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13 雷神の如き一撃をあなたに

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 メガーの攻撃は、新たに現れたキュービクルによって阻止された。

 彼らの本拠地である巣から生還したカエリズミなのは声でわかった。ホッとするまもなく、メガーの追撃が襲ってくる。だけど、動くことのできないわたくしを守って戦い続ける彼女の姿を見ていると、力が湧いてきた。

「おねえさま、しっかりしてください。こんなことで倒れるおねえさまじゃないでしょう!」
「来てくれて、助かったわ。ありがとう、カエリズミ」

 彼女が来たからにはもう安心だ。あとのことは彼女に任せてしまおうという甘えが出てくる。
 だけど、ちょっとおかしい。さっきからカエリズミの声しか聞こえないのだ。

「ねえ、カエリズミ……あなたの声しか聞こえないわ。もうひとりの子は?」
「ここに来るまでに全力をぶっ放したから、完全に放心しています。安心してください、他の子たちも軍のみなさんも無事で、こちらに向かってきてくれていますから」

 他の子たちの無事の知らせは、わたくしの緊張を和らげた。

「おねえさま、意識があるのなら、今すぐ私の隣に来てください!」
「残念だけど、わたくしもう動かせないの。さっきから、頑張っても頑張ってもキュービクルが動いてくれなくて……無理なのよ!」

 これで一安心だと思うまもなく、カエリズミの危機的状況にハッとする。

「そんな。私だって、私ひとりの力じゃ、これ以上は無理です。おねえさまがいないと私……! お願いです、おねえさま! こっちに来て私と一緒に戦ってください!」
「カエリズミ……行けるものなら行きたい。でも、行ったところで、足手まといになるばかりなのよ!」
「そんなこと、誰が決めたんですか! そのキュービクルがどうしてそこにあるのかわかりません。でも、動力が少し動いているじゃないですか。おねえさまの力でしょ?」
「主電源をオンにするくらいなのよ」
「なら、なら! できるはずなんです! おねえさま、お願い。タイム、いつものように隣に来て! そして、敵をやっつけましょう!」

 カエリズミの心のそこからの叫び声と気持ちが諦めていたわたくしの胸を貫く。

 そうだ、キュービクルをひとりに動かす大変さは、わたくしが一番知っている。今のわたくしが乗っているキュービクルではなく、2人用に開発されているキュービクルを操作しているカエリズミはどれほど大変なのだ。

 今、わたくしが、わたくしだけが彼女に力をかせる。

「お願い、動いて。わたくしの体!」

 渾身の思いを込めて腕を動かす。すると、キュービクルは動かないまま、でも、わたくしの乗り込むコクピットが離脱した。

「おねえさまっ!」
「カエリズミ!」

 カエリズミの乗り込んだキュービクルが、わたくしのコクピットをしっかり支えた。もう一人の子と交替して、コクピットを安全地帯にオートで移動させる。

「おねえさま、来てくださったのですね」
「カエリズミ、情けない姿を見せてごめんなさい」
「いいえ、いいえ。私、おねえさまが隣にいてくれるだけで、とっても嬉しいんです。力がどんどんあふれてくるのがわかって……」
「ええ、わたくしもよ」

 相乗効果というものだろうか。体はうまく動かなかったはずなのに、カエリズミと一緒ならなんでもできそうな確信が持てるのだ。

「いくわよ、カエリズミ」
「はい、おねえさま!」

 わたくしたちは、同時にレバーを引き力をこめる。キュービクルの反応が普段よりも良い。

 メガーは、怒り狂って猛攻撃をしかけてくる。司令官たちがシバタをいなしてフォローしてくれていなければ、さっきまでの数分の間に、わたくしだけでなくカエリズミも宇宙の塵とかしていただろう。

「おねえさま、アレをやりましょう。訓練中には成功率40%でしたけど、女王を倒すには、アレしかないと思うんです」
「アレね。ええ、今ならいける。わたくしたちなら、いけるわっ!」

 正面から、メガーが片腕を思いっきりわたくしたちに振り上げてきた。

 もうないと思っていた力が、底の底から無尽蔵に生まれだす。

「はあああああああ! 私達の思いをくらええええっ! 神の雷鎚トールハンマー!!」

 二人同時に必殺技を繰り出す。キュービクルが足から女王アリに突撃して、メガーの顔を貫いた。

 メガーの頭部が、悲鳴をあげる間もなく吹き飛んだ。だというのに、大きな体は何事もなかったかのように攻撃をしてきた。

「なんてこと。頭部を砕かれて体がなおも戦おうとするなんて……」
「もしかしたら、頭部はメインのようなもので、サブシステムが働いているのかも。ううん、逆かもしれませんし、複数の頭部があるのかも」
「複数の頭……でも、場所がわからないわね」

 分厚い体のどこに頭部のような機能を持つ部分があるのか。でも、そんなことはどうでもいい。

「場所がわからなければ、すべての部位をつぶすまで!」

 わたくしたちは、関節という関節の間の部位を砕き続けた。

「メガー!」

 女王アリの命が風前のの灯火になったと思われた頃、司令官の攻撃を振り切ってシバタがやってきた。
 見れば、シバタの手足や羽がちぎれている。キュービクルでなくても、普通の戦闘機だけでUMAに致命的なダメージを与えることができる司令官たちの実力に舌を巻く。

「昆虫といえば、触角かも?」

 シバタまでやってきては、パーツの全てを破壊しようにもきりがない。その時、カエリズミがぽつりとつぶやいた。

「そうだわ、触角よ。触角さえつぶせば、コントロールを失うわ」

 思い返せば、女王アリたちの触角は顔の上にはなかった。体のどこを見てもなさそうだ。ならばどこに隠されているのか。

 わたくしたちの言葉は、軍部に筒抜けだ。わたくしたちの会話を聞き、軍部はすでに触角の有無や位置をデータで解析したのだろう。

 送られてきた結果を見て、わたくしたちはアリのおしりの部分に狙いを定めた。

「これで、最後よ。トールハンマーーーーー!」

 女王アリのおしりと一緒に、シバタの下半身全体を破壊する。すると、残された体の一部は、ぴたりと動きを止めた。

「まさか、頭じゃなくておしりの針のようなでっぱりだったなんてね。それにしても、カエリズミお手柄よ。触角をつぶせばいいと思いつくなんて」

「たまたまですよー。私は、おねえさまがいなかったらそもそもここにはいなかったし。それに、皆さんのおかげで解析できたんですから。ほんと、私達の常識なんて役に立たなかったですね。あー、マジ、もう無理。もう、息するのもつらーい」
「ふふふ、わたくしも」

 無事に勝利を治めたわたくしたちは、ハイタッチすらできず、軍の救出を、動きが完全に停止したキュービクルの中で待ったのだった。
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