168 / 277
第十九話
7
しおりを挟む
カミナミアの街が魔力の膜に覆われた。
魔法が使えないミマルンでも、シャボン玉の様な物に空が包まれている事が分かる。とんでもない規模の魔法だ。
「初の試みだったが、ここまでは上手く行った。後は出たとこ勝負だ。さぁ、通路を開けるぞ」
金髪のイケメンは、複数の魔法結晶を追加で地面に叩き付けた。
「俺の名はハイタッチ・ガガ・ランドビーク。俺の名とこの声に覚えが有るのなら、世の理を歪めてでも帰って来い!」
人の背丈ほどの空間が歪む。
ミマルンの目には、魔法で水柱を出現させたかの様に見えた。魔法結晶の破片が宙を舞い、水柱に吸い込まれて行っている。恐らく、とても強い魔法力がこの場に集中している。
その水柱の中に女の影が現れた。
ハイタッチは成功したのかと笑みを零したが、なぜか顔の筋肉が動かない。
手も足も凍り付いた様に固まっている。
「やめんか馬鹿者。このままでは冗談では済まされないから、取り合えず金縛り状態にしたぞ」
女の影は、黒から灰色、そして白へと色を変える。
色が落ち着くと存在感が増し、まるで紙に描いた線画の様な真っ白な少女になった。
目と口も線画の様で、それを動かして周囲の状況を確認した。
「興味本位で呼ばれて来てみれば、なんだこの街は。召喚術とは無関係な毒に塗れているじゃないか。このまま皆殺しにされると死の国が穢される。この世界の神は何をしているんだ? 神の国もなんで放置している?」
水柱の中に居るのに普通の声で喋る真っ白な少女。
「な、なんだ、お前は?」
固まっているアゴと舌を何とか動かしたハイタッチは、白い少女に睨まれた。
「お前が道を開こうとしていた死の国の住人だよ。つまり、お前が呼んだんだ。まぁ、私の力で召喚術を途中でキャンセルしたから、お前に罰は降り注がないし、供物もノーリスクで拒否された。ただし、罰を与えないのは召喚術の括りだけだがな」
白い少女は、深呼吸する様な仕草で水柱を飲み込んだ。身体のサイズより大きな体積を腹に入れられたのは、きっと魔法で出来た水柱だからだろう。
「――早速現世の知識を得てみようか。先代の技の見よう見まねだが、私にも使えるはず」
少女は薄目になって思慮した後、ふむと唸った。
「さすがにこの世界内の知識しか見れないか。しかし、この世界の神が毒の原因を作ったとは。そして、300年掛けて対応中、と」
少女はハイタッチを見る。先程とは違い、同情する様な目付きになっている。
「なるほど、絶対に願いが叶わない能力を与えられたから、下手な鉄砲数うちゃ当たる作戦をしていたのか。個別の対応が出来ない状況だったとは言え、呪いみたいな能力を割り振られたんだな、お前は」
ミマルンに向き直る少女。
「さて、肝心の毒だが――この男が毒に侵されておらず、そっちの女が毒に侵されているのは……。なるほど、魔物の肉を食ったかどうかの違いか」
毒と言われ、口と腹を手で押さえて困惑するミマルン。
「え……? 魔物の肉って毒なんですか? 美味しくて安いから、頻繁に食べてしまいましたが」
「人間に害は無い。ただ神の国が困るだけだ。死の国に毒が溜まると私が自由になり……おっと、この情報を人間に漏らすとペナルティが有るか。――何はともあれ、だから私はこの男を放置出来ない。しかし、私の独断で一世界の人間を処理をする事は出来ない。権限が無いので、現世では力を行使出来ないのだ。そこで問う。この世界の神よ。この男をどうする?」
白い少女は、何も無い空間に向けて高圧的に言った。
魔法が使えないミマルンでも、シャボン玉の様な物に空が包まれている事が分かる。とんでもない規模の魔法だ。
「初の試みだったが、ここまでは上手く行った。後は出たとこ勝負だ。さぁ、通路を開けるぞ」
金髪のイケメンは、複数の魔法結晶を追加で地面に叩き付けた。
「俺の名はハイタッチ・ガガ・ランドビーク。俺の名とこの声に覚えが有るのなら、世の理を歪めてでも帰って来い!」
人の背丈ほどの空間が歪む。
