バック=バグと三つの顔の月

みちづきシモン

文字の大きさ
上 下
9 / 42

バック=バグ、遊園地に連れていかれる

しおりを挟む
 ローディアランド、それはこの国最大級のアミューズメントパーク。様々なアトラクションがあり、人々を楽しませる。
 開演時間の少し前に着いた三人は人の多さに驚いた。
「平日なのにこんなにいるんだね」
「高い優先パスを買って正解でしたわね」
 ウェイは通常パスより半額分高い優先パスを三人分購入していた。
「リッチね」
「ストレスは感情によくありませんわ」
 ウェイの言葉に納得するエラだったが、バックは別に待つのも悪くないと思っていた。
 この三人でなら絶対楽しい、そういう確信があった。

「まずは……どこへ行けばいいの?」
 入園して、バックは尋ねる。
「そうだね、とりあえず絶叫系は避ける?」
「何でですの? まず絶叫系に乗りますわよ」
 ウェイがそう言うのに対し、エラは困ったのだ。絶叫系はバックが怖いと思って感情を低下させるかもしれない。だがウェイは言う。
「そもそもアトラクションで感情が動かない方がおかしいですわ。一度最大のに慣れておけば、後は全てを楽しめると思いますわ」
 一理あると思ったエラは一番凄いのはどれだったかを思い出す。
 エラは何度か来たことがあるのだ。だがエラの記憶よりウェイのリサーチの方が早かった。
「あの奥に見えるジェットコースターが一番凄い人気のコースターのようですわ、行きますわよ!」
 そうして着いてから順番待ちを少しして乗って行く。
 バックとエラが一番前に乗ってウェイは一つ後ろに乗る。
「念の為ですわ」
 そうしてコースターが出発する。徐々に登っていくコースターにドキドキするバック、そうして落ちて回って回転して、重力に振り回されるて、叫び続ける。
 終わった後、エラはバックが感情低下してないか心配するが、杞憂だった。
「凄い楽しかった! もう一回乗ろう!」
「いい心がけですわ! 乗りますわよ!」
「え? もう一回乗るの?」

 そうして同じジェットコースターに乗る三人。絶叫系らしく絶叫する。
「楽しい! もう一回!」
「よしきましたわ! 乗りますわよ!」
「ま、待って待って、時間に限りがあるんだよ? 他のにも行こうよ」
 ウェイはエラの様子を見て笑う。
「好きな物に乗るのが一番ですわよ?」
 エラは苦手ではなかったが、このコースターはそれほど凄いのだ。何度も繰り返し乗るのはエラにはきつかった。
「そうだね、ほかのにも行こう」
 バックもエラの提案を受けて、他のに行く。ウォーターライドに乗ってみる三人。
「凄い凄い!」
「ここからだよ」
 エラがそう言うと急に落下した。
「わああああああ!」
 水飛沫が飛び、着水する。バックは大はしゃぎだ。次はフリーフォールへ行く三人。
 徐々に登っていき頂点に着くと、回りながら落ちていく。落ちていく感覚が堪らない。
「飛ぶ感覚を味わいたいなら、ああいうのもいいよ」
 回転しながら回るアトラクション、上がったり下がったりする。バックはとても楽しんだ。

 お昼になりご飯を食べる。ファーストフードは高いが美味しい。
「エラ、ウェイ、ありがとう。本当に楽しい」
 バックの言葉に満足するエラは、ウェイの方を見た。見つめる二人は黙っている。
「どうしましたの?」
 我慢比べに負けたウェイが尋ねると、エラは笑った。
「ウェイも楽しんでるのかな? って」
「そうだよ、ウェイも楽しい?」
「勿論ですわ」
(きっと一生の思い出になりますわ。いえ、してみせますわ・・・・・・・
 ウェイは何かを企んでいた。それはバックのためであり自分のためだった。
 昼ご飯を食べた後、簡単な劇場タイプのコースターに乗り楽しみながら時間を潰した三人。パレードの時間になり、有名なキャラクター達に手を振るバック。エラは様々なバックとウェイと自身の写真を残した。
 そしてウェイに渡した。
「ワタクシは心に残しますので大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございますわ」
 しょぼくれたエラにバックは言う。
「私は貰っていいかな?」
「勿論だよ!」

 そうして夜の時間になり最後に観覧車に乗る。夜景を見ながら感動しているバック。頂点に達する直前、ウェイが、エラと座るバックの隣に無理矢理きて尋ねる。
「キスしてもよろしいですの?」
「え?」
「はぁ!?」
 バックが驚き、エラは声を裏返らせた。
「観覧車の頂上でキスしたら結ばれるという噂がありますわ。ワタクシ、バックと結ばれたいですの」
 そう語るウェイは、妖艶に笑う。
「ワタクシ、別にキスした事がないわけではないですわよ。でも、『好きな人』とキスした事ありませんの。ワタクシ、あなたの事好きなのですわ」
「な、な、な、何を言ってるの! ウェイ!」
 エラの叫びも無視するウェイ。バックは冷静に尋ねた。
「ほっぺじゃ駄目?」
「ええ、唇と唇ですわ、それも抱擁つきの熱いキスを」
 ウェイは迫ってくる。それに笑ったバックは立ち上がり、ウェイの腰に手を回す。ウェイの顎に手を当て、強引にキスして抱きしめた。
 ウェイはあまりの事に驚いて目を見開いた。だがそのキスの味は忘れまいと堪能する。

「ふ、ふふふ、奪われるとは思っていませんでしたわ。奪うつもりでしたのに」
「甘いよ、ウェイ」
 このやり取りに顔を赤らめるエラ。観覧車は降りていく。
「エラはしなくてよろしいんですの? キス」
「そうだね、する?」
 エラは顔を真っ赤にして首をブンブン横に振っている。
「後悔しても知りませんわよ?」
「後悔なんてしないよ! 馬鹿じゃないの!?」
 バックとウェイは笑った。二人にとっては大切な思い出になったからだ。一生愛する男とはキスできない、だからせめてこの瞬間だけ、『愛する人』とキスをしたかったウェイ、させたかったウェイ。
 三人は帰りの送迎の車の中で楽しく談笑していた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...