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「落ち着いたかの?」
「あ、はい」
「ワシの名前は、ミラン。ミラン・ニギリオシという。こっちはワシの最愛のツガイ。すまんが、ツガイの名前を初対面の人には教えられないんや」
「あ、はい。はじめまして。ふふふ」
パパやママと同年代かちょっと上のふたりは、とても仲が良さそうだと思った。穏やかな雰囲気が家中に広がっているのは、彼らのおかげだろう。
あと、このミランさんそっくりさんは、やはりあのミランさんとは別人のようだ。生き別れの双子か、遠縁とか、びっくりそっくりさんなだけかも。
「あ、私は日掛 円美と申します。途方にくれていたところを助けていただき、ありがとうございました。その、さっきからわからないことだらけでして」
「来たばかりの異邦人に直接会うのは初めてでの。ちょっとまちんしゃい」
よく見ると、ミランさんたちの口の形と言葉がちぐはぐだ。本当は、彼らは彼らの言語を話していて、私の耳にだけ日本語に聞こえるというような。言葉もところどころおかしいし、中途半端な同時通訳ソフトでも使っているような。
どこかに行ったミランさんは、丸い水晶玉のようなものを抱えて戻ってきた。まさに占い師が使うようなやつ。
「ワシは占い師でな。今日あそこにいったのは、第六感というか、朝から胸騒ぎがして行ってみたんじゃ。すると、お前さんがいたというわけでの」
「はあ」
「ここからは、まずはメ・ガーミ様と話をしてからのほうがよかと」
「メガミ様……?」
ミランさんは、水晶に手をかざし始めた。それも、よく番組とかで見る占い師さんの動きそのもの。ただ、格好はジャージ上下だけど。
いきなり、宗教とかスピリチュアルとか怪しげな単語が出てきた。今になってちょっと警戒したけど、水晶がぴかっと光る。
「やっほー☆おっまたせーい! みたいな!」
眩しすぎて反射的に目を閉じる。すると、やけに明るい声がした。
「や、やっほ? みたいな?」
さっきは森の中にいきなりきた。やっほーといえば、登山。今度は登山かと恐る恐る目を開けると、そこには10歳くらいの美少女がいた。
ふりふりのミニワンピースに、左上にひとつくくりのポニーテールをしている。
「いやはや、やっと見つけたわ。どこに行っちゃったか心配していたの。無事でよかったわ。私とコンタクトを取れるミランの近くに転移はできていたからギリセーフセーフ。みたいな」
「見つけた? あの、あなたは一体? みたいな?」
やたらと明るい少女は、ケーキ屋さんの女の子のように舌をペロッと出してウインクした。それがまたかわいい。
この世界では、語尾に「みたいな」をつけるのかと真似をしてみたけど、どうにも状況がわからないままだし、彼女のテンションについていけない。
「ごめんねー。ホントなら、スーパーチャンスのところに転移させたかったんだけど、ミスっちゃって」
「スーパーチャンス? 転移? ミス?」
さらにわけがわからなくなった。とりあえず、今度は「みたいな」を言われなかったから言わないようにしてみる。
「こら! 見つけたらすぐに知らせろと言っていただろ。何勝手にコンタクトを取っているんだ。しかも、その言葉遣いはやめろとあれほど」
「ぎゃっ! いたーい。えー、今彼女の世界で大人気のファッションと言語を取り入れただけなのにー。みたいな」
唐突に現れた青年が、少女の頭をコツンと、いや、ごチンとグーで叩いて説教をし始めた。
……もう考えるのをやめようかな。
あまりのことに、思考を停止しようとしたものの、どうしても気になることがあった。
「私の世界? 大流行?」
「ふふふーん。そうよー。あなたの世界では、こういうのが好まれるんでしょ? ちゃんと調べているんだから。みたいな」
どうやら随分誤解されている。あのファッションなどが流行しているって思われたままなら大変だと思った。
「あの、流行してませんが……そのファッションもみたいなっていう語尾も、一部のさらにごく一部の人たちだけかと」
私の説明に、少女は目と口をまーるくしてびっくりした。そんなはずはないと反論しようとする少女を、青年は呆れたように彼女の頭をもう一度ゴチンと叩いて黙らせる。
「ゴチンゴチン痛いってば。暴力反対」
「我々は精神体なのだから痛くもなんともないくせに、うるさい。それよりも彼女のことだろ」
「あ、そーだった」
青年に頭を抑えられた少女は、私に頭をさげた。下げさせられたと言ってもいいかも。
「この度は、ほんっとすみません。えーっと、あなたは、もともとこっちの世界の子なの。健康になれたみたいだから、こっちに戻そうとしてたんだけど」
「? えっと、こっちの世界とは? あの、この不思議な現象があなたたちの仕業なら、早く元に戻してほしいんですが……帰ったら、推し活の続きをしたいし」
随分静かになったから、私はふたりに説明を求めた。よくわからないけれど、トラブルがあったのなら、一刻も早く私をパソコンの前に戻してほしい。ログインして、ミランさんの保護施設の様子を見たいんだけど。
今日は、アザラシのひとりが保護施設から大自然に帰る日なのだ。あのコの旅立ちを見守りたい。
「ミランからまだ聞いていないのか……こいつだと話にならないだろうから、俺から説明しよう。取り敢えず、ソファを用意するから座ってくれ」
「そうですね。お願いします」
やっと一歩前に進めるようだ。彼がパチンと指を鳴らした瞬間、椅子とテーブル、そしてコーヒーと紫芋のタルトが現れた。
しかし、カップに手を伸ばしてもコーヒーを持てない。それに、香りもしなかったのである。
