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ゴルドーに滞在中のパルティアは、トリアにいるアレクシオスに事の次第を書き送った。
まずは既に手を打ったゴルドーの件が事後報告になったことを詫びる。そしてゴルドーの二人、支配人とメイド長を替えることと、不正が起きにくいよう注文や金の管理を全体に変える必要があるということ。
最後に早く会いたいと書くと、指先でアレクシオスと書かれた文字に触れる。
両家の政略的婚約が発表されたとき、社交界の誰もが驚いた。
長年宿敵のような派閥の長同士がどんな経緯でそうなったのかと、パルティアたちも興味津々に訊かれてうんざりするほどに。
婚約者に逃げられた同士などと陰口を叩く者も多くいたが、ランバルディが人気の恋愛小説家にふたりと思しき主人公の恋物語を書かせると、辛い出来事をふたりで乗り越えた美しく運命的な恋と持て囃されるようになった。
「こういうのをちょろいと言うのだろう?」
平民のスラングをランバルディが愉快そうに言う。
「ええ、本当にちょろいものですわね、こんな小説に騙されて」
ランバルディは、貴族向けに発売された美しい装丁の高価な小説本を施設のメイドに過ぎないメニアに買ってやったのだが、それには理由がある。
人気の恋愛小説家を雇って、悲劇の主人公のふたりが運命の恋人として出逢い、障害を乗り越えて幸せになる話を書かせるのはどうかと進言したのがメニアだからだ。
以前からメニアは恋愛小説に夢中だった。パルティアとアレクシオスの話は聞けば聞くほどに小説のようだとずっと前から思っており、恩人でもあるふたりに「捨てられた者同士」と陰口を叩くやつをぎゃふんと言わせてやりたいとも思っていた。
施設で王都の噂に怒り狂うランバルディと出逢い、その理由を耳にし、ともに怒りにまかせて吠えて以来すっかり仲良くなったのだ。
もちろん老獪な公爵と平民の小娘だからともだちのようなわけにはいかないが、それでもランバルディはメニアに気楽に話すことを許し、他の者では手打ちされそうな砕けたお喋りを楽しんでいる。
メニアが急遽ゴルドーの施設のメイド長になると、ランバルディも居を移してきた。
ランバルディは小柄だが元気いっぱいのメイド長を気に入っている。
大切な息子とその婚約者を恩人と崇め、ふたりを守るためなら非力な身を晒しても守りたいという気概を持っているのだ。
独身のランバルディがとうとう次を見つけたと言いだす者もいたが、そうではない。メニアは同志なのである。気兼ねなく話せ、平民のくせになぜか不思議なほど価値観の合うメニアの存在は、ランバルディに愉しみと癒やしを齎していた。
「そういえば」
メニアが茶を淹れながら思い出したように言う。
「今日、買い物をして戻ったときに怪しい人影を見たんですよね」
「怪しい?」
「そうなんです。木陰に潜むようにして。でも浮浪者が休んでいただけかもしれないですし、護衛も気づくだろうと思って報告もしていないんですけど、言ったほうがよかったかしら」
「もちろんだ!特別棟は貴族も多いし、誰かが狙われているかも知れん。すぐ支配人に報せておきなさい」
まずは既に手を打ったゴルドーの件が事後報告になったことを詫びる。そしてゴルドーの二人、支配人とメイド長を替えることと、不正が起きにくいよう注文や金の管理を全体に変える必要があるということ。
最後に早く会いたいと書くと、指先でアレクシオスと書かれた文字に触れる。
両家の政略的婚約が発表されたとき、社交界の誰もが驚いた。
長年宿敵のような派閥の長同士がどんな経緯でそうなったのかと、パルティアたちも興味津々に訊かれてうんざりするほどに。
婚約者に逃げられた同士などと陰口を叩く者も多くいたが、ランバルディが人気の恋愛小説家にふたりと思しき主人公の恋物語を書かせると、辛い出来事をふたりで乗り越えた美しく運命的な恋と持て囃されるようになった。
「こういうのをちょろいと言うのだろう?」
平民のスラングをランバルディが愉快そうに言う。
「ええ、本当にちょろいものですわね、こんな小説に騙されて」
ランバルディは、貴族向けに発売された美しい装丁の高価な小説本を施設のメイドに過ぎないメニアに買ってやったのだが、それには理由がある。
人気の恋愛小説家を雇って、悲劇の主人公のふたりが運命の恋人として出逢い、障害を乗り越えて幸せになる話を書かせるのはどうかと進言したのがメニアだからだ。
以前からメニアは恋愛小説に夢中だった。パルティアとアレクシオスの話は聞けば聞くほどに小説のようだとずっと前から思っており、恩人でもあるふたりに「捨てられた者同士」と陰口を叩くやつをぎゃふんと言わせてやりたいとも思っていた。
施設で王都の噂に怒り狂うランバルディと出逢い、その理由を耳にし、ともに怒りにまかせて吠えて以来すっかり仲良くなったのだ。
もちろん老獪な公爵と平民の小娘だからともだちのようなわけにはいかないが、それでもランバルディはメニアに気楽に話すことを許し、他の者では手打ちされそうな砕けたお喋りを楽しんでいる。
メニアが急遽ゴルドーの施設のメイド長になると、ランバルディも居を移してきた。
ランバルディは小柄だが元気いっぱいのメイド長を気に入っている。
大切な息子とその婚約者を恩人と崇め、ふたりを守るためなら非力な身を晒しても守りたいという気概を持っているのだ。
独身のランバルディがとうとう次を見つけたと言いだす者もいたが、そうではない。メニアは同志なのである。気兼ねなく話せ、平民のくせになぜか不思議なほど価値観の合うメニアの存在は、ランバルディに愉しみと癒やしを齎していた。
「そういえば」
メニアが茶を淹れながら思い出したように言う。
「今日、買い物をして戻ったときに怪しい人影を見たんですよね」
「怪しい?」
「そうなんです。木陰に潜むようにして。でも浮浪者が休んでいただけかもしれないですし、護衛も気づくだろうと思って報告もしていないんですけど、言ったほうがよかったかしら」
「もちろんだ!特別棟は貴族も多いし、誰かが狙われているかも知れん。すぐ支配人に報せておきなさい」
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