65 / 277
第八話
3
しおりを挟む
それぞれのペースで聞き込みをしたパーティメンバーは、日が暮れて動けなくなる前に飯屋の前に戻った。
一番に戻ったのはレイとカレン。
数歩遅れて、テルラとプリシゥアが足取り重くやって来た。
「どうでしたか? テルラ」
レイが訊くと、金髪の少年は首を横に振った。
「困っているが原因は分からない、と言った返事しかありませんでした。表情を見るに、そちらも収穫無しみたいですね」
大袈裟に肩を竦めるカレン。
「もー全然。私達が行ったアップタウンは裕福な人達が住んでいる地域だからか、汚い恰好したハンターにはすっごく態度悪いの。しょうがないからレイが身分を明かして、王女様がお忍びで調べているって事にしてやっとよ」
「そこまでしても得る物は有りませんでしたわ」
珍しくレイが疲労の篭った溜息を吐く。
「話はメシを食いながらしようか」
気配も無く現れた黒コートのグレイが不機嫌に顎をしゃくる。
「そうですね。店先での立ち話は迷惑ですね」
パーティーメンバーは店に入り、それぞれの財布で夕飯を頼んだ。テルラは質素な豆のスープとパンだったが、女性陣は力が付きそうな肉料理を頼んだ。
「僕達の方は収穫無しでしたが、グレイの方はどうでしたか?」
「怪しい動きは見られなかった。たった半日の調査では断言出来ないが、敵は全く情報収集をしていない気配がする。このクエストは解決に時間が掛かりそうだから、さっさと本命の方に行き、帰りにまたチャレンジするって手も有るな」
「確かに、ここで何日も足止めしていたら、ただでさえ協力的ではないリトンの街の不興を買ってしまうかも知れません」
上品にナイフでステーキを切っているレイが言う。
唐揚げを食べているプリシゥアと鳥胸肉の照り焼きに噛り付いているカレンも同意して頷いている。
「そうですね……。現在はちょっと不便なだけで実害はほとんど有りませんし、後回しでも良いかも知れませんね」
テルラが今後の事を考えていると、グレイが注文していた鳥もも肉のオーブン焼きが遅れて運ばれて来た。
それと同時に、立派な装備の男性二人が一行のテーブルに近付いて来た。
「お食事中失礼。貴方方は突発クエストを調べておられたハンターパーティですか?」
「そうですが、何か?」
テルラが応えると、男性二人は軽く姿勢を正した。
「俺はこの街の勇者、アトイです。こちらは相棒の」
「勇者スヴァンです」
スヴァンの肩に、掌サイズの子ザルが乗っていた。食べ物屋内でおいしそうな臭いが充満してるのに、行儀良く肩に座っている。とても良く躾られている。
「勇者様でしたか。僕がこのパーティのリーダー、テルラです」
「プリシゥアっス」
「カレンです」
「レイですわ」
食事の手を止め、名乗るメンバー達。
「……グレイだ」
食事の場なので海賊帽を脱いでいる黒コートの少女だけは、名乗ってからもも肉に齧り付いた。
「ええと、レイさんはお忍びで突発クエストに挑まれているとお聞きしました。その、貴女の正体は王女様だと。王家の協力を頂けるのなら、この街の勇者として、持っている情報をお伝えしなければと思いまして。王女を前にして跪かないのは失礼である事は重々承知していますが――」
お忍びなので周りにバレない様に小声で囁いているアトイの言葉を、軽く右手を上げて遮るレイ。
「余りにも情報が無かったので身分を明かしましたが、このパーティのリーダーはこちらのテルラです。王家ではなく、わたくし達五人がクエストに挑みますので、そのおつもりで」
金髪の少年に顔を向ける勇者達。
王女の力を頼りたかったが、我を通して機嫌を損ねても良くないと考え、大人しく従う。
「分かりました。では、テルラくん。同席してもよろしいですか?」
「どうぞ。解決に役立つ情報をお持ちなんですか?」
アトイ達は、テルラの質問に頷きながら椅子に座った。
しかし、勇者達が口を開く前にグレイが余計な事を言った。
