迅雷上等♡─無欠版─

須藤慎弥

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⑭彼氏がキレました……

─雷─②

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 泣きながら電車に揺られて、降りる駅を間違えた。

 てか、気付いたら知らねぇ景色で慌てて降りたら、知らねぇとこに着いてた。

 改札を出てみると、たった何駅かしか進んでねぇのにマジで異世界にワープした、みたいなど田舎に到着してたんだ。

 大袈裟に言うと、いま俺は〝絶望〟の真っ只中。

 回れ右して戻りの電車に乗りゃいいじゃんって思うだろ?

 それがさ、駅員のおっちゃんに半泣きで助けを求めたら「ここは快速止まらないから次の電車は二十分後だよ」だってさ。

 知らねぇとこで? 気分も体調も絶不調なのに? ひとりぼっちで待ってろって?

 たかが二十分、されど二十分。

 ガーン!と打ちひしがれてた俺に、駅員のおっちゃんからは「迷子かい?」ってガキ扱いされるし。

 二十分間、しょぼんと寂しい駅でひたすら待ってるなんてムリで、途方に暮れていた時だった。

 しばらく鳴らなかった着信音が響いて、急いで手に取る。


『あ、雷ー? 今何してんのぉ?』
「しぇっ、しぇんぱーいッッ」


 迅の激怒の声じゃなくて、相手は全然関係ない先輩だったから心底ホッとした。

 この状況でキレられたら、さすがに悲しくなってくる。

 別に泣くようなことでもねぇのに、また目から汗が……。


『えっ? なにっ? 雷、あんた泣いてんの?』
「ふぇッ、泣いてねぇよぉぉッ」
『どうしたのよ! てか今どこにいるのっ?』
「駅ぃぃッ」
『駅だけじゃ分かんないわよ!』
「だって駅だもんーーッッ」
『あーもうっ、とにかく近くのコンビニかファミレスに居なさい! すぐに行くから!』
「ありがとぉぉッッ」


 よく分かんねぇけど、漢字が読めなくて伝えらんなかった駅名を言わねぇまま、通話は切れた。

 先輩が来てくれる……二十分がきっとあっという間だ。

 言われた通り、俺はコンビニかファミレスを探した。

 駅から右に曲がって、都会ならまだウジャウジャ人がいる時間だってのにあんまり人通りの無えこんな田舎に、その二つがあんのかと不安を抱きつつ。

 歩くこと十分。 全国展開するファミレスのチェーン店を発見した。

 雷にゃんは幸運だ。


「……ふぅ、……」


 腹がムカムカすっから食欲も無くて、席に案内されてもメニュー表に手が伸びない。

 晩メシ時だってのに先客が二組しか居ねぇし、普段は気付きもしねぇ店内を流れるBGMがやたらと爆音に聞こえる。

 迅からの連絡がない。

 泣いてたから、いつから鬼電がパッタリ無くなったのか分かんねぇ。

 冷静になると、迅にマジで〝ヤリチン〟って言ったのは悪かったな思う。

 俺は超めんどくせぇバカヤローだ。

 でも迅が、俺の居ないとこであんな本音をさらけ出してるの知らなかったからさ……。

 浮かれて、のぼせ上がって、ルンルンハッピーな何とかホルモンを四六時中分泌させてたからさ……。

 ショックだったんだよ。

 いつか迅にポイされる日がくるって考えたら、悲しくてツラくて、腹ン中がぐっちゃぐちゃになった気がしたんだよ。


「ポイされたくねぇなぁ……」
「何をポイするって?」


 呟いたと同時に、頭をガシガシ撫でられて振り向く。

 迅の撫で方じゃないそれは、女の姿の先輩だった。

 大きめのショルダーバッグを肩から下ろして、よいしょと俺の前に腰掛けるのは、大柄だけど紛れもなく綺麗な女性。 もとい、キャリアウーマン。


「あ、先輩……」
「早かったでしょ。 タクシーぶっ飛ばして来たんだからね。 あ、何か頼んだ?」
「ううん、何も。 てか先輩、なんでここが分かったんだ……?」
「便利な世の中よね」
「う、うん?」
「なんだ。 泣いてないじゃない」
「汗は引っ込んだ」
「あら、そう」


 ファミレスかコンビニ、ファミレスかコンビニ、と呟いてるうちに、目からどんどん溢れ出てきていた汗は枯れた。

 心配してくれた先輩は、謎の力を使ってここまで来てくれたのに、俺はどうしてもいつもみたいに笑えねぇ。

 ヘラヘラしてないとやってらんねぇと思う反面、それすら出来なくなってるとか我ながら重症じゃん。


「でもさっき泣いてたのはホントでしょ? どうしたのよ。 迅クンとケンカでもしたの?」
「……してない」
「そんな唇尖らせて。 ムッとする事があったんでしょ? 迅クンが無理強いしたとか?」
「むりじい……?」
「無理矢理ヤラれたのかってこと」
「なッッ? なななな、な、何をッ!?」
「……ここではちょっと」


 あぅ……そういうことか。

 迅はエッチのむりじいどころか、最近はヌきっこ大会も何か遠慮がちだよ。

 こないだ泊まりに行った時、二回目のレッスンを期待してイチジク持参したのに、結局ちくびもイジられなかった。

 やらしいキスはいっぱいされた。

 「好きだ」「可愛い」も耳タコなくらい聞かされた。

 でもレッスンはしてくんなかった。


「無理矢理なんかされてねぇ。 いっそヤッてくれ!とは思ったけど」
「……どうして?」


 動画三部作を提供してくれた先輩にならいいかって、俺が絶不調になった経緯を打ち明けた。

 恋人不在で繰り広げるにしては、ちょっと過激でモラル違反なヤリチンとエロピアスの会話。

 実際は何メートルも離れたとこから二人の話を盗み聞きして、ところどころ辻褄が合わねぇとこもあったけど。

 先輩には、俺の解釈を織り交ぜた。

 ……のがいけなかったのか、俺に加担してくれると思った先輩はみるみる呆れ顔になっていく。

 肩肘をついて、手のひらに顎乗せて、たまに「ふーん」と素っ気ない相槌打って。

 なんでだ。

 まるで説教されそうな雰囲気なんですけど。


「あんたそれ、ちゃんと話聞いてた?」
「当たり前だろ! 聞いてたからキレたんだ!」
「そう言われてもねぇ……。 あたしにはとても理解出来ないんだけど」
「理解できない~ッ!?」
「なんでそういう風に受け取っちゃうのよ。 少なくとも迅クンは、あたしに宣言してたわよ? 雷はチビで華奢で童貞処女だから、ちゃんと段階踏んでくって。 〝俺が本気出したらたぶんアイツ死ぬ〟とも言ってたかな」
「────ッッ!?」



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