50 / 75
50
しおりを挟む
メンシアの、数日後には静養施設として開業する建物で、アレクシオスとパルティアは両親や友人たちに囲まれ、婚約式を行った。
滞在中だったニーチェルも、幸せそうなふたりに目を細める。
「婚姻は一年後とする」
何故かカーライルではなく、アレクシオスを婿に送り出すランバルディが仕切り、結婚式までの段取りもどんどん決めていく。
調印を終えると、祝いの食事で皆を饗した。
「パルティア嬢、ちょっといいかな」
ランバルディに呼ばれ、アレクシオスとともにそばに寄る。
「何でございましょうか?」
「我が息子アレクシオスをどうかよろしく頼みます」
そう言うと頭を下げたので、まわりの皆がひゅっと息を呑んだ。
「そ、そんな、お顔をお上げくださいませ」
「父上・・・」
皆の目を感激に湿らせたと思ったら、急に声色を変える。
「それで次の施設の場所はもう決めたのか?」
さっきまでの真摯な顔ではない。
金儲けに目をキラキラさせた貴族がそこにいた。
それから半年後。
三軒目の町中の施設は開業直後から大変な繁盛ぶりとなった。
当然貴族向けの施設より宿泊料はかなり安いのだが、部屋が狭い分客室数が多く、日帰り入浴の効果もあって、収益は鰻登りである。
それに味をしめたランバルディが後ろ盾となり、セリアズ公爵領地やエンダライン侯爵領地にいくつもの施設が計画され始めた。
婚約期間を無事に終えたパルティアたちは結婚式を迎えた。
いや、無事ではない。
セリアズ、エンダラインとベンベロー、シリドイラの四手に追われたオートリアスが、ある日パルティアの前に現れたのだ。
ライラはとうに捕縛され、シリドイラの修道院に幽閉されたと聞いてはいた。
その際エイリズも、カーライルとランバルディに証拠を突き付けられて断罪され、ベンベローは家を残すため当然のようにオートリアスとエイリズを切り捨てた。
それまではなんとかオートリアスを救済する方法はないものかと探っていたベンベロー侯爵夫妻が、まさかエイリズが黒幕、それに躍らされた愚か者がオートリアスと知り、ベンベロー侯爵は匙を投げたのだ。
この件でベンベロー家は領地の一部を売却し、セリアズとエンダラインに慰謝料を上乗せして支払うと申し入れてきたので、金はいらぬがその土地をもっと大きくよこせとランバルディが圧をかけた。
受け取り主はもちろん、パルティアとアレクシオスである。
「これでさらに事業が進めやすくなったな」
「ベンベローからこんなに毟り取ったのか?いくらなんでも酷いのでは?」
カーライルが同情するほど広い領地を、ベンベローは若いふたりに移譲した。
「なんの。己が息子たちを管理していなかったのだから当然の結果であろう。土地を寄越したことで我らは口を噤む。さすれば爵位が守れ、嫡男はベンベロー侯爵になれるのだ。口止め料も上乗せされたと思えば安いものだ。それでオートリアスはまだみつからんのか?ライラを見捨てて逃げるとは情けない男だが」
「ああ。エイリズを捕まえたところまでは良かったのだが・・・。そういえばシリドイラ家は本当にベンベローを訴えるのか?」
「いや、何もできんだろう。
いくらエイリズに唆されたと言ってもその気になったのはライラなのだから、ベンベローを責めるなど片腹痛いというものだ。
まったくバカな奴等で驚いたわ。いやしかし、あんなのと姻戚とならずに済んで、エイリズには感謝してもよいかも知れぬ」
そんなことはこれっぽっちも思っていないが。
「とにかく広大な土地が手に入ったのだ。いくつかの宿場町を含むから、また事業計画を起こさせよう」
カーライルは、ランバルディの青い瞳に金が写っているように見えて、思わずゴシゴシと擦っていた。
滞在中だったニーチェルも、幸せそうなふたりに目を細める。
「婚姻は一年後とする」
何故かカーライルではなく、アレクシオスを婿に送り出すランバルディが仕切り、結婚式までの段取りもどんどん決めていく。
調印を終えると、祝いの食事で皆を饗した。
「パルティア嬢、ちょっといいかな」
ランバルディに呼ばれ、アレクシオスとともにそばに寄る。
「何でございましょうか?」
「我が息子アレクシオスをどうかよろしく頼みます」
そう言うと頭を下げたので、まわりの皆がひゅっと息を呑んだ。
「そ、そんな、お顔をお上げくださいませ」
「父上・・・」
皆の目を感激に湿らせたと思ったら、急に声色を変える。
「それで次の施設の場所はもう決めたのか?」
さっきまでの真摯な顔ではない。
金儲けに目をキラキラさせた貴族がそこにいた。
それから半年後。
三軒目の町中の施設は開業直後から大変な繁盛ぶりとなった。
当然貴族向けの施設より宿泊料はかなり安いのだが、部屋が狭い分客室数が多く、日帰り入浴の効果もあって、収益は鰻登りである。
それに味をしめたランバルディが後ろ盾となり、セリアズ公爵領地やエンダライン侯爵領地にいくつもの施設が計画され始めた。
婚約期間を無事に終えたパルティアたちは結婚式を迎えた。
いや、無事ではない。
セリアズ、エンダラインとベンベロー、シリドイラの四手に追われたオートリアスが、ある日パルティアの前に現れたのだ。
ライラはとうに捕縛され、シリドイラの修道院に幽閉されたと聞いてはいた。
その際エイリズも、カーライルとランバルディに証拠を突き付けられて断罪され、ベンベローは家を残すため当然のようにオートリアスとエイリズを切り捨てた。