「解決出来る情報を持っているなら、とっくのとうに解決しているだろうさ」
「ハハハ、耳が痛いです」
アトイは朗らかに笑った。
直後、真顔になる。
「解決出来ないのは、勿論理由があります。暗闇の元凶と思われているのは、クーリエ・アンミと言う少女です」
「少女? 魔物ではないと」
「ええ、そうです、テルラくん。魔物ではないから、勇者である俺達では強く出られないんです。しかも、
その少女は自分が原因ではないと言い張っている」
「その子が原因だと思った理由は何ですか?」
カレンが訊く。
「最初の闇は、彼女の自宅付近で起こりました。ごく小規模な範囲だったので、魔力持ちの彼女が疑われました。なので魔法使いを使った調査を始めようとしたら、街全体が暗闇に包まれる事態になったんです」
「へぇ。それは露骨に怪しいですね。怪し過ぎて罠っぽい」
「我々もそう思いました。ですので、アンミ家付近の魔力持ち全員を疑っています。それ以外の可能性も無限に有ります。人の仕業ではなく、アンミ家付近に魔物が居たのかも、とも。もしそうなら移動しているでしょう。つまり、解決出来ないのは疑惑が多過ぎるからなんです」
アトイに続いて言うもう一人の勇者スヴァン。
「しかし、同性同年代の君達なら、件の少女も心を開くかもしれない。犯人でなくとも、何か知っているかも知れない。どうか力を貸していただけないだろうか」
「分かりました。明日、調べてみます」
「お願いします。俺達に伝言が有れば、役所の窓口を通してくれればすぐに。じゃ、お願いします」
勇者達は、頭を下げてから店を出て行った。
座ったまま見送ったパーティメンバー達は食事を再開したが、グレイはもも肉をワイルドに齧りながら店内の様子を見ていた。
「視線を感じるが……どこからの物かは分からないな。マジで厄介なクエストかも知れないが、切迫した気配も無い。訳分らんが、このどっちつかずの綱渡りみたいな感触もハンター仕事の特徴なのかな」
一番に戻ったのはレイとカレン。
数歩遅れて、テルラとプリシゥアが足取り重くやって来た。
「どうでしたか? テルラ」
レイが訊くと、金髪の少年は首を横に振った。
「困っているが原因は分からない、と言った返事しかありませんでした。表情を見るに、そちらも収穫無しみたいですね」
大袈裟に肩を竦めるカレン。
「もー全然。私達が行ったアップタウンは裕福な人達が住んでいる地域だからか、汚い恰好したハンターにはすっごく態度悪いの。しょうがないからレイが身分を明かして、王女様がお忍びで調べているって事にしてやっとよ」
「そこまでしても得る物は有りませんでしたわ」
珍しくレイが疲労の篭った溜息を吐く。
「話はメシを食いながらしようか」
気配も無く現れた黒コートのグレイが不機嫌に顎をしゃくる。
「そうですね。店先での立ち話は迷惑ですね」
パーティーメンバーは店に入り、それぞれの財布で夕飯を頼んだ。テルラは質素な豆のスープとパンだったが、女性陣は力が付きそうな肉料理を頼んだ。
「僕達の方は収穫無しでしたが、グレイの方はどうでしたか?」
「怪しい動きは見られなかった。たった半日の調査では断言出来ないが、敵は全く情報収集をしていない気配がする。このクエストは解決に時間が掛かりそうだから、さっさと本命の方に行き、帰りにまたチャレンジするって手も有るな」
「確かに、ここで何日も足止めしていたら、ただでさえ協力的ではないリトンの街の不興を買ってしまうかも知れません」
上品にナイフでステーキを切っているレイが言う。
唐揚げを食べているプリシゥアと鳥胸肉の照り焼きに噛り付いているカレンも同意して頷いている。
「そうですね……。現在はちょっと不便なだけで実害はほとんど有りませんし、後回しでも良いかも知れませんね」
テルラが今後の事を考えていると、グレイが注文していた鳥もも肉のオーブン焼きが遅れて運ばれて来た。
