完結 R18 わたくし単なる悪女でございましたが、なぜだか巨大ロボットを操縦しています。

にじくす まさしよ

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12 ヒーローはここぞという時に現れるもの

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 女王アリと対峙した時、不思議と恐怖心はなかった。一番大きな個体なんだけど、前世でさんざん見てきた顔がのっかっているからかもしれない。

「小賢しい人間どもめ。お前たちのせいで、私の子は死んでしまった」

 さも悲しげに、自分は被害者だと言わんばかりに涙をこぼしながらこちらを責めてくる。それは前世でのメガーそのもののようで、どことなく嫌な懐かしい気持ちになった。

「メガー。それは、わたくしたちのせいではないわ。もともと、あなたたちがわたくしたちを侵略しようとやってきたのよ。正当防衛だし、卵たちに至っては、あなたたちが自ら壊したのでしょう!」

 わたくしの言葉を聞いて激昂した女王アリが、大きな羽を動かして前足でおそいかかってくる。

「ええい、誰が私の名を気安く呼んでいいと言った。お前たちが大人しく、我々の餌になっていたら、今頃子どもたちはかわいらしい姿をしていたんだ!」

「そんなの、逆恨みもいいところじゃない!」

 ものすごい衝撃だ。前足の鉤爪があたり、キュービクルの一部がえぐりとられた。
 だけど、やられっぱなしではない。わたくしは力を込めて女王アリの右足に一撃を放った。

「ぎゃああああ! いたい、いたいっ! 何をする!」

 細く長い前足がいとも簡単にぽっきり折れた。予測通り、地球の昆虫と同じように、甲殻はとてつもない強度をもっているけれど、関節は弱いようだ。

 女王アリの悲鳴を聞き、シバタがこちらを振り返る。ものすごい速さで向かってくるが、司令官たちの攻撃によって阻まれた。

 女王アリを叩くのは、今のうちだけ。もしもシバタが合流したら……

 試作品のキュービクルの上に、パワーも半分以下。この状態でUMAを二体どうこうすることなんてできない。今のうちになんとかしなければ。

「おのれええええ!」

 女王アリが、可愛らしい顔を化け物のように歪めて襲いかかってきた。キュービクルが、残った前足でたたきつけられ、位置を保持できず飛んでいってしまう。
 キュービクルに受けた衝撃のせいで、どこかの回路がスパークしたのか、バニースーツに電流がビリビリ流れた。体中が痛み、目が霞む。意識がぼんやりする。

「くっ! ダメ、キュービクルお願い、動いて!」

 しびれる体の力を振り絞っても、わたくしだけの力では、キュービクルの体勢を整えることが叶わなかった。それどころか、キュービクルが静かに眠るように動かなくなっていく。小さな機械の音やライトすら消えた。

「ははは! 偉大な我らの餌ごときが、何をしようとも我らの敵ではない。しねええええ!」
「きゃあああっ!」

 女王アリが、わたくしが乗っているコクピットめがけて攻撃をしかけてきた。連打につぐ連打のせいで、強い電流がわたくしの体中を走った。体も頭も座席に強く打ち付けられる。

「タイム、しっかりしろ!」

 プライベートスピーカーから、コーチの声が聞こえるけれど、何重にも膜がはられているかのように遠い。

 なんだか、前世で命を失った時のように、意識がなくなっていく。

 ダメ、ここで倒れてしまったら、地球の皆はどうなるの?

 わたくしたちに未来を託してくれている人々、一緒に厳しい訓練をして来た仲間、そして、コーチの気難しい顔をして小言を言っている姿が思い浮かんでくる。



「タイム、お前はこんなところで終わるやつじゃない。思い出せ、俺との特訓を忘れたのか!」

「とっくん……」

コーチ……

 わたくしに、キュービクルを操縦するために訓練してくれた厳しい眼差しと叱責、でも、包み込むように導いてくれた人。
 
 そうだった。まだ、力を全部出し切っていない。それに、コーチに聞きたいことがあったんだった。

「両手でしっかりレバーを握るんだ!」
「レバーを握って……」

 しびれて麻痺している手を、レバーに添える。震えているし力が入らない。でも、触れるだけでいい。それだけで、キュービクルはわたくしの力を感知して取り込んでくれる。

「そうだ、そしてセンサーに指を当てろ!」
「センサーに、指を……」

 レバーのどこにセンサーがあって、どのように指先を添えるのかなんて、場所を見なくてもわかるくらい、訓練してきたじゃないか。

「いいぞ、そのままいつものようにキュービクルを目覚めさせろ!」
「キュービクル、パワーオン」

 わたくしが気絶寸前まで意識をとばしたために、キュービクルの動きは完全に停止してしまったようだ。まずは、力をキュービクルに伝えてうごかさなければならない。

「ダメ、わたくし、ひとりじゃ、うごかせません……」
「いいや、お前なら動かせる。自分の力を信じられないのなら、俺の声を聞くだけでいい。そして、敵を憎む気持ちがわかないのなら、俺との特訓を思い出せ」

 コーチが、わたくしの力を目覚めさせる。声を聞くだけで、体のあちこちが起き上がり喜びのダンスを踊っていくよう。

「パワー、オン……」

 ブゥンと、キュービクルのどこかが動く音が聞こえた気がした。

「そうだ、一度でダメなら、何度でも叫べ。大丈夫だ、キュービクルは、必ずお前の力と思いに応えてくれる」
「おねえさまっ! コーチの言う通りです!」
「そうです、先輩! 頑張ってぇ!」

「コーチ、みんな……」

 皆の声に応えるべく、何度も何度もパワーオンと口ずさむ。でも、キュービクルはエンストを起こしたときのように動かなかった。

 勝利を確信してシバタのほうに向かっていた女王アリが、倒したはずのキュービクルの動力がかすかに動いたのを知ったのか、こちらに向かってやってくる。次の一撃をくらったら、今度こそ終わりだろう。

 気ばかりが焦り、ますますうまく力を込めることができなくなっていった。

「おねえさまあああああああ!」

 その時、まばゆい光を放つ稲妻のような一閃とともに、誰よりも頼りになる少女の声がわたくしの耳に入って来たのだった。



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