必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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「セナ!!  怒らないって言ってたじゃないか!  どういう事だ、これは!」
「…………怒ってはねぇけど」


 麗々の涙は一向に止まる気配が無かったが、聖南は筒井に向き直って「事務所どこ?」と恐ろしい一言を告げる。


「……OMSプロダクション、です…」
「おっけー。  筒井さん、俺一回言った事曲げんのすげぇ嫌なんすけど、ちょっとそれも無理そうなんで。  一応言っとくわ」
「……な、何を、ですか?」
「人の道外れる事しちゃダメだよって事と、俺を怒らせたらヤバイって事」
「セナ!!」
「じゃ、お疲れー」


 聖南は振り返る事なく応接間を後にした。

 怒りとも落胆とも違う、耐え難い心労が聖南を襲っていた。

 自身が脅かされるのは少しも怖くない。

 だが愛する葉璃が攻撃の対象になるかもしれないと分かるや、聖南は何もかもを捨てたいと思ってしまった。

 葉璃さえ居れば、何も要らない。 大好きな葉璃が隣で笑っていてくれる事だけを望んでいる。

 傷付けるために "好きだ" と言ったわけではない。 どんな弊害からも守り通してみせる。

 しかし、その意気だけでは防ぎきれない業界と世間を煩わしいと思った聖南は、葉璃との約束を守る事が出来なかった。

 それだけが聖南の中で後悔を生んだ。


『これってやっぱ、ちゃんと仕事こなしてねぇって事になんのかな……分かんねぇ……』


 同ビル七階にある、作詞をする際にいつもこもる作業部屋(小会議室だが)に入り、力なく椅子に腰掛けると聖南はしばらく項垂れた。

 麗々があんな事をするとは思わなかった。

 謝罪の意思など無かったと思わざるを得なくて、ただ聖南に抱いてほしいとの欲望をぶつけるためにやって来たなど、言ってしまえば気持ち悪いとさえ思った。

 階下まで降りてスタッフに聞くのも面倒で、聖南は自分でOMSプロダクションの番号をインターネットで調べて電話を掛け、直々に社長と話したいと会社の者に伝言を頼んだ。

 それからした事と言えば、先程のボイスレコーダーの件を成田にメールし、葉璃と恭也が同行するツアーの企画書作りを深夜三時まで掛けて仕上げたくらいだろうか。

 葉璃にはメッセージを寄越せと言っておきながら、それが開かれる事はなかった。

 なぜなら、聖南の中の解釈では葉璃との約束を破ってしまった事になるからだ。

 一度コーヒーと水を買いに自販機へと出たが、それ以外は作業部屋で休み無くパソコンに向かった。

 眼鏡を忘れたので目が疲れてしょうがない。

 警備員以外誰も居なくなった社内は、世の中のすべての音が消えてしまったかと錯覚を覚えるほど静寂に包まれている。

 やり切れない思いを抱えている聖南は腰掛けたまま、限界にきた瞳を瞑ってその日は会社に泊まった。

 運転をして自宅に帰る事も出来ないほど、葉璃に言われた事をぐるぐると思い出していた。


『また嫌いって言われたら俺もう立ち直れねぇよ……』


 麗々を拒絶してしまった原因というものはきちんと存在しているが、謝罪を受け入れて元通りに仕事ができるようにする、と言った事は嘘になってしまう。

 聖南は確実に麗々の排除を実行に移す気でいるからだ。

 二度と麗々の顔を見なくてもいいように、二度と麗々がバカな真似をしないように、断罪する必要があると思った。

 それを果たして葉璃が許してくれるのか。

 下手したらまた別れを切り出されてしまうかもしれないけれど、聖南としてのプライドがあった。

 会話の内容を録音し、聖南に言い寄り、それをマスコミに流さないとも限らない、そうなると恋人である葉璃の炙り出しが始まり、それは凄まじいスキャンダルとして彼が脅かされる。

 しかもそれは、とんでもない大きさの火の粉となって葉璃に襲い掛かる危険があった。





 ───そんな事を、聖南が許すはずもない。






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