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第三章 新生活始めました
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あれからどれくらいたっただろうか…
何とか苦しさからは解放されたものの、りつは帰ってこない。
枕にしがみつき涙も涸れて、どことも分からない一点をただぼうっと見つめたまま、俺はベットから起き上がることも出来なくなっていた。
すると携帯が着信を知らせる音が鳴り響き、りつからかもしれないと急いで画面を確認すると、そこには【心】の文字。
あれから心は向こうで楽しくやっているようだったし、あまり頻繁には連絡も取っていなかったが、時折ふっと連絡が来たりしてりつとの事はある程度話していた。
このタイミングで心から連絡が来るなんて…
俺は自分勝手ながらも、すがるような気持ちで電話に出た。
「もっ…、もしもしっ…」
(将吾?…あれ?泣いてる?)
「ううんっ、泣いてないっ…なに?」
(今どこ?)
「家…だけど…あ、りつの…」
(あ、引っ越したんだっけ?)
「うん…っ」
(俺ね、今、日本戻ってきてんの!でさ?今度、りつさんも一緒に久しぶりに会えないかなぁとか思ってさ?)
「うん…っ、」
未練があるわけでも、まだ何か特別な感情がある訳でもないのに、心の懐かしい声に刺激されて甘えたいという気持ちがもうすぐそこまで上り詰めている。
「あ、なんかごめんね?邪魔しちゃったかな?」
「りつ…っ、今いないからっ…」
「そっか、年末まではこっちにいるからさ、連絡してよ!」
「…っ、んっ…わかっ、…」
切らないでっ…お願いっ…!
そんな思いが溢れ出して、言葉を詰まってちゃんと返事ができない…
ねぇ、俺苦しいのっ…気付いてっ!心…っ
「将吾…やっぱなんかあったの?」
「ん…っ、し、ん…っ』
「大丈夫っ!?もしもし?具合悪いの?」
「んぐっ…んっ、助…けてっ…」
「将吾っ!?今行くからっ!電話切らないでっ!」
「んっ…」
こんなことしたらまた、りつに飽きれられるんだろうな…
でも無理っ…耐えられない…
もう一人じゃ抱えられないよ。
もう、どうしたらいいかわかんないんだ―――
「将吾、何があった ?落ち着いて話せる?」
「りつとっ…喧嘩して…っ、俺がっ…悪いっ…俺がっ…ちゃんと話せなかった…からっ…」
それから心はタクシーでこっちに向かいながら、ずっと俺の話を電話越しに聞いてくれた。
話は支離滅裂だし途中どうしたらいいかわかんなくてパニックになりながらも経緯を説明して、心に優しくなだめなれながら少しづつ落ち着きを取り戻していった。
「ちゃんと話せば分かってくれるよ。将吾は悪くない…」
「でもっ…」
「もうすぐ着くからっ…あっ!すいませんっちょっと止まって下さいっ!…ごめん、すぐ向かうから!待ってて!」
「ん…っ」
電話を切った後、枕を抱えながら気持ちを落ち着けりつに話さなければならないことを順を追って整理した。
もし受け入れて貰えなくてもそれは仕方の無いこと…
起きてしまった事は事実だし、もう隠してた痣も全部見られてしまったんだから、覚悟を決めてゆっくりと起き上がり心が到着するのを待っていた…
が、ふと重要な過ちに気づく。
心が、ここにくる…!?
そんな事してりつと鉢合わせたらどうなる!?
たまたま心が帰ってきてて、たまたま電話に出て、たまたま来てくれることになったなんて、それが本当の事でも今のりつが受け入れてくれるだろうか…
それこそ疑われやしないだろうか…!?
そうじゃなくても前に関係のあった人をりつの家にあげるなんて、そんなこと許されるわけが無いっ…
俺は急いで心にかけ直した。
だけどコールは鳴ってるのに何故か全然電話に出てくれなくて、もう既にこっちに向かってきてるのだとするなら、鉢合わせる可能だってなくもないっ…
そんな事になったらもう言い訳も何もあったもんじゃないし、どんなに優しいりつだってもう俺の事信じてくれないかもしれない。
そう思ったらまた苦しくなって涙が止まらなくて、祈るようにコールを鳴らし続けた。
すると祈りが通じたのかプツっと呼び出し音が止んだのだ。
「あっ、心っ!やっぱり来ちゃダメっ…!」
「えっ、あ…でも、もう玄関の前でっ…」
「ダメっ!帰ってぇっ!!」
「や、でも…」
「ごめっ…俺っ、りつが好きだからっ…心には会えない…っ」
そう言い終わると同時に、玄関の扉がガチャっと開く音がした。
そして寝室の中で立ちすくむ俺の目の前に現れたのは心ではなくりつで、これは最悪の事態だと…もうダメだと思って、通話中の携帯を握りしめたままその場にへたり込んでしまった。
「あっ…あ、りつっ、ごめ…っ」
「将吾っ!ごめんな…っ、俺が悪かった…」
「な、なん…で…っ」
「心から全部聞いた。なんで早く言わねぇんだよっ!」
「だってっ…だって俺…っ、…心!?なんでっ…!?」
「分かった分かった…っ、もういいからっ…」
全然良くないよっ、心がりつに?どういうこと!?
