完結 R18 わたくし単なる悪女でございましたが、なぜだか巨大ロボットを操縦しています。

にじくす まさしよ

文字の大きさ
15 / 18

12 ヒーローはここぞという時に現れるもの

しおりを挟む
 女王アリと対峙した時、不思議と恐怖心はなかった。一番大きな個体なんだけど、前世でさんざん見てきた顔がのっかっているからかもしれない。

「小賢しい人間どもめ。お前たちのせいで、私の子は死んでしまった」

 さも悲しげに、自分は被害者だと言わんばかりに涙をこぼしながらこちらを責めてくる。それは前世でのメガーそのもののようで、どことなく嫌な懐かしい気持ちになった。

「メガー。それは、わたくしたちのせいではないわ。もともと、あなたたちがわたくしたちを侵略しようとやってきたのよ。正当防衛だし、卵たちに至っては、あなたたちが自ら壊したのでしょう!」

 わたくしの言葉を聞いて激昂した女王アリが、大きな羽を動かして前足でおそいかかってくる。

「ええい、誰が私の名を気安く呼んでいいと言った。お前たちが大人しく、我々の餌になっていたら、今頃子どもたちはかわいらしい姿をしていたんだ!」

「そんなの、逆恨みもいいところじゃない!」

 ものすごい衝撃だ。前足の鉤爪があたり、キュービクルの一部がえぐりとられた。
 だけど、やられっぱなしではない。わたくしは力を込めて女王アリの右足に一撃を放った。

「ぎゃああああ! いたい、いたいっ! 何をする!」

 細く長い前足がいとも簡単にぽっきり折れた。予測通り、地球の昆虫と同じように、甲殻はとてつもない強度をもっているけれど、関節は弱いようだ。

 女王アリの悲鳴を聞き、シバタがこちらを振り返る。ものすごい速さで向かってくるが、司令官たちの攻撃によって阻まれた。

 女王アリを叩くのは、今のうちだけ。もしもシバタが合流したら……

 試作品のキュービクルの上に、パワーも半分以下。この状態でUMAを二体どうこうすることなんてできない。今のうちになんとかしなければ。

「おのれええええ!」

 女王アリが、可愛らしい顔を化け物のように歪めて襲いかかってきた。キュービクルが、残った前足でたたきつけられ、位置を保持できず飛んでいってしまう。
 キュービクルに受けた衝撃のせいで、どこかの回路がスパークしたのか、バニースーツに電流がビリビリ流れた。体中が痛み、目が霞む。意識がぼんやりする。

「くっ! ダメ、キュービクルお願い、動いて!」

 しびれる体の力を振り絞っても、わたくしだけの力では、キュービクルの体勢を整えることが叶わなかった。それどころか、キュービクルが静かに眠るように動かなくなっていく。小さな機械の音やライトすら消えた。

「ははは! 偉大な我らの餌ごときが、何をしようとも我らの敵ではない。しねええええ!」
「きゃあああっ!」

 女王アリが、わたくしが乗っているコクピットめがけて攻撃をしかけてきた。連打につぐ連打のせいで、強い電流がわたくしの体中を走った。体も頭も座席に強く打ち付けられる。

「タイム、しっかりしろ!」

 プライベートスピーカーから、コーチの声が聞こえるけれど、何重にも膜がはられているかのように遠い。

 なんだか、前世で命を失った時のように、意識がなくなっていく。

 ダメ、ここで倒れてしまったら、地球の皆はどうなるの?

 わたくしたちに未来を託してくれている人々、一緒に厳しい訓練をして来た仲間、そして、コーチの気難しい顔をして小言を言っている姿が思い浮かんでくる。



「タイム、お前はこんなところで終わるやつじゃない。思い出せ、俺との特訓を忘れたのか!」

「とっくん……」

コーチ……

 わたくしに、キュービクルを操縦するために訓練してくれた厳しい眼差しと叱責、でも、包み込むように導いてくれた人。
 
 そうだった。まだ、力を全部出し切っていない。それに、コーチに聞きたいことがあったんだった。

「両手でしっかりレバーを握るんだ!」
「レバーを握って……」

 しびれて麻痺している手を、レバーに添える。震えているし力が入らない。でも、触れるだけでいい。それだけで、キュービクルはわたくしの力を感知して取り込んでくれる。

「そうだ、そしてセンサーに指を当てろ!」
「センサーに、指を……」

 レバーのどこにセンサーがあって、どのように指先を添えるのかなんて、場所を見なくてもわかるくらい、訓練してきたじゃないか。

「いいぞ、そのままいつものようにキュービクルを目覚めさせろ!」
「キュービクル、パワーオン」

 わたくしが気絶寸前まで意識をとばしたために、キュービクルの動きは完全に停止してしまったようだ。まずは、力をキュービクルに伝えてうごかさなければならない。

「ダメ、わたくし、ひとりじゃ、うごかせません……」
「いいや、お前なら動かせる。自分の力を信じられないのなら、俺の声を聞くだけでいい。そして、敵を憎む気持ちがわかないのなら、俺との特訓を思い出せ」

 コーチが、わたくしの力を目覚めさせる。声を聞くだけで、体のあちこちが起き上がり喜びのダンスを踊っていくよう。

「パワー、オン……」

 ブゥンと、キュービクルのどこかが動く音が聞こえた気がした。

「そうだ、一度でダメなら、何度でも叫べ。大丈夫だ、キュービクルは、必ずお前の力と思いに応えてくれる」
「おねえさまっ! コーチの言う通りです!」
「そうです、先輩! 頑張ってぇ!」

「コーチ、みんな……」

 皆の声に応えるべく、何度も何度もパワーオンと口ずさむ。でも、キュービクルはエンストを起こしたときのように動かなかった。

 勝利を確信してシバタのほうに向かっていた女王アリが、倒したはずのキュービクルの動力がかすかに動いたのを知ったのか、こちらに向かってやってくる。次の一撃をくらったら、今度こそ終わりだろう。

 気ばかりが焦り、ますますうまく力を込めることができなくなっていった。

「おねえさまあああああああ!」

 その時、まばゆい光を放つ稲妻のような一閃とともに、誰よりも頼りになる少女の声がわたくしの耳に入って来たのだった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...