「あ、はい」
「ワシの名前は、ミラン。ミラン・ニギリオシという。こっちはワシの最愛のツガイ。すまんが、ツガイの名前を初対面の人には教えられないんや」
「あ、はい。はじめまして。ふふふ」
パパやママと同年代かちょっと上のふたりは、とても仲が良さそうだと思った。穏やかな雰囲気が家中に広がっているのは、彼らのおかげだろう。
あと、このミランさんそっくりさんは、やはりあのミランさんとは別人のようだ。生き別れの双子か、遠縁とか、びっくりそっくりさんなだけかも。
「あ、私は日掛 円美と申します。途方にくれていたところを助けていただき、ありがとうございました。その、さっきからわからないことだらけでして」
「来たばかりの異邦人に直接会うのは初めてでの。ちょっとまちんしゃい」
よく見ると、ミランさんたちの口の形と言葉がちぐはぐだ。本当は、彼らは彼らの言語を話していて、私の耳にだけ日本語に聞こえるというような。言葉もところどころおかしいし、中途半端な同時通訳ソフトでも使っているような。
どこかに行ったミランさんは、丸い水晶玉のようなものを抱えて戻ってきた。まさに占い師が使うようなやつ。
「ワシは占い師でな。今日あそこにいったのは、第六感というか、朝から胸騒ぎがして行ってみたんじゃ。すると、お前さんがいたというわけでの」
「はあ」
「ここからは、まずはメ・ガーミ様と話をしてからのほうがよかと」
「メガミ様……?」
ミランさんは、水晶に手をかざし始めた。それも、よく番組とかで見る占い師さんの動きそのもの。ただ、格好はジャージ上下だけど。
いきなり、宗教とかスピリチュアルとか怪しげな単語が出てきた。今になってちょっと警戒したけど、水晶がぴかっと光る。
「やっほー☆おっまたせーい! みたいな!」
眩しすぎて反射的に目を閉じる。すると、やけに明るい声がした。
「や、やっほ? みたいな?」
さっきは森の中にいきなりきた。やっほーといえば、登山。今度は登山かと恐る恐る目を開けると、そこには10歳くらいの美少女がいた。
ふりふりのミニワンピースに、左上にひとつくくりのポニーテールをしている。
「いやはや、やっと見つけたわ。どこに行っちゃったか心配していたの。無事でよかったわ。私とコンタクトを取れるミランの近くに転移はできていたからギリセーフセーフ。みたいな」
「見つけた? あの、あなたは一体? みたいな?」
やたらと明るい少女は、ケーキ屋さんの女の子のように舌をペロッと出してウインクした。それがまたかわいい。
この世界では、語尾に「みたいな」をつけるのかと真似をしてみたけど、どうにも状況がわからないままだし、彼女のテンションについていけない。
「ごめんねー。ホントなら、スーパーチャンスのところに転移させたかったんだけど、ミスっちゃって」
「スーパーチャンス? 転移? ミス?」
さらにわけがわからなくなった。とりあえず、今度は「みたいな」を言われなかったから言わないようにしてみる。
「こら! 見つけたらすぐに知らせろと言っていただろ。何勝手にコンタクトを取っているんだ。しかも、その言葉遣いはやめろとあれほど」
「ぎゃっ! いたーい。えー、今彼女の世界で大人気のファッションと言語を取り入れただけなのにー。みたいな」
唐突に現れた青年が、少女の頭をコツンと、いや、ごチンとグーで叩いて説教をし始めた。
……もう考えるのをやめようかな。
あまりのことに、思考を停止しようとしたものの、どうしても気になることがあった。
「私の世界? 大流行?」
「ふふふーん。そうよー。あなたの世界では、こういうのが好まれるんでしょ? ちゃんと調べているんだから。みたいな」
どうやら随分誤解されている。あのファッションなどが流行しているって思われたままなら大変だと思った。
「あの、流行してませんが……そのファッションもみたいなっていう語尾も、一部のさらにごく一部の人たちだけかと」
私の説明に、少女は目と口をまーるくしてびっくりした。そんなはずはないと反論しようとする少女を、青年は呆れたように彼女の頭をもう一度ゴチンと叩いて黙らせる。
「ゴチンゴチン痛いってば。暴力反対」
「我々は精神体なのだから痛くもなんともないくせに、うるさい。それよりも彼女のことだろ」
「あ、そーだった」
青年に頭を抑えられた少女は、私に頭をさげた。下げさせられたと言ってもいいかも。
「この度は、ほんっとすみません。えーっと、あなたは、もともとこっちの世界の子なの。健康になれたみたいだから、こっちに戻そうとしてたんだけど」
「? えっと、こっちの世界とは? あの、この不思議な現象があなたたちの仕業なら、早く元に戻してほしいんですが……帰ったら、推し活の続きをしたいし」
随分静かになったから、私はふたりに説明を求めた。よくわからないけれど、トラブルがあったのなら、一刻も早く私をパソコンの前に戻してほしい。ログインして、ミランさんの保護施設の様子を見たいんだけど。
今日は、アザラシのひとりが保護施設から大自然に帰る日なのだ。あのコの旅立ちを見守りたい。
「ミランからまだ聞いていないのか……こいつだと話にならないだろうから、俺から説明しよう。取り敢えず、ソファを用意するから座ってくれ」
「そうですね。お願いします」
やっと一歩前に進めるようだ。彼がパチンと指を鳴らした瞬間、椅子とテーブル、そしてコーヒーと紫芋のタルトが現れた。
しかし、カップに手を伸ばしてもコーヒーを持てない。それに、香りもしなかったのである。
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