狂愛サイリューム

須藤慎弥

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9★ ─SIDE 恭也─

9★3・嫉妬

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 バラエティー番組の収録中、順調にネガティブ発言で場を沸かせた葉璃は、みんなの期待通りモジモジしてずっと俺から離れなかった。

 主に俺が発言し、視線を彷徨わせた葉璃がボソッと一言を発するだけでそこに居る意味が生まれる。

 俺にとっては隣に居てくれるだけで安心する存在が、華やかな世界に必死に慣れようとする様は見る者すべてが応援したくなるのだと思う。

 アイドルであるからには女性ファンを掴まなきゃならないと、社長から言われた事がある。 セナさんが創る楽曲は申し分ないから、個々のファンの掴むためにはそれぞれに個性が無くてはならない、と。

 ただし俺達ETOILEの場合、今までのアイドルとはちょっとだけテイストが違う。

 葉璃のキャラも相まって、一見危なげな俺達の仲は流行りにうまく順応した。

 ETOILEに ″箱推し″ と呼ばれる二人セットでのファンが多いのは必然に思えた。 多分誰が見ても、デキてると噂されるくらい俺と葉璃の距離感が近いからだ。

 二人の身長差がさらに邪な妄想を掻き立てるらしく、アイドルファンのみならず新たなファン層を獲得している俺達は本当に運がいい。

 しかもそのおかげで、CROWNとETOILEの出演が被ったセナさんが、いくら葉璃を可愛がっていたとしてもただの先輩後輩にしか捉えられない、予期せぬ目くらましにもなっている。

 それをセナさんがどう思っているのかは分からないけど、俺は二人の仲が引き裂かれる事態になるのだけは避けたいから、いっそ妄想されたままでいい。


「また来週だね、葉璃」
「……うん」
「……寂しいね」
「……うん」


 葉璃と居る時間はあっという間に過ぎる。

 昨日今日と、午後から夕方にかけての収録でずっと一緒に居られたのに、次また会えるのは来週だ。

 俺はこれから明後日まで隣県で撮影があって、寂しそうな葉璃を置いて行きたくないと思っても、仕事だから行かなきゃいけない。

 俺が映画の仕事を頑張る事で、デビューしたばかりのETOILEがさらに多くの人に認知してもらえて、活躍の場を広げるきっかけに繋がる。

 そうなれば、この世界で葉璃と長く生きていくチャンスが高まるかもしれないから、俺は少しずつでもステップアップして可能な限りETOILEを守りたい。

 でも、……いつにも増して寂しそうな葉璃を置いて行くのは忍びないな。 ……すごく。


「……うん……。 週末、恭也の撮影見に行きたい」
「え、来てくれるの? ほんと?」
「春香のとこ行かなきゃだから夕方までしか居られないけど、行きたい。 差し入れ持って行く」


 今まで何度か撮影現場に来てくれた葉璃だけど、知らない役者さんやスタッフさんに囲まれて「可愛い」を連呼されるのがすごく苦手だったと話していたから、もう来てくれないだろうなって諦めてたのに。

 セナさんの仕事が忙しくて構ってもらえてないのかな……?

 荷物の入った鞄を机に置いて、近付いてきた葉璃の頭を撫でる。


「嬉しい……待ってるね。 ところで、春香ちゃんのとこって?」
「あぁ、それはやな、ハルルンにダンス見てほしい言われて相澤プロのレッスンスタジオに行ってるんよ」
「は、ハルルン!?」


 すっかりその存在を忘れていたルイさんが口を挟んでくる。

 春香ちゃんからの告白を保留にしている俺は、その名前を聞くのが少し気まずかったけれど、それ以上に「ハルルン」に驚いた。


「……今日の俺のあだ名なんだって。 毎日呼び方変わってる」
「あだ名……。 え、でも、昨日は普通だったよね?」
「昨日はハルミやったからなぁ、あんまあだ名っぽく聞こえんかったんやろ。 俺のイントネーションのせいもあるか?」
「ハルミ……別人になってる……ふふふっ……」


 笑っちゃ可哀想だと思ったんだけど、こらえきれなかった。

 方言のせいか、物言いが強いルイさんは他人に誤解されやすい人だと思う。

 昨日から見ていると、それがよく分かる。

 葉璃に強くあたっていた以前の彼の発言も、昨日今日の葉璃への言い草も、思った事を素直に述べてるだけでまったく悪意が無かった。

 事情を知らないにしてもズケズケ言い過ぎでしょって、葉璃に甘い俺はどうしてもキレちゃいそうだったけど……葉璃が言い負かされていないから庇うに庇えない。


「恭也! ここで笑うと負けだよ!」
「負けってなんや。 なんも勝負してないわ」
「この際言っちゃいますけど、もうあだ名やめてくださいよ! 毎日考えちゃうんですよ、今日はなんて呼ばれるんだろって!」
「なんや、ハルルンも楽しみになってきてるやん」
「それはないです!」
「ふふふふ……っ」
「恭也っ、笑ってないで味方してよ!」
「───恭也君、行ける?」


 不覚にも二人のやり取りがツボに入ってしまった。

 目尻を拭いながら、楽屋に戻って来た林さんに視線で合図をして、ルイさんにプンプン怒っている葉璃の頭をもう一度撫でる。


「あ、はい。 行けます。 じゃあ……葉璃、週末待ってるね」
「うぅぅ~~っ、もう行っちゃうの?」
「……葉璃……可愛い……」


 立ち上がった俺の服をキュッと掴んで、心を許した相手をどこまでも虜にする葉璃の上目使いに、俺は見事にやられた。

 今日の撮影は行かなくていいんじゃないのって、チラっとそんな悪い考えが浮かんでしまうくらいには、やられた。

 ついつい本能のままに葉璃を抱き締めてしまって、「出番前」の言い訳が出来ないから後でセナさんに謝らなきゃ……。


「はいはーい、アツアツなとこ悪いけどやな。 恭也は仕事なんよ。 代わりに俺がぎゅってしといたるから、恭也今のうちに行きや」
「……あっ…………」
「ルイさんは嫌だぁっ! 恭也がいいー!」
「駄々こねるなや。 ハルルンも今から春香ちゃんとこ行かなやろが」


 尤もな事を言うルイさんに、さらりと葉璃を奪われた。

 セナさんだったら仕方ないと思えるのに、ルイさんに葉璃を奪われるのは納得いかない。

 林さんに急かされなければ、俺だってもっと葉璃を抱き締めていたかった。

 俺は、ルイさんから羽交い締めにされてる葉璃を置いて楽屋を出て行く。

 この、後ろ髪を引かれる思いは、紛う事無く嫉妬だ。



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