元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

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第3章 ブルドー公爵領編

第53話 ハズール沖海戦②

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 えー、こちらリュミエール。現在最大船速で敵艦隊に接近中。

 と言うわけで俺たちは真正面から敵の大艦隊に突っ込んでいるところだ。振り返ると港はもうずいぶん遠く、人を識別することは難しい。

 そして眼前には40隻を超える海賊の大艦隊。相手の船はどれも俺たちの船より一回りは大きく、甲板にはたくさんの海賊たちが身を乗り出しているのが見える。1隻あたり20人ほど、実際には操船していて姿が見えないのもいるはずだからざっと1000人くらいはいるってことか……

 相手との距離が200mくらいにまで縮んだところで、リュミエールの速度を落とし、甲板で仁王立ちしているシエナに声を掛けた。

「おーい、シエナ!あの船の旗、落とせる?」

 俺の指差す海賊船の方に目をやって、シエナが親指を立てて見せた。
 これだけの大艦隊の真ん中で大きな旗を掲げているなんて、きっとあれが文字通りの旗艦で間違いないだろう。

「任せなさい!」

「あ、魔法は使わないで……適当にコインでも投げてくれる?」

 そしてシエナは俺のパスした財布から硬貨を一枚取り出すと、メインマストの上で風を受けてはためく巨大な海賊旗を支える、旗竿をめがけて硬貨を一枚放り投げた。

「行くわよ!そりゃぁぁぁぁぁ!」

 硬貨が銃弾のように一直線に旗竿に向かって飛んでいく。

「あ……」

 あれは1万R銀貨……シエナのやつ、よりにもよって手持ちで一番高額な硬貨を……

 バキッ!

 貴重な1万R銀貨はしっかりと旗竿の根本に直撃し、まるで竿を食い千切るように粉砕して海の彼方に消えていった。

 そして支えを失った巨大な海賊旗はヒラヒラと海面に落ちていった。

「どんなもんよ!」

 こちらを振り返り得意げに胸を張るシエナ。1万Rは惜しいが、結果に免じて目をつぶろう…… 

 俺たちがリュミエールの上でしばらくワイワイやっていると、やがて正面の大艦隊から一斉に怒声が発せられた。

「なによ、旗折ったくらいで大げさね!大穴空けられなかっただけありがたいと思いなさいよね!」

 シエナにとってはたかが旗の一本だが、当然彼らにとっては海賊の象徴(シンボル)なわけで、まぁこの怒声は想定通りだ。

「じゃ、コレで奴らの注意はこっちに向いたはずだからここからは全力で逃げ回るよ」
 
 そう言って俺は再度リュミエールの速度を上げ、敵の船団に向かって全速力で突っ込んだ。

◇◆◇◆◇

 ゲリックは旗艦の艦橋から前方の港を眺めていた。

 すると、1隻の船が港から出てくるのが目に入った。サイズはせいぜい中型の漁船ほど。しかし、奇妙なことに帆も無いのにまっすぐにこちらに向かって進んできている。

「おい、ありゃ何だ……?」

 ゲリックはすぐに望遠鏡を取り出すと、こちらに向かって突っ込んでくる船にピントを合わせた。

 やはり船には帆がないが、代わりに両側の水車が水をかいて進んでいるように見える。ゲリックの長い海賊人生の中でも、今までにあのような船を見たことは一度もなかった。

「どういう仕掛けだ?」

 気にしたところで分からないものは分からないのだが、船の速度は異常に速い。そして、その珍妙な船がかなり近づいてきたとき、甲板に立っている人影が、若い女であることに気がついた。

「ゲリックさん、あの船……一体どうなってるんですかね?」

「分からん……しかし、へへへっ……あの女見てみろ?なかなかの上玉じゃねえか」 

「おぉ……確かにすげえ美人ですね。」

「へへへっ……お頭に取られちまう前に俺たちで遊んでやろうじゃねえか」

「ゲリックさん、いつもみたいに俺たちに回ってきたときには死んじまってるなんてのは無しにしてくださいよ?」

 ゲリックとその部下は艦橋で互いに顔を見合わせ、卑しく笑みを浮かべていた。

 バキッ!

