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小学校5年生編 春
にゃーむほーる3
しおりを挟むとことことこ、一々足音が沁み入ります。
さて、普通ならもう少し不安になる状況だと思うのですが。
時間が経つ毎に、僕は不思議と心が落ち着いていくのを感じました。
「よいしょっ」
いや、それどころか、ちょっぴりワクワクしてきています。
身体が存外軽いのです。目線としては本当に元の足元の位置にあるんですけれど、一っ飛びで結構飛べます。
好奇心が湧いて来ました。どこまで試せるでしょうか。
直感的に、今なら出来る気がして、壁に向かって走りだしました。
走るスピードもびっくりするくらい速いです。今なら妹にもかけっこで勝てそうですね。
ぶつかる寸前、タイミングよく跳躍します。
「よっほっ!」
成功しました。アレです、壁ジャンプです。
っと。おお、着地の衝撃もふんわりでした。一瞬ちょっと怖かったんですけど、これは気にせず、もっと高みを目指しても良さそうです。
「よ! ほ! ほいっ!」
高揚感に任せて跳ね回りました。ヤバいです。めっちゃ楽しいです。
「ふみゃーお……」
諸々忘れて楽しんでいた所、鳴き声がしました。
振り向いて、思わず「あ……」と固まります。黒ぶちさんが、その、何とも言えない表情を向けていたもので。
お恥ずかしい所をお見せしてしまった様です。
「ご、ごめんなさい。つい」
頭の後ろに手をやってへこへこ謝りました。
にゃんこ相手に何を、と思うかもしれません。
でも、黒ぶちさん、さっきよりずっと大きくて貫禄があったんです。
雰囲気的には、小学校3年生の頃の担任の先生みたいな感じでした。体育会系で、ちょっと圧が強くて怖いので、腰が引けてしまうんですよね。
「ふにゃっ」
「はわっ⁉︎」
飛び掛かられて、上から首根っこを押さえ付けられてしまいました。
お叱りでしょうか。ごめんなさい。そう謝りましたが、問答無用みたいです。首の襟を咥えられて、持ち上げられてしまいます。
「うう……ごめんなさいってば」
身体に全然力が入りません。ジタバタも出来ず、ぷらーんとぶら下がったまま運ばれます。
おや、あの穴、さっき通った隙間にちょっと似てる気がします。って事は元の場所に戻されて────
わーっと。一気に賑やかさが戻ります。
目線の高さはそのままで、情報量が一気に増えました。
流石にこれは、目が回ってしまいます。
「黒ぶちさん、ちょっと」
降ろして、と言いかけた所で広い場所に出て、そこで言葉を失いました。
そこには何と、座った姿勢のでっかいにゃんこが十匹以上ゴロゴロしていたんです。
「わ、わぁー……」
僕はその中で唯一のヒトである筈なのですが。借りて来た猫、という言葉がぴったりの心持ちになりました。
黒ぶちさんはでかにゃんこ達の隙間を縫って進んでいきます。
そしてある四匹で屯するでかにゃんこの前で僕を降ろしました。
「「「「ふにゃっ⁉︎」」」」
一斉に、視線が集まります。
その質が別に悪意とか、敵意とかじゃ無いのは明白でした。
ただただ興味と、愛情? に溢れていた様に思います。
それだけに戸惑ってしまって、反応の遅れた僕は簡単にその腕の中に抱き込まれてしまいました。
「「「「にゃああああああ!」」」」
「ちょっ、やめっ」
いや、腕、なんですかね。前足と表現するべきでしょうか。
分かりませんが、肉球で器用に頭とか、顎の下を撫でくり回されます。
「くすぐったいですっ、それに何となく恥ずかしっ、やめっ、やめてくださいっ……!」
身を捩りますが、まあ無力です。逃れられません。
たすけて黒ぶちさ……ああっ、あっちも他のでかにゃんこに構われてるっ。
彼はやれやれといった感じで相手をしています。ビジネスライクですね。
「にゃぁ~、ふにゃぁ~」
甘ったるい鳴き声。笑顔で、愛でられているのでしょうか。
気が抜けてきました。赤ちゃんをあやしてるみたいです。
僕はそんな年齢じゃないのですが、これだけ熱心に構われていると悪い気はしません。
……僕を一番撫でてるでかにゃんこ、ちょっとサトコちゃんに似てる?
そう思うと、なんだか心の奥で危ない扉が開いていく予感が────あ、背中の所、なんか気持ちいいです。とろーんとしてきました。
「にゃあぁ~」
「みぃ~」
「ふみぃ~」
これ、だめになりそう。
と、そんな時です。自分に集るでかにゃんこ四匹のうちの一匹の顔が、更にまた見知った人物に見え始めました。
「……ふぁ?」
さーっと、血の気が引いていくのを感じました。
何を隠そう、その人物は。意地の悪そうな笑みを浮かべる妹だったのです。
「んぎゃああああぁ!」
「うぉ⁉︎」「わぁっ!」
飛び上がるくらいの勢いで絶叫しました。
すると、直ぐに「あれ?」と身体の重さに気付きます。
「どうした急に⁉︎」
「ミコちゃんどうしたの?」
サトコちゃんとアズサちゃんが、心配そうに此方の顔を覗き込みました。
「……んあ?」
どういうことでしょう、元の人間がいる世界です。
にゃんこ達も驚かせてしまったみたいですし、他の人が、ちょっと迷惑そうな視線を向けています。
申し訳ないし恥ずかしいしで、取り敢えずおずおずと謝ってから、腰を下ろしました。
「ふふ、びっくりさせてくれたわね(いい悲鳴だったわ)」
珍しいかもしれません。委員長がちょっと面白い物を見た顔で揶揄って来ます。そんなに娯楽の種になる感じでしたか僕。
「うう、ごめんサオリさん。っ、わたし、どうなってた?」
「どうもなにも、キマッてたよ」
曰く自分、猫吸いを敢行中、完全にトリップしていたとの事です。
いやいや、そんなことした覚えありませんが。どの辺りからおかしくなったのでしょうか。
「なんかヤバいものでも見えたのか? 大丈夫か?(見たなら私も見たいぞ?)」
「う、うん、まあ、ちょっとね」
「確かにクセになるニオイだよね~、ぼーっとして眠くなっちゃうの分かるかも」
「大袈裟でしょ、危険物じゃないほんとにそうなら」
何処かで聞いた事がありました。一説によると、猫は人間を大きな同類だと思って接しているらしい、と。
先程のは、そんな知識が見せた幻だったのでしょうか。
「……?」
首を傾げると、前に座る人の膝の上。黒ぶちさんの、何とも言い難い生暖かい視線がありました。
……幻、ですよね?
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