完全にパニックの俺はりつに抱きしめられ、余計にどうしていいかわからなくて苦しくて、りつの服を震えながらギュッと握り空けっぱなしだったリビングに目をやれば、そこには心が立っていて…
もう全然理解が追いつかなくて…
だんだんと意識が遠のいていく―――
何とか苦しさからは解放されたものの、りつは帰ってこない。
枕にしがみつき涙も涸れて、どことも分からない一点をただぼうっと見つめたまま、俺はベットから起き上がることも出来なくなっていた。
すると携帯が着信を知らせる音が鳴り響き、りつからかもしれないと急いで画面を確認すると、そこには【心】の文字。
あれから心は向こうで楽しくやっているようだったし、あまり頻繁には連絡も取っていなかったが、時折ふっと連絡が来たりしてりつとの事はある程度話していた。
このタイミングで心から連絡が来るなんて…
俺は自分勝手ながらも、すがるような気持ちで電話に出た。
「もっ…、もしもしっ…」
(将吾?…あれ?泣いてる?)
「ううんっ、泣いてないっ…なに?」
(今どこ?)
「家…だけど…あ、りつの…」
(あ、引っ越したんだっけ?)
「うん…っ」
(俺ね、今、日本戻ってきてんの!でさ?今度、りつさんも一緒に久しぶりに会えないかなぁとか思ってさ?)
「うん…っ、」
未練があるわけでも、まだ何か特別な感情がある訳でもないのに、心の懐かしい声に刺激されて甘えたいという気持ちがもうすぐそこまで上り詰めている。
「あ、なんかごめんね?邪魔しちゃったかな?」
「りつ…っ、今いないからっ…」
「そっか、年末まではこっちにいるからさ、連絡してよ!」
「…っ、んっ…わかっ、…」
切らないでっ…お願いっ…!
そんな思いが溢れ出して、言葉を詰まってちゃんと返事ができない…
ねぇ、俺苦しいのっ…気付いてっ!心…っ
「将吾…やっぱなんかあったの?」
「ん…っ、し、ん…っ』
「大丈夫っ!?もしもし?具合悪いの?」
「んぐっ…んっ、助…けてっ…」
「将吾っ!?今行くからっ!電話切らないでっ!」
「んっ…」
こんなことしたらまた、りつに飽きれられるんだろうな…
でも無理っ…耐えられない…
もう一人じゃ抱えられないよ。
もう、どうしたらいいかわかんないんだ―――
「将吾、何があった ?落ち着いて話せる?」
「りつとっ…喧嘩して…っ、俺がっ…悪いっ…俺がっ…ちゃんと話せなかった…からっ…」
それから心はタクシーでこっちに向かいながら、ずっと俺の話を電話越しに聞いてくれた。
話は支離滅裂だし途中どうしたらいいかわかんなくてパニックになりながらも経緯を説明して、心に優しくなだめなれながら少しづつ落ち着きを取り戻していった。
「ちゃんと話せば分かってくれるよ。将吾は悪くない…」
「でもっ…」
「もうすぐ着くからっ…あっ!すいませんっちょっと止まって下さいっ!…ごめん、すぐ向かうから!待ってて!」
「ん…っ」
電話を切った後、枕を抱えながら気持ちを落ち着けりつに話さなければならないことを順を追って整理した。
もし受け入れて貰えなくてもそれは仕方の無いこと…
起きてしまった事は事実だし、もう隠してた痣も全部見られてしまったんだから、覚悟を決めてゆっくりと起き上がり心が到着するのを待っていた…
が、ふと重要な過ちに気づく。
心が、ここにくる…!?
そんな事してりつと鉢合わせたらどうなる!?
たまたま心が帰ってきてて、たまたま電話に出て、たまたま来てくれることになったなんて、それが本当の事でも今のりつが受け入れてくれるだろうか…
それこそ疑われやしないだろうか…!?
そうじゃなくても前に関係のあった人をりつの家にあげるなんて、そんなこと許されるわけが無いっ…
俺は急いで心にかけ直した。
だけどコールは鳴ってるのに何故か全然電話に出てくれなくて、もう既にこっちに向かってきてるのだとするなら、鉢合わせる可能だってなくもないっ…
そんな事になったらもう言い訳も何もあったもんじゃないし、どんなに優しいりつだってもう俺の事信じてくれないかもしれない。
そう思ったらまた苦しくなって涙が止まらなくて、祈るようにコールを鳴らし続けた。
すると祈りが通じたのかプツっと呼び出し音が止んだのだ。
「あっ、心っ!やっぱり来ちゃダメっ…!」
「えっ、あ…でも、もう玄関の前でっ…」
「ダメっ!帰ってぇっ!!」
「や、でも…」
「ごめっ…俺っ、りつが好きだからっ…心には会えない…っ」
そう言い終わると同時に、玄関の扉がガチャっと開く音がした。
そして寝室の中で立ちすくむ俺の目の前に現れたのは心ではなくりつで、これは最悪の事態だと…もうダメだと思って、通話中の携帯を握りしめたままその場にへたり込んでしまった。
「あっ…あ、りつっ、ごめ…っ」
「将吾っ!ごめんな…っ、俺が悪かった…」
「な、なん…で…っ」
「心から全部聞いた。なんで早く言わねぇんだよっ!」
「だってっ…だって俺…っ、…心!?なんでっ…!?」
「分かった分かった…っ、もういいからっ…」
全然良くないよっ、心がりつに?どういうこと!?
完全にパニックの俺はりつに抱きしめられ、余計にどうしていいかわからなくて苦しくて、りつの服を震えながらギュッと握り空けっぱなしだったリビングに目をやれば、そこには心が立っていて…
もう全然理解が追いつかなくて…
だんだんと意識が遠のいていく―――
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