 突如何かが砕けるような嫌な音が艦橋に響いた。

「ん?なんだ?」

「さぁ?……バカが床でも踏み抜きましたかね?」

「いや、今のは上から聞こえたぞ」

 そしてゲリックと部下は艦橋を出て、甲板に出た。

「ゲ、ゲリックさん!大変です!」

「おう、落ち着け。一体何があった?」

「そ、それが……あの船に乗ってやがる女がついさっきこっちに何かを投げたんです。それがあろうことか、旗竿に当たっちまって……」

 そして、海賊はおどおどと艦橋の上部を指差した。ゲリックと部下はその指の先に視線を向けると顔を青くして固まった。根本から先を失った旗竿……もちろんそこに掲げられていたマセラティ一味の海賊旗は既に無くなっている。

「か……海賊旗はどこ行った!?」

「う、海に落ちて沈んじまいました……」

「な、なんてことだ……あの女がやったのは間違いねえんだな?」

「は、はい!他のやつも見ていたので間違いないです」

 甲板に集まった他の海賊たちもゲリックに向かって首を縦に振り、肯定の意を返す。

「そうか……おい野郎ども!あの船止めて中の奴引きずり出してこいや!」

「「「おぉぉ!!!」」」

 あの上玉の女を自分で嬲れないのは残念だが、背に腹は代えられない。拘束してマセラティに差し出さなければ、海賊旗を失った失態で自分の首が飛ぶだろう。
 
 ゲリックの命令はすぐに旗信号で他の艦にも伝えられ、それぞれの船の甲板には弓に矢をつがえた海賊たちが並び立った。

◇◆◇◆◇

 えー、こちらリュミエール。現在、敵艦隊との距離約50m、天気は雨です……矢の。

 というわけで相手の弓矢の射程に入った辺りから無数の矢が降り注いでいる。中には火矢も混ざっていたりして、エアバリアがなければ今頃この船は大炎上していたことだろう。

「うっわ~!なんか、すごい怒鳴られてるんですけど!」

 シエナは相変わらず甲板に立ったままだ。

 ちなみにソニアはエストレーラの後部座席に座っている。

 俺はアクセルとハンドルを細かく操作しながら海賊たちを挑発するように艦隊の前を右へ左へとリュミエールを走らせていた。

 相手との距離が10mほどに近づくと、弓矢だけでなく爆薬の詰まった小瓶まで飛んできた。もちろんリュミエールはびくともしないが、爆発の衝撃で水面がグラグラと揺れる。

「う……シリウス……なんか、私、気持ち悪くなってきた……」

 後ろに座るソニアがつらそうだ。

 美女のリバースだけはなんとしても防がなければならない。

 俺は一度海賊船と距離を取ろうとリュミエールを反転させ港の方に船首を向けた。

「あ!!!」

 港から今まさに出撃しようとする巨大な軍艦を見つけたシエナが大声を上げた。

「よし、間に合った!シエナ、早くこっちに!ソニアの回復をお願い!」

 そしてシエナの状態異常回復により、ソニアも間一髪のところで乙女のピンチを乗り切ることができた。

「二人ともここからのミッションは軍艦の護衛だ!」

 俺たちは海賊船から一気に距離を取り、公爵とクレーの乗る軍艦に
向かった。

◇◆◇◆◇
 
 クレーはドックにやってくるなり、整備スタッフに艦の出港を命じた。整備スタッフたちはこれまで繰り返し訓練してきたように、すぐに出港の準備を整えた。倉庫で漁船のメンテナンスをしていた者も、号令一つですぐに集合し総勢150名の乗船員が軍艦に乗り込んだ。 

