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 追手を掻い潜り、逃亡したオートリアスだが、資金源だったエイリズもライラも捕まってしまった。

 オートリアス・ベンベロー。
今となってはその名を名乗ることはない。
美しかった容姿は汚れ、人目を避けるよう気を配ることが身についたせいか、背中は丸まり、視線が鋭くなった。

「なぜこんなことになったのだろう」

 オートリアスは深くため息をつく。
 潜伏先の近くに美しく設えられた宿が建てられたのだが、その事業主がエンダライン侯爵家のパルティアだと聞いて、自分の身との差を痛感させられていた。

 ─ライラと出会わなければ今頃自分は─

 あの宿の人の出入りを見れば、経営者の懐具合もわかるというものだ。

 ─しかしいつからパルティアは事業など─

 調べてみると、婚約解消したしばらくあとのようだ。

 ─ということは父上が払った慰謝料を使ったのか?─

「あ!」

 オートリアスは閃いた。
ベンベローから払われた金なら、元は自分の家の物なのだから、それを自分に返してもらおうと。

「素晴らしい考えだ!」

 たぶん誰一人そうは思わないだろうが、オートリアスはすぐに動いた。
まずは今どこにパルティアがいるかを確認する。屋敷にいなければ、他のどこかだ。書状のような連絡が来るのを隠れ待つと、そのうちオートリアスにも見覚えのある書状入れを持った使いがやって来た。

「あ!あれだっ」

 使いが屋敷から出てくると後をつける。
歩いて乗り合い馬車に乗り込むのを確認し、店のガラスに映る自分の髪を手櫛で整え服の埃を払うと自分も乗り込んだ。

「どこまで?」

 御者に聞かれてとりあえず答える。

「終点」
「では200メルを」

 少ない手持ちから小銭で払うと、使いの隣りに座った。

「隣りいいか?」
「ああ、どうぞ」

 使いが少し詰めてくれる。

「どちらまで?」
「ゴルドーです」
「ああ、一緒ですね」
「先ほど終点とおっしゃっていたのでは?」
「ええ、ゴルドーと終点のセメレの中間なので、降りやすい方でと思って念のために終点にしておいたのですよ」

 ゴルドーは終点セメレの一つ手前の町だ。

「なるほど。中間だとどちらからも結構歩くから大変だ」
「そうなんですよ」

 うまく誤魔化せたらしい。
他愛もない話をしながらオートリアスはゴルドーで降りた。

「暗くなるうちにつきたいから」

 そう言うと使いはもう疑わず、気をつけてと手を振って見送ってくれた。
オートリアスはさも親しげに何度も振り返っては手を振り返す。そうして使いが踵を返したのを見て取ると、急いで使いの後をつけた。

 ゴルドーの馬車停留所からしばらく歩くと、小高い丘を登って行く。姿を隠す所がないので距離をあけているのだが、目指すところはもう丘の上の瀟洒な建物で間違いないだろう。

「よし、宿を探して、明日から調べることにしよう」

 安宿を見つけると、すぐ寝台に潜り込む。腹が空いているが、手持ちが減るばかりなので節約のために早く寝る。朝食つきの宿なので、最低でも一食は確保できるのだからと自分を慰めて。

 ─パルティアに会えれば金が手に入る。それまでの辛抱だ─
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