それまではなんとかオートリアスを救済する方法はないものかと探っていたベンベロー侯爵夫妻が、まさかエイリズが黒幕、それに躍らされた愚か者がオートリアスと知り、ベンベロー侯爵は匙を投げたのだ。
この件でベンベロー家は領地の一部を売却し、セリアズとエンダラインに慰謝料を上乗せして支払うと申し入れてきたので、金はいらぬがその土地をもっと大きくよこせとランバルディが圧をかけた。
受け取り主はもちろん、パルティアとアレクシオスである。
「これでさらに事業が進めやすくなったな」
「ベンベローからこんなに毟り取ったのか?いくらなんでも酷いのでは?」
カーライルが同情するほど広い領地を、ベンベローは若いふたりに移譲した。
「なんの。己が息子たちを管理していなかったのだから当然の結果であろう。土地を寄越したことで我らは口を噤む。さすれば爵位が守れ、嫡男はベンベロー侯爵になれるのだ。口止め料も上乗せされたと思えば安いものだ。それでオートリアスはまだみつからんのか?ライラを見捨てて逃げるとは情けない男だが」
「ああ。エイリズを捕まえたところまでは良かったのだが・・・。そういえばシリドイラ家は本当にベンベローを訴えるのか?」
「いや、何もできんだろう。
いくらエイリズに唆されたと言ってもその気になったのはライラなのだから、ベンベローを責めるなど片腹痛いというものだ。
まったくバカな奴等で驚いたわ。いやしかし、あんなのと姻戚とならずに済んで、エイリズには感謝してもよいかも知れぬ」
そんなことはこれっぽっちも思っていないが。
「とにかく広大な土地が手に入ったのだ。いくつかの宿場町を含むから、また事業計画を起こさせよう」
カーライルは、ランバルディの青い瞳に金が写っているように見えて、思わずゴシゴシと擦っていた。
57
お気に入りに追加
999
あなたにおすすめの小説

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。
結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月10日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング2位
2020年11月13日「カクヨム」週間異世界ファンタジーランキング3位
2020年11月20日「カクヨム」月間異世界ファンタジーランキング5位
2021年1月6日「カクヨム」年間異世界ファンタジーランキング87位

新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜
本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。
アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。
ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから───
「殿下。婚約解消いたしましょう!」
アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。
『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。
途中、前作ヒロインのミランダも登場します。
『完結保証』『ハッピーエンド』です!


【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……
水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。
相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。
思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。
しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。
それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。
彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。
それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。
私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。
でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。
しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。
一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。
すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。
しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。
彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる