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第十九話

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 カミナミアの街が魔力の膜に覆われた。
 魔法が使えないミマルンでも、シャボン玉の様な物に空が包まれている事が分かる。とんでもない規模の魔法だ。
「初の試みだったが、ここまでは上手く行った。後は出たとこ勝負だ。さぁ、通路を開けるぞ」
 金髪のイケメンは、複数の魔法結晶を追加で地面に叩き付けた。
「俺の名はハイタッチ・ガガ・ランドビーク。俺の名とこの声に覚えが有るのなら、世の理を歪めてでも帰って来い!」
 人の背丈ほどの空間が歪む。
 ミマルンの目には、魔法で水柱を出現させたかの様に見えた。魔法結晶の破片が宙を舞い、水柱に吸い込まれて行っている。恐らく、とても強い魔法力がこの場に集中している。
 その水柱の中に女の影が現れた。
 ハイタッチは成功したのかと笑みを零したが、なぜか顔の筋肉が動かない。
手も足も凍り付いた様に固まっている。
「やめんか馬鹿者。このままでは冗談では済まされないから、取り合えず金縛り状態にしたぞ」
 女の影は、黒から灰色、そして白へと色を変える。
 色が落ち着くと存在感が増し、まるで紙に描いた線画の様な真っ白な少女になった。
 目と口も線画の様で、それを動かして周囲の状況を確認した。
「興味本位で呼ばれて来てみれば、なんだこの街は。召喚術とは無関係な毒に塗れているじゃないか。このまま皆殺しにされると死の国が穢される。この世界の神は何をしているんだ? 神の国もなんで放置している?」
 水柱の中に居るのに普通の声で喋る真っ白な少女。
「な、なんだ、お前は?」
 固まっているアゴと舌を何とか動かしたハイタッチは、白い少女に睨まれた。
「お前が道を開こうとしていた死の国の住人だよ。つまり、お前が呼んだんだ。まぁ、私の力で召喚術を途中でキャンセルしたから、お前に罰は降り注がないし、供物もノーリスクで拒否された。ただし、罰を与えないのは召喚術の括りだけだがな」
 白い少女は、深呼吸する様な仕草で水柱を飲み込んだ。身体のサイズより大きな体積を腹に入れられたのは、きっと魔法で出来た水柱だからだろう。
「――早速現世の知識を得てみようか。先代の技の見よう見まねだが、私にも使えるはず」
 少女は薄目になって思慮した後、ふむと唸った。
「さすがにこの世界内の知識しか見れないか。しかし、この世界の神が毒の原因を作ったとは。そして、300年掛けて対応中、と」
 少女はハイタッチを見る。先程とは違い、同情する様な目付きになっている。
「なるほど、絶対に願いが叶わない能力を与えられたから、下手な鉄砲数うちゃ当たる作戦をしていたのか。個別の対応が出来ない状況だったとは言え、呪いみたいな能力を割り振られたんだな、お前は」
 ミマルンに向き直る少女。
「さて、肝心の毒だが――この男が毒に侵されておらず、そっちの女が毒に侵されているのは……。なるほど、魔物の肉を食ったかどうかの違いか」
 毒と言われ、口と腹を手で押さえて困惑するミマルン。
「え……? 魔物の肉って毒なんですか? 美味しくて安いから、頻繁に食べてしまいましたが」
「人間に害は無い。ただ神の国が困るだけだ。死の国に毒が溜まると私が自由になり……おっと、この情報を人間に漏らすとペナルティが有るか。――何はともあれ、だから私はこの男を放置出来ない。しかし、私の独断で一世界の人間を処理をする事は出来ない。権限が無いので、現世では力を行使出来ないのだ。そこで問う。この世界の神よ。この男をどうする?」
 白い少女は、何も無い空間に向けて高圧的に言った。
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