狂愛サイリューム

須藤慎弥

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37・星の終幕

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 気持ちが晴れたとは言わない。

 そう簡単に以前のような接し方が出来るほど、聖南はそんなに人間も出来ていない。

 そもそも親の愛情を知らない聖南が、一般的な息子らしく振る舞う事など無理な話なのだ。


 ──でも、だからっていつまでも不貞腐れてたら、俺はマジで物分かりの悪いガキのままじゃんな。


 もう一度、信じてみようと思った。

 レイチェル可愛さに非情な発言をされかけはしたが、結果として社長は聖南と葉璃の交際に口出しする事は無かった。

 もはや姪っ子バカなのは仕方がない。

 人のことは言えないほど聖南も葉璃を溺愛しているので、二人の邪魔をしないのであれば何だっていいという考えに至った。

 社長は聖南にとって、命の恩人。

 生きる道を諭してくれた、感謝に耐えない人。

 失くしてもいいとは……思えないのだ。






『──CROWNの皆さん、ありがとうございましたー!』
「ありがとー!!」
「ありがとう~!」
「ありがとうございましたぁ!」


 視聴者率が一番安定する時間帯に、満を持して三曲を披露し会場を大いに盛り上げたCROWNの三人は、次のアーティストと入れ替わる最中も大きく手を振りながらステージから捌けた。

 安定ゆえに中だるみしがちなところへいつも割り振られるCROWNだが、番組制作陣らの期待を上回る熱狂ぶりに、捌けたその場で大勢のスタッフから次々と感謝の言葉を投げられる。

 聖南達はそれらに笑顔で応え、「お疲れっした! あと一時間頑張れよ!」とスタッフへの労いも忘れない。

 バックダンサーにも声を掛けつつ楽屋へと戻っていると、廊下で待ち構えていた社長からも労いの言葉を貰った。

 出番を終えた彼らは、着替えもそこそこにホテルへ向かい各々解散だ。

 例によってルイだけは楽屋について来たが、本番終了後の興奮を抑えきれない面々はそれに対し疑問を抱く様子も無く、ハツラツと帰っていった。

 そしてここに一人、大きな会場でのパフォーマンス後は必ずと言って良いほど様子がおかしくなる人物が居た。


「あぁーー!! 暑っちぃーー!! ヤりてぇーー!! うさぎちゃぁぁーん!!」


 楽屋の扉が閉まるなり、拳を握って絶叫したのは聖南である。

 葉璃を愛称で例えた辺りは配慮が窺えるが、完全にアウトな台詞を口走ってその場の五人を硬直させた。


「……本番後のセナのコレ、どうにかなんねぇかな」
「……今日もアドレナリン出まくってるねぇ、セナ」
「セナ……口を慎まないか」


 CROWNの活躍を現場で見ていた社長に至っては、初めて目にするアドレナリン全開な聖南の姿に絶句している。

 恭也とルイ以外の三人は文字通り呆れ返ったものの、しかしこれは序の口だ。

 ツアー中は一時間おき、多い時で四度はこの絶叫を聞かされるアキラとケイタの立ち直りは早い。


「まぁ、三曲フルだったしな」
「こういう日はうさぎちゃんの身が危ないんだよねぇ」
「さすがに今日は無理だろ。うさぎちゃんは高熱で病院行きなんだぞ。てかヤる気満々だったら俺が全力で止めるわ」
「俺も止めるよ。セナにはもうひと仕事残ってるし?」


 うんうん、と冷静に会話する二人に、さらに社長は言葉を失う。

 聖南の溢れ出る葉璃への愛を目にしてフフッと笑う恭也も、落ち着いている。

 衣装を脱ぎ捨て半裸になった聖南はというと、未だ「うさぎちゃーん!!」と絶叫し、スマホを握り締めていた。それには葉璃の寝顔が表示されていて、人目も憚らず画面に口付ける手前でアキラに止められ、事なきを得る。


「一つ聞いていいっすか」
「何?」
「ん?」


 様子のおかしい聖南を見やりながら、アキラとケイタに寄って行ったのはルイだ。

 バックダンサーとして完璧に踊りきった彼も汗だくで、困惑の面持ちで汗を拭い、タオルを首にかけている。

 その神妙さから、アキラは「どうした?」と問うた。

 するとルイは、少しの狼狽を見せながら思いがけない質問をしてきた。


「……やっぱあの二人って、最後までいってるんすよね? 恋人っすもんね?」
「あっ? あ、あぁー……」
「もちろん! しかも二人のアレはすんごいだよ。最長記録は八時間だって~」
「は、は、は、八時間!?」
「おいケイタ。あんまベラベラ喋んなよ」
「あ、そうだった。うさぎちゃんにまた怒られちゃうな」


 問うたルイよりも狼狽えたアキラの横から割って入ったのは、聖南と葉璃の性事情にやたらと詳しいケイタである。

 他人のそれについてを話すなど気が引ける、そう思い咄嗟に濁そうとしたアキラの気配りは無駄に終わった。

 二人が付き合っている事は知っていても、近すぎる存在ゆえになかなか想像が出来なかったのだろう。

 ケイタの爆弾発言に、案の定ルイは目を丸くしている。


「は、八時間ってなんやねん……!」
「いや待て。九時間に更新したとか言ってなかった?」
「そうだっけ? てかアキラも喋ってるし!」
「九時間!? く、九時間て……どんだけアソコ強えんすか! セナさんもしかせんでも……絶倫?」
「うさぎちゃん限定でな」
「うんうん。セナはうさぎちゃん相手だと萎えないんだって」
「はぁ!? じゃあ挿れっぱなし!?」


 しまった、とアキラは目を細めた。

 ついポロリと溢してしまった自身の発言で、さらに話題が広がっている。

 社長は聞いていられないとばかりに背中を向けていて、スマホをいじりつつ聞き耳を立てている恭也も苦笑いを浮かべていた。


「いやいや、挿れっぱなしなわけじゃねぇよ」
「やだっ、セナさん聞いてらしたの!?」


 鍛え上げられたしなやかな筋肉を見せびらかす張本人のお出ましに、ルイが大袈裟に驚いた。


「体位変える時は抜くよ。痛がるからな」
「…………!!」
「でも〝俺が動いてない時が休憩〟って言うといっつも怒んだよ。なんでだと思う?」
「~~っ、そんなん言わんでも分かるっしょ!」
「んー……」


 葉璃とのセックス事情を赤裸々に語りたがる聖南は、アドレナリンも手伝い明け透けに語った。

 だが、常々疑問に思っている〝行為中の休憩〟に関しては、葉璃にはもちろん他人になかなか理解してもらえない。

 じゃあ何が正解なんだと不満を覚えた聖南は、ようやく愛おしいスマホの画面から目を逸らした。




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