 ドックを出た軍艦が港内に姿を現すと、港に集まっていた町民からどっと歓声が沸き起こった。

「ブルドー公爵!クレー様!」
「町を、お願いします!」
「お願いします!」

 ブルドー公爵とクレーは2人並んで軍艦の艦橋に立ち、港で軍艦を見送る民たちに手を振って応えた。

「いよいよですね、父上」

「あぁ」

 そして、艦橋に備え付けてある長距離望遠鏡で敵の状況を確認した。携帯用のものと違い、かなり遠くの様子まで鮮明に確認することが出来る。

「シリウスたちが上手くやっっているようだな」

「はい、それにしても……帆も無いのにあれだけ動ける船なんて規格外もいいところですね……」

 クレーは苦笑を浮かべ、ため息混じりにつぶやいた。

「クレー、中央の艦を見てみろ……どうやらシリウスのやつ、マセラティの海賊旗をへし折ったらしい」

「ハハハ……挑発としてはこれ以上無い出来ですね」

「あぁ、膳立てを無駄にせんためにも、こちらも死力を尽くさねばならんな」

 そして港を出た軍艦は一直線に敵の大艦隊を目指した。すでに敵艦との距離は500mほどだ。

 その時シリウスたちがこちらに向かってくるのが見えた。

「クレー、そろそろ行けるか?」

「はい、父上」

 クレーの指示で軍艦は船側を海賊の艦隊に向けるような格好となった。

「カタパルト用意!まずは石弾で距離感を確認するぞ………撃て!」

 合図とともに船側に固定された7基の投石機からボーリング玉ほどの石弾が射出された。そのうち6発は距離が短かく敵船に届かなかったが、最後の1発が敵船の1隻に直撃した。

「ほぅ、幸先が良いな」

 ブルドー公爵もまさか調整目的の1発目で着弾するとは思っておらず、これにはすこし声が上ずった。

「各基調整急げ!次弾用意………撃て!」

 今度は4発がそれぞれ敵艦に直撃した。距離の調整も、装填速度の速さもクレーが船員たちをしっかりと教育してきた成果としてしっかりと結果に現れている。

「各基、火炎弾用意!………撃て!」

 そして火の付いた油壺が一斉に射出された。7発中6発が見事に敵艦にヒットした。

 油壺一つとってもクレーの工夫が凝らされていた。油壺の形状も重さも石弾と同じになるように設計され、中身の油もよく燃えるように改良が重ねられていた。

 その後もクレーの指揮のもと、石弾と火炎弾は相手の射程外から高確率で敵艦を捉え続けた。

◇◆◇◆◇

 ゲリックは苛立ちを抑えられず、艦橋で部下たちに怒鳴り散らしていた。

「40隻が一斉に攻撃して傷一つつかんとはどういうことだ!」

「も、申し訳ありやせん……矢も爆薬もまるで効果がなく……」

「そんなことが出来るとすれば魔法しか無い!魔法使いの魔力が尽きるまで攻撃を浴びせ続けろ!」

 一刻も早く、奴らを捕らえマセラティに差し出せるようにしておかなければ……ゲリックに残された時間にそれほど余裕は無かった。

「ゲ、ゲリック様!大変です!」

 そして別の部下が艦橋に飛び込んできた。

「今度は一体何だと言うんだ!」

「ぜ、前方を!港から巨大な戦艦が出てきました」

「なんだと!?」

 目の前を蝿のように動き回る奇妙な船に気を取られ、港町から意識がそれていたゲリックは慌てて望遠鏡を覗き込んだ。 

「何だあれは!?」

 レンズの中に見えるのは、数十メートルはあろうかという全長に、4本のマストを携える超巨大な軍艦であった。 

 そして先ほどまでこちらを挑発するように接近していた中型船が巨艦に合流するようにこちらを離れるのが目に入った時、ゲリックは自分たちがまんまと時間稼ぎに付き合わされていたのだということに気がついた。

「クソッ……クソォォォ!」

 椅子を蹴飛ばし八つ当たりしても既に遅かった。巨艦は船隊を横に向け、間もなく何かを撃ち出した。

「あれは……投石機か!?」

 横に展開した艦隊の端から順に狙われているようだ。

 その後、ゲリックのもとには部下からの止まない被害報告が寄せられたのであった。

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