それと同時に、立派な装備の男性二人が一行のテーブルに近付いて来た。
「お食事中失礼。貴方方は突発クエストを調べておられたハンターパーティですか?」
「そうですが、何か?」
テルラが応えると、男性二人は軽く姿勢を正した。
「俺はこの街の勇者、アトイです。こちらは相棒の」
「勇者スヴァンです」
スヴァンの肩に、掌サイズの子ザルが乗っていた。食べ物屋内でおいしそうな臭いが充満してるのに、行儀良く肩に座っている。とても良く躾られている。
「勇者様でしたか。僕がこのパーティのリーダー、テルラです」
「プリシゥアっス」
「カレンです」
「レイですわ」
食事の手を止め、名乗るメンバー達。
「……グレイだ」
食事の場なので海賊帽を脱いでいる黒コートの少女だけは、名乗ってからもも肉に齧り付いた。
「ええと、レイさんはお忍びで突発クエストに挑まれているとお聞きしました。その、貴女の正体は王女様だと。王家の協力を頂けるのなら、この街の勇者として、持っている情報をお伝えしなければと思いまして。王女を前にして跪かないのは失礼である事は重々承知していますが――」
お忍びなので周りにバレない様に小声で囁いているアトイの言葉を、軽く右手を上げて遮るレイ。
「余りにも情報が無かったので身分を明かしましたが、このパーティのリーダーはこちらのテルラです。王家ではなく、わたくし達五人がクエストに挑みますので、そのおつもりで」
金髪の少年に顔を向ける勇者達。
王女の力を頼りたかったが、我を通して機嫌を損ねても良くないと考え、大人しく従う。
「分かりました。では、テルラくん。同席してもよろしいですか?」
「どうぞ。解決に役立つ情報をお持ちなんですか?」
アトイ達は、テルラの質問に頷きながら椅子に座った。
しかし、勇者達が口を開く前にグレイが余計な事を言った。
「解決出来る情報を持っているなら、とっくのとうに解決しているだろうさ」
「ハハハ、耳が痛いです」
アトイは朗らかに笑った。
直後、真顔になる。
「解決出来ないのは、勿論理由があります。暗闇の元凶と思われているのは、クーリエ・アンミと言う少女です」
「少女? 魔物ではないと」
「ええ、そうです、テルラくん。魔物ではないから、勇者である俺達では強く出られないんです。しかも、
その少女は自分が原因ではないと言い張っている」
「その子が原因だと思った理由は何ですか?」
カレンが訊く。
「最初の闇は、彼女の自宅付近で起こりました。ごく小規模な範囲だったので、魔力持ちの彼女が疑われました。なので魔法使いを使った調査を始めようとしたら、街全体が暗闇に包まれる事態になったんです」
「へぇ。それは露骨に怪しいですね。怪し過ぎて罠っぽい」
「我々もそう思いました。ですので、アンミ家付近の魔力持ち全員を疑っています。それ以外の可能性も無限に有ります。人の仕業ではなく、アンミ家付近に魔物が居たのかも、とも。もしそうなら移動しているでしょう。つまり、解決出来ないのは疑惑が多過ぎるからなんです」
アトイに続いて言うもう一人の勇者スヴァン。
「しかし、同性同年代の君達なら、件の少女も心を開くかもしれない。犯人でなくとも、何か知っているかも知れない。どうか力を貸していただけないだろうか」
「分かりました。明日、調べてみます」
「お願いします。俺達に伝言が有れば、役所の窓口を通してくれればすぐに。じゃ、お願いします」
勇者達は、頭を下げてから店を出て行った。
座ったまま見送ったパーティメンバー達は食事を再開したが、グレイはもも肉をワイルドに齧りながら店内の様子を見ていた。
「視線を感じるが……どこからの物かは分からないな。マジで厄介なクエストかも知れないが、切迫した気配も無い。訳分らんが、このどっちつかずの綱渡りみたいな感触もハンター仕事の特徴なのかな」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる