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第五章 決戦! ヘビーな兵器じゃ~!

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『? ワット?』
 と、オロチが思った時には、ソモロンは既にオロチの頭上に達しており、それを追ってシルファーマもジャンプしていた。ソモロンの足の下まで来たシルファーマは、ソモロンの左右の足の裏を、それぞれ左右の手で掴んで、ぐいと持ち上げ、支える。場所は空中だが、ソモロン自身はシルファーマの両手の上に「しっかり踏ん張る」姿勢になる。
 そして、
「壁ええええぇぇ! うおりゃああああぁぁぁぁっっ!」
 ソモロンは、見様見真似でパランジグと同じ術をやってみせた。魔界と地上界とを隔てる、境界の壁。地上人より遥かに強い魔力をもつ魔王たちが、どんなに頑張っても破れない、最強無敵の壁。それをソモロンは、小さいながらも今この場に再現して見せた。
 自分と、シルファーマとを包み込む形で。そのままシルファーマが、
「ぉぉおおおおぉぉぉぉりゃああああああああぁぁっ!」
 足の裏を掴んだソモロンを大きく振り被って、オロチめがけて急降下していく。
 オロチは、パランジグとミミナを攻撃していた八本の首の内、一本をソモロンとシルファーマに向けて攻撃した。オロチの吐く破壊のエネルギーの奔流が、渦巻く輝きの怒涛が、
「ふんっ!」
 弾かれた。シルファーマが棍棒のように振るう、人間大で人間型の凶器によって。
 オロチは攻撃に使う首を四本に増やし、エネルギーを吐くだけでなく直接噛みつきにもいったが、
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃっああぁぁっ!」
 全て叩き飛ばされた。シルファーマの振るう武器は硬く、それを振るう腕力は強く。硬さと強さを共に極めたその攻撃は、オロチには止められない、通じない。
「ア、ア、アンビリイイィィバボオオォォッ?」

 オロチからの、下からの激しい攻撃を叩き返すことにより、シルファーマの体はそのつど反動で上昇してしまい、なかなか下降できない。つまりオロチの核に到達できない。だが同時に、確かに今、オロチの攻撃は全く通じなくなっている。こうなれば根競べだ。
 とシルファーマが、勝利の希望に燃えながら武器(ソモロン)を振り回していた時。
 ソモロンは苦しんでいた。
『ぐ、ぐっ……術の、維持がっっ……』
 二人を包む境界の壁が早くも揺らいでいた。壁自体は無敵なので、熱や打撃はもちろん、シルファーマが振ることによって生じる風圧なども完全に防げている。が、壁が防ぐのはあくまで、外からソモロンにぶつかってくるモノだけである。壁の中で、ソモロン自身が振り回されることによって生じる遠心力などは、ソモロンを包む壁では防げない。
 ソモロンは前にも、店内でシルファーマに同じように振り回されたことがあった。しかし今回は、その何倍もの時間、何十倍もの力で、延々と上下左右に振り回され続けているのである。それも足の裏だけを掴まれた、極めてキツい姿勢で。
 そんな状態でソモロンは、そうでなくても至難の術を、初見で、ぶっつけ本番で使っているのだ。体力と集中力を維持できる方がむしろおかしい。徐々に、二人を包む壁が薄くなり……
「ソモロンっ!」
 ソモロンを振り回しながら、シルファーマが叫んだ。
「わたしのことはいい! わたしを狙うこいつの攻撃は、全部弾いてみせる! だからその分、あんた自身の分だけに、しっかり集中して頑張って!」
「で、でも、もしあいつの攻撃が、また君に当たったら」
「うるさいっ! とにかく今、あんたがしっかりしてくれないと、全員共倒れなのよっっ!」
 シルファーマの、勇ましいその声に、振り回されながらソモロンも覚悟を決めた。
「……わかった、信じる! 最強の武器を手にした、魔王女シルファーマの強さを!」
「はっ! なかなか燃える台詞を言ってくれるわね! それでいいのよ、任せなさい!」
 ソモロンはシルファーマを包んでいた部分の壁を解き、自分に集中させた。
 シルファーマは、より堅固になった武器を振り回し、オロチの攻撃を打ち飛ばして空間を作り、必殺の一打を叩き込むべく落下していく。
 オロチはシルファーマを止めることができず、ただただ焦った。
「ホホホホワアアァァイッ? こ、こんなことが! チキュウ星人に、チキュウ星人に!」
「この際、はっきり言わせてもらうわ! あんたも、そしてソモロンもミミナもおじいさんも、みんなみんな、ごっちゃらごっちゃらと、ややこしいこと言い続けてくれたけど!」
 落下していくシルファーマが、眼下に見えるオロチの核に向かって、ソモロンという武器を大きく振り被る。
 ソモロンは境界の壁を張る為、両腕をしっかりと伸ばした状態であり、攻撃の体勢でもガードの姿勢でもない。壁越し(但し透明)とはいえ、顔面ノーガードなポーズである。そのソモロンを、今だけは大人しくドMしてなさいとばかりに、シルファーマは遠慮なく振り下ろす。
「硬い武器で強い力で、ブッ叩いて壊せない物なんて、この世に存在しなああぁぁいっっ!」
 ミミナの術で、チキュウ星全域から力を集められて高められた身体能力。パランジグが伝えた術で、ソモロンが自ら創り上げた最硬の武器。それらの力を結集させたシルファーマが、必殺の一撃を叩き込む。打撃の轟音と同時に、オロチの悲鳴が轟いた!
「GYAAAAAAAAAAAA!」
 オロチの赤い核、その表面に大きなヒビが一筋入ったかと思うと、次の瞬間それはいくつもに増えて全体に走り、表面を埋め尽くし、砕け散った。
 叩いた反動で少し浮き上がったシルファーマとソモロンが、並んで着地した時には、オロチの核は数十の破片となって辺りに散乱していた。そこから生えていた八又の大蛇の姿、オロチの肉体はというと、まるで最初から煙の塊ででもあったかのように、四散して消滅している。
 もう、炎も爆風も何もなくなった、この場。元・洞窟の中の遺跡であり、現・ただの台地であるこの場。
「や……」
 周囲一帯の森の、鳥も獣も危機を感じて逃げ去って、何も聞こえない、静かなこの場に、
「やったああああああああぁぁぁ!」
 少年と老人、そして二人の少女の歓声が響き渡った。
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