ミマルンの目には、魔法で水柱を出現させたかの様に見えた。魔法結晶の破片が宙を舞い、水柱に吸い込まれて行っている。恐らく、とても強い魔法力がこの場に集中している。
その水柱の中に女の影が現れた。
ハイタッチは成功したのかと笑みを零したが、なぜか顔の筋肉が動かない。
手も足も凍り付いた様に固まっている。
「やめんか馬鹿者。このままでは冗談では済まされないから、取り合えず金縛り状態にしたぞ」
女の影は、黒から灰色、そして白へと色を変える。
色が落ち着くと存在感が増し、まるで紙に描いた線画の様な真っ白な少女になった。
目と口も線画の様で、それを動かして周囲の状況を確認した。
「興味本位で呼ばれて来てみれば、なんだこの街は。召喚術とは無関係な毒に塗れているじゃないか。このまま皆殺しにされると死の国が穢される。この世界の神は何をしているんだ? 神の国もなんで放置している?」
水柱の中に居るのに普通の声で喋る真っ白な少女。
「な、なんだ、お前は?」
固まっているアゴと舌を何とか動かしたハイタッチは、白い少女に睨まれた。
「お前が道を開こうとしていた死の国の住人だよ。つまり、お前が呼んだんだ。まぁ、私の力で召喚術を途中でキャンセルしたから、お前に罰は降り注がないし、供物もノーリスクで拒否された。ただし、罰を与えないのは召喚術の括りだけだがな」
白い少女は、深呼吸する様な仕草で水柱を飲み込んだ。身体のサイズより大きな体積を腹に入れられたのは、きっと魔法で出来た水柱だからだろう。
「――早速現世の知識を得てみようか。先代の技の見よう見まねだが、私にも使えるはず」
少女は薄目になって思慮した後、ふむと唸った。
「さすがにこの世界内の知識しか見れないか。しかし、この世界の神が毒の原因を作ったとは。そして、300年掛けて対応中、と」
少女はハイタッチを見る。先程とは違い、同情する様な目付きになっている。
「なるほど、絶対に願いが叶わない能力を与えられたから、下手な鉄砲数うちゃ当たる作戦をしていたのか。個別の対応が出来ない状況だったとは言え、呪いみたいな能力を割り振られたんだな、お前は」
ミマルンに向き直る少女。
「さて、肝心の毒だが――この男が毒に侵されておらず、そっちの女が毒に侵されているのは……。なるほど、魔物の肉を食ったかどうかの違いか」
毒と言われ、口と腹を手で押さえて困惑するミマルン。
「え……? 魔物の肉って毒なんですか? 美味しくて安いから、頻繁に食べてしまいましたが」
「人間に害は無い。ただ神の国が困るだけだ。死の国に毒が溜まると私が自由になり……おっと、この情報を人間に漏らすとペナルティが有るか。――何はともあれ、だから私はこの男を放置出来ない。しかし、私の独断で一世界の人間を処理をする事は出来ない。権限が無いので、現世では力を行使出来ないのだ。そこで問う。この世界の神よ。この男をどうする?」
白い少女は、何も無い空間に向けて高圧的に言った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!
パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~
菱沼あゆ
キャラ文芸
クリスマスイブの夜。
幼なじみの圭太に告白された直後にフラれるという奇異な体験をした芽以(めい)。
「家の都合で、お前とは結婚できなくなった。
だから、お前、俺の弟と結婚しろ」
え?
すみません。
もう一度言ってください。
圭太は今まで待たせた詫びに、自分の弟、逸人(はやと)と結婚しろと言う。
いや、全然待ってなかったんですけど……。
しかも、圭太以上にMr.パーフェクトな逸人は、突然、会社を辞め、パクチー専門店を開いているという。
ま、待ってくださいっ。
私、パクチーも貴方の弟さんも苦手なんですけどーっ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる