティア、戻っていいぞ」
「ありがとうございました」
私は投げた杖を拾い上げると修練場の外に出て元の位置へと戻った。
その後も試験は順調に進んでいく。
魔術や総合戦闘の試験官たちは、私たち平民相手でも物腰が柔らかい人が多く難癖をつけてくることもなかった。
魔術の試験では以前と同じで3つの的を破壊することが目標となっている。ラティアーナだった頃は魔力が少なかったため集束魔術と効率が良い下級魔術で的を破壊した。
だが、今回の試験では合格することだけでなくコルネリアスが私に目をかけてくれていることを証明することも必要になる。
つまり、試験官に対してコルネリアスが気にかけるだけの何かがあるとアピールしなければいけないわけだ。
「では始めてください」
他の人が下級魔術を使って的を1つずつ攻撃していくなか、私は1番目立つ方法で的を破壊することにした。
号令と同時に杖を構えた私は複数の術式を展開して中級魔術を発動させる。
選んだのは聖属性系統。本来は物理的な攻撃力が低く生命力を直接削る系統の魔術だ。
「これは……対人戦闘では有利ですが物の破壊は……」
「大丈夫です」
私は魔術の構成を変化させて対物にも効果があるように魔力の光を生成する。そして、的の近くに出現した光は強く瞬いて3つの的を包み込むと光によって範囲内の物を焼き尽くした。
「なっ……!?」
「これで終わりでいいですか?」
「え、ええ……」
周りで様子を見ていた試験官たち教員たちが戸惑いと驚愕で言葉を詰まらせるなか、私はそっと後ろへと下がった。
そして最後の実技試験である総合戦闘を開始と合図と共に無属性による最速の魔術弾の弾幕で終わらせた私は、昼休憩を挟んでから筆記試験をすらすらと回答して2度目の入学試験を無事に終えたのだった。
「どうした!?防戦一方では勝てないぞ?」
「っ……」
武術の試験は魔力を使った時点で失格となるため魔術はもちろんのこと、身体強化や魔装すらも使えない。
元々この1年で少しなら身体強化を使っても問題ないくらいにはなっているが、命がかかっているような状況以外では身体強化を使わないようにしていた。
問題があるとすれば木製の魔杖ということでマイヤー男爵が持つような鋼鉄の剣を受けきれないことと、私の身体能力が年相応よりも低いことだろう。
結果として、マイヤー男爵の剣を余裕を持って躱しつつも避けられない攻撃だけを杖で受け流して耐えるしかできなかった。
「反撃する気も見せないか……やはり、期待はずれだな」
攻撃を一方的に受け続けてギリギリのところで捌き続けてしばらく経った頃。マイヤー男爵の攻撃が徐々に大振りになってくきた。攻め続けたせいで疲れてきたのか苛立ちが大きくなってきたのか分からないが、剣の軌道が短調になり隙が徐々に大きくなる。
「殿下が選んでくれた理由を見せると言ったはずです」
私はマイヤー男爵が大きく振り下ろした剣をわざと横に倒れ込むように避けた。
次の瞬間、マイヤー男爵の全身が力むのを感じた。片足を引いて重心を下げて剣を横に構えたところを見ると、身体能力に任せて私を斬るために飛びかかろうとしているのだろう。
「これで終わりにしますから」
私は体勢を整えて杖を片手に持ちを大きく後ろに引いた。
「それは、こちらの言葉だ!」
マイヤー男爵は、そう言い捨てると全力で飛び掛かってきた。一気に跳躍した勢いを斬撃に全て乗せるかのように剣を横に振おうとする。
同時に私も杖を全力で投擲した。木製ということもあって比較的軽量なこの杖は、身体強化を伴わない幼い私の力でも十分に投げることが可能だった。
投擲にせよ射撃にせよ大事なのは放つタイミングと位置だけだ。点による攻撃は、たとえ速度が足りなくても然るべき時間と場所に存在するだけで当てることができる。
「そこまで!」
マイヤー男爵は私が投げた魔杖を鳩尾に受けたことでバランスを崩して地面に足を着きたたらを踏む。
そして、傍で模擬戦の審判をしていた教員が終了の合図を言い渡した。
「まだだ!今の一撃は重くない一撃。模擬戦を終わりにするには至らない!」
「今回の模擬戦は、あくまで試験を受けた者の実力を計るためで勝敗をつけるものではありません。試験官側に修練場の保護が発動した場合は終わりと学園長からも説明があったでしょう?」
これが実戦であれば痛いだけで怪我を負わせるには至らなかっただろう。 通常の模擬戦であっても、これくらいの攻撃であれば有効打にならないと判断されるだろう。
けれど、試験であれば保護が発動した段階で攻撃が当たったとみなされるわけだ。言い換えれば保護が発動するだけの最低限の威力を持つ一撃であれば試験で結果を残すことができることになる。
「ぐっ……」
このルール自体は100年以上続いているもので私がラティアーナだった頃から変わらないこと。当然、マイヤー男爵もそのことは知っているはずだ。
彼は表情を歪め反論できないように沈黙する。
「ティア、戻っていいぞ」
「ありがとうございました」
私は投げた杖を拾い上げると修練場の外に出て元の位置へと戻った。
その後も試験は順調に進んでいく。
魔術や総合戦闘の試験官たちは、私たち平民相手でも物腰が柔らかい人が多く難癖をつけてくることもなかった。
魔術の試験では以前と同じで3つの的を破壊することが目標となっている。ラティアーナだった頃は魔力が少なかったため集束魔術と効率が良い下級魔術で的を破壊した。
だが、今回の試験では合格することだけでなくコルネリアスが私に目をかけてくれていることを証明することも必要になる。
つまり、試験官に対してコルネリアスが気にかけるだけの何かがあるとアピールしなければいけないわけだ。
「では始めてください」
他の人が下級魔術を使って的を1つずつ攻撃していくなか、私は1番目立つ方法で的を破壊することにした。
号令と同時に杖を構えた私は複数の術式を展開して中級魔術を発動させる。
選んだのは聖属性系統。本来は物理的な攻撃力が低く生命力を直接削る系統の魔術だ。
「これは……対人戦闘では有利ですが物の破壊は……」
「大丈夫です」
私は魔術の構成を変化させて対物にも効果があるように魔力の光を生成する。そして、的の近くに出現した光は強く瞬いて3つの的を包み込むと光によって範囲内の物を焼き尽くした。
「なっ……!?」
「これで終わりでいいですか?」
「え、ええ……」
周りで様子を見ていた試験官たち教員たちが戸惑いと驚愕で言葉を詰まらせるなか、私はそっと後ろへと下がった。
そして最後の実技試験である総合戦闘を開始と合図と共に無属性による最速の魔術弾の弾幕で終わらせた私は、昼休憩を挟んでから筆記試験をすらすらと回答して2度目の入学試験を無事に終えたのだった。
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