完結 R18 拝啓、ポンコツ女神様。今更あなたの手違いだったと言われましても。

にじくす まさしよ

文字の大きさ
上 下
14 / 23

12

しおりを挟む
「今、我々がいるのは亜空間というものだ。実体がない、オーラやスピリチュアルといった存在はわかるか?」
「はい、なんとなく。見える人もいれば見えない人もいるし、触れることができない魂のようなものですよね」

 不思議な空間は、少々居心地が悪くておしりをもぞもぞさせた。そういえば、5感がないのか、何も感じないし肌に触れる感覚もない。

「概ねその通り。コーヒーもそうだし、ソファもだ。座っている形は取っているが、実際は座っていない」
「……力要らずの疲れない空気椅子というわけですか」
「万物は、何かしらのエネルギーを持っている。だから、無機物であってもこのように実体化しているかのように見えるんだ。わかったと思うが、食べることも飲むこともできないがな」

「……どうして出したんですか? タルト食べたかったです。こんなの、生殺しっていうんですよ」
「まあ、雰囲気だ。細かなことは気にするな。そんなことよりも、ポンコツのこいつがすまなかった。俺も気を付けてあげていればこんなことにはならなかったんだがな。一応こいつも上位の神で、こんなトラブルは初めてなんだ」
「ポンコツとはなによー。あ、私のことは、メ・ガーミって呼んでね♪」
「は、はあ……」

 青年の落ち着いた話とは違って、少女、メ・ガーミははしゃいでいる。こっちはそれどころではないというのに。

「今いるのが、亜空間。この周囲には様々な世界が広がっている。その世界の形態は千差万別なんだが、互いに干渉を一切しないんだ。各世界に共通項があるのだが、生きた人間や動物だ。本来なら、違う世界の生物がトレードしたりコンタクトを取ることなどない」
「違う世界。異世界というやつですか? 生物が一緒ってことはパラレルワールドのような感じでしょうか。でも、不可侵の世界なのに、どうして、私は今こんなことになってるんですか?」

 青年の話を、ファンタジーなどでよくある多重世界ってやつかと無理やり頭を納得させようとした。こんな荒唐無稽なことを、すんなり受け入れられるかといえば、Noだけど。

「各世界での呼称は異なるけど、だいたいそんなところ。さっき言ったけど、あなたは、もともとはこっちの世界の子なの。ただ、体が弱くて長く生きられない。小さなあなたが助かる可能性があるのは、さっきまであなたがいた世界だった。そして、そっちの世界に生まれた別のあなたもまた、こっちの世界でしか生きられない病気だと言われたの。ならば、トレードして健康になったら万事オッケーじゃない? だから、私がそれぞれの夫婦の、この子を助けてという願いを叶えるためにトレードしたってわけ」
「トレード……じゃあ、私は両親の本当の子供じゃなかったってことですか?」
「なんというか、そうでもありそうでもない、みたいな。世界は違えど、彼らもあなたのご両親であることには間違いがないと思っていいわ。とにかく、あなたももうひとりのあなたも、あのままだったらとっくに命をおとしていたの。ご両親の強い願いと私のおかげで助かったの。わかる?」
「……確かに、小さな頃の病気は治りましたね。薬はまだ飲み続けていますけど」

 今まで育ててくれたパパとママが、私の本当の親じゃない。そのことが心臓を一瞬で凍らせたかのように大きな衝撃になって心を襲った。
 でも、メ・ガーミのおかげで、私と、もうひとりの私とやらが助かったのは事実。両親があれほどまでに過保護だった理由が分かった気がした。嬉しいようで悲しい、この複雑な気持ちの行き所がなくて、涙すらでてこなかった。

 彼らは、私の今の気持ちなどおかまいなしに話を続けてくるけど、投げやりでもうどうにでも慣れと思う。

「我々は、数百年に一度、奇跡を起こすことを許されている。メ・ガーミはそれを行使したんだ。ただ、世界はそれの全てを許さなかった。元の個体であるお前たちが健康になったことをきっかけを元に戻そうと今回の転移が行われた」
 へーほーふーん。感想はこれだけ。世界がどーとか、だから何って感じ。

「そう、そうなのよ。私としては、あのままお互いの両親に守られて、あなたももうひとりのあなたも幸せに暮らしてもらう予定だったの。ただ、世界の決定にまでは干渉できないから二度目の転移は、仕方がなかったの。ただ、転移場所ならコントロールできた。だから、あなたたちそれぞれのツガイのところに転移させようとしたんだけど」

 へーほーふー……ん? ツガイ?

 またもや聞きづてならない言葉があり、反応してしまった。

「私のツガイ? ツガイってあれですよね。結ばれる人。惹かれ合って、他に恋人や配偶者がいても、ツガイ至上主義になるやつ。じゃあ、私って実は獣人って感じですか?」

「ふふふ、獣人やツガイを知っているのなら話は早いわ。概ねそうなんだけど、あなたは人間。あっちの世界でも若干そのシステムが作動するけど、微妙だからツガイじゃない人と結婚して不幸になったりするでしょ。こっちの世界では、同年代のツガイが絶対いて必ず出会えるってわけ。だから、離婚とか浮気とかないわ。もうひとりのあなたは、きちんとツガイのところに転移して、幸せルートまっしぐらなの。ただね、あなたの場合、ちょーーーーっとした手違いで、時間と場所をミスっちゃったかなー、みたいな……。えっと、ほんとにごめんね」

 もう結構。もう、何の情報も頭に入ってこない。お腹もいっぱいな気がする。でも、大事なことなのだろう。

 そんな風に考えていると、またまたまた、聞き捨てならない言葉が。

「手違い? って……あの、手違いがあったのなら、元に戻してもらうってことは……」
「無理なのよ。私達も世界の一部だから、世界の意思には逆らえないわ」
「そんな! もう一人の私って人がいるのなら、その人だって、私と同じように元に戻して欲しいはず! 同じだけど、別人ですよね? 育った場所も何もかも違うんですから。お願いしますから、もう一度トレードしてください!」

 私は、必死にメ・ガーミにすがった。でも、実体がないから、掴めないし、スカスカするばかり。私の必死な様子を見て、メ・ガーミは少しだけ眉を下げた。

「すまないが、そろそろ、亜空間から出なければならない。君の体は、もう薬は必要としないから、今後はこちらで暮らすように。我々の話はここまでだ。何かあれば、フクロウのミランを通してコンタクトを試みてくれ。運がよければ、また会うこともできるだろう」
「そんな、一方的な! ちょっと、待ってください!」

 その声を最後に、私は亜空間から異世界のミランさんのもとに戻ったのである。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

処理中です...