狂愛サイリューム

須藤慎弥

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37・星の終幕

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 病院に向かった弱りきった姿、日頃の何をしていても可愛らしい姿、見た目からは想像もつかない量をペロリと平らげ大食いしている姿……。

 あらゆる葉璃が聖南の脳を侵食すると、大量に分泌されたアドレナリンは別のものへと変化する。

 葉璃に会いたい。凶悪にも感じる上目遣いを見返し、「舌出して」と誘い、震える体をこの手でしっかりと抱きしめたい。

 普段は日に何回も味わえる甘い唇さえ、ここ三日で一度しか堪能出来ていない聖南は、そういう話をしているだけで勃起してしまいそうである。


「それが、セナには分かんないんだよ」
「マジでな。そんな長時間はやめてやれって言ってんのに」


 興奮状態だった聖南の体が、少しずつ冷めていく。

 着替えもそこそこに話題を継続中のアキラとケイタを恨めしく見てしまうのは、ここに葉璃が居ないせいだ。


 ──何時間でも何十分でもいいから葉璃とセックスしてぇよ……。


 記録更新だ! と呑気にはしゃいでいられた過去の自分が羨ましい。

 葉璃が忙しくなったのは良い事で、毎晩愛おしい存在を抱き枕にして眠れるのも最高だ。聖南の安定剤〝葉璃〟はα波まで発生させ、寝息と寝顔まで可愛く、そばに居てくれるだけで安心する。

 おかげで多忙な聖南もあっという間に寝入ってしまい、気が付けば朝勃ちと共に起床時間だ。

 しかし、それはイコール生殺しなのである。

 年末はお互いに特に忙しい時期に入り、やすやすとセックスにもつれ込めなくなった。

 素直にはしゃげない聖南は、度々強いられる二人のみの禁欲事情はともかく、葉璃の体調を鑑みなくてはならない現在の状況を作った彼女らへ、新たな怒りが湧いてきた。

 そう。だから近頃は、アキラとケイタにお小言を言われるような愛し方はしていない。いや、したくても出来ない。


「……最近は時間も回数も抑えてるよ」
「どうやって?」
「どうやって?」
「次の日のスケジュールに合わせて時間決めて、始まったら回数は状況に応じてって感じ」
「セナも一応気にするようになったのか」
「へぇ……ちなみに何時間で何回が平均なの?」
「…………」
「平均? 平均なぁ。……三時間で四回?」
「それってセナがイく回数だよね?」
「そうだけど」
「前から思ってたけど、セナって遅漏?」
「はぁ? 違うっての」


 ケイタの素朴な疑問が、あまりにもダイレクトだった。

 聖南と葉璃の性事情に興味津々な彼には、もはや何でも知られている。聞かれた事に対し答えているだけの聖南も、世間のカップル達のように惚気けたいところがあるので決して嫌々語っているわけではない。

 だが〝遅漏〟と言われると、若干の自覚があった聖南は不安に陥った。


 ──いや俺……遅漏なのか? 自分がめちゃめちゃ絶倫だってのも葉璃と付き合ってから知ったし……。


 腕を組んだ聖南の表情は、さながら難解な事件に直面した刑事のようであるが実際は違う。

 考え込んでいる聖南を見たケイタはムフッと笑い、ルイに視線を移した。


「ルイは一時間あったら何回イくの?」
「えっ!? 俺っすか!? ここで発表せなあかん事ですかね!?」
「うんうん、教えてよー。ちなみに俺は一時間に二回はイっちゃうかもー。アキラは?」
「俺もそれくらい」
「なっ……なんで本番終わりにこないな話せなあかんねん……」


 油断していたルイは脱力し、長机に突っ伏してぼやく。

 制止役であるはずのアキラまで話に乗っかっていて、ここで答えないのは場をしらけさせるとの血が騒いだルイは、顔を上げぬまま渋々答えた。


「……俺は一時間あったら……頑張れば三回イけるっす……」
「すごいじゃん!」
「いやなんもスゴない……。あ、てか今やっと分かりました」
「何が?」
「何?」
「なんだ?」


 じわ、と顔を上げたルイは、見事に口元を引きつらせていた。


「ハルポンがたまに、朝ゲッソリやつれて来る時あるんすよ。あれはセナさんのせいやったっちゅー事っすね……?」
「人聞き悪いな。でもまぁ、……そういう事」
「はぁ……」


 やっぱりか……とため息まじりに呟くルイに、聖南は大真面目に頷いて見せる。

 本番を終えて十分以上が経ち、スタッフから楽屋の扉をノックされてハッとしたのは社長だけだった。


「お前たち! こんなところでいつまでもそんな話をしているんじゃない! セナ、急ぐぞ」


 いつまでも衣装のまま下ネタで盛り上がるアイドル達に、顔を真っ赤にした社長からの怒号が飛ぶ。

 アキラは無表情で着替えを始めた。ケイタはニヤニヤを隠し切れず、衣装を脱ぎながら今度は恭也に質問攻めを開始し、それを盗み聞きするルイは大して汚れてもいない机上の整頓を黙々としている。

 聖南はというと、今にも卒倒しそうな社長の肩をポンポンと叩いて宥めてやった。


「悪い。俺いま禁欲してっからさ」
「理由にならん! 私ほどの年代の男をドキマギさせるのはやめんか。頭を切り替えろ」
「分かってるって」


 主にこの話題を回していたのはケイタだが、聖南は「ごめんごめん」と気安く謝罪しておいた。

 しかし笑いはこらえきれない。

 くだらない話で盛り上がるこの温かい空間に、幸せを感じた。

 万人を笑顔にし、活力を貰った後は、仲間との何気ない語らいで聖南の心が充電される。


 ──ここに葉璃が居れば完璧なんだけどな。


 今頃、ベッドの上だろうか。

 苦しんでいないだろうか。

 聖南を恋しがっていないだろうか。

 カッコいい〝セナ〟の姿を、ほんの少しでもいい……見ていてくれただろうか。


 ──決着ついたら飛んで行くからな、葉璃。


 聖南に残されたもうひと仕事。

 アドレナリン全開にして下ネタで盛り上がるのもいいが、社長の言う通りそろそろ興奮の余韻を打ち消し、頭を切り替えなくてはならない。

 今回ばかりは許さないと決めた、聖南なりの同業者への制裁を下す時が来た。




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