三日月のリアライズ

アラタ

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Dark room(暗室)④

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『そう興奮するな、C-ray-3333』 
 思わず立ち上がり抗議した俺に、グレッグの声が重なった。

『君の暴力は利己的なものではなく、サラを救うためだった。だがひとつ問題がある。わかるかね? スミス氏を殴る必要はなかった、決してね。対話という解決法を取るべきだった。そのようにフランド・ハートリーから教育を受けたはずだ』

「あの場に居合わせたら、あんただって俺と同じことをする」

『暴力を暴力で封じるのは感心しない。頭の悪い者が選ぶ愚かな行為だ』

 話が通じない。家族間の問題に介入するなってなんだよ。社会的弱者より、金を落とす人間を守れっていうのか。腐った拝金主義者どもめ。

「あんたたちには、心がないのか」

 グレッグとのやり取りを聞いていたエイリーが、ふっと鼻で笑った。

「ああ、失礼。まるで君に心があるかのような言い様だったもので、つい。人間を模倣しているだけの存在が、ねェ」

「なにが言いたい?」

「ロボットに心は宿りません。コンテキストによって導かれた言動をリアルタイムで出力してるに過ぎない。滑稽だな。さも偉そうに講釈を垂れたところで上滑りですよ」

 行動や判断のベースは、完全にプログラムによるものだ。けど、それがなんだ。心があろうとなかろうとどうだっていい。大事なのは幼い命を守れるかどうかだ。結局、誰も彼も俺を悪者にしたいんだ。どうしてだよ。
 
「問題行動に及んだ原因として、プログラムが未熟だったとも考えられますね。プログラマーはいまどちらに? 話が訊きたい」

「彼は退職して、いまは連絡が取れませんわ」
「ほかにもプログラミングしましたか。不具合は」
「数十体手がけましたが、特に問題なく仕事に従事しています」

「自我が強いのはC-rayのみですか。興味深いですね。それと……今しがた入った知らせですが」
 記事を読み上げるような調子で、エイリーが淡々と告げた。

「サラは収容先の病院で亡くなったそうです」

 サラが、死んだ……? 
 俺は茫然とエイリーの言葉を反芻した。サラが――。

「嘘だろ……サラが死んだなんて」
「残念ですが、報告は事実です」

 助けてやれなかった無力感でいっぱいになった俺は、気づけばとっさに叫んでいた。

「ジョージなんか、殺してやればよかった……!」

 モニターの映像が切れ、尋問室のドアが開いた。警備員を引き連れたグレッグが、タリスに部屋を出るよう命じた。

「愚かですね。君はもっと賢いと思っていたのに」
 警備員に拘束され自由を失った俺に、エイリーが蔑みの目を向けた。

「所詮は機械、期待するだけ無駄でしたね」

 言いたいだけ言って、エイリーが部屋を出ていく。
 人間なんて、クソ野郎ばっかりだ。

 ここで終わりだ。明日は来ない。悟るのに、演算などいらなかった。
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