必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 未成年を理由に、二十二時を待たずに二十歳未満の人達が次々と会場を後にしていた。

 その波に乗って俺と恭也も出口に向かおうとしてる所に、何人ものテレビでよく見る芸能人達から「頑張れよ!」ってフランクに頭を撫でられた。

 すでに顔馴染みとなったアキラさん、ケイタさん、荻蔵さんからも「頑張ったな!」って声掛けてもらって、やっと緊張も解れてきたとこだけど……。

 隣の恭也にはみんなピシッとかしこまって労ってるのに、俺にはヨシヨシ。 ……この差は何なの。


「なんか俺だけ扱いが違う……」


 会場を出て駐車場へ向かう最中、我慢できなくて恭也をチラッと見た。


「……しょうがないよ。  大人達からしたら、……いや、俺も思ったけど、あの葉璃の挨拶は、可愛過ぎたよ」
「子どもっぽかったって事?  俺も恭也みたいにやったつもりなんだけどなぁ……」
「そうじゃなくて……。  あ、俺の迎え来てる。  葉璃、セナさんの車の場所、分かる? そこまで一緒に行こうか?」


 遠目に恭也の迎えの車を確認して、俺は頷いた。


「大丈夫、分かるよ。  恭也、ありがと。  俺がんばるから。  緊張しないようにするのも、がんばる」
「……俺は、あんまり緊張しなかったから、これから先も、葉璃がどんなに緊張してても、ちゃんと支えてあげるよ。  無理にがんばろうとしないで、葉璃はそのままでいて」
「でもそういうわけには……」
「葉璃、俺達は、足りないものを補い合えばいいんだよ。  俺に無理な事は、葉璃にがんばってもらうから。  ダンスのセンスは、葉璃には敵わないし……ね。  ……じゃあまたね、葉璃。  連絡するね」


 手を振る恭也を見送りながら、俺はその後ろ姿をすごく頼もしいと感じていた。

 デビューが決まって、俺も恭也も取り巻く環境が大きく変わった。

 毎日のレッスンやレコーディング作業、これからの道筋を事務所の人達と話したりを通して、俺達は確実に前へと進んでいる。

 俺は今も自分に変化があるとは思えないけど、恭也は全体的に一皮剥けたと思う。

 少し前から背筋もちゃんと伸びてるし、話す事が苦手で無口だったのも、ゆっくりとだけど何とか会話をしようと頑張っている。

 さっきの挨拶にも度肝を抜かれた。

 林さんが挨拶する事を伝え忘れてたみたいだから、俺達は急にそれを聞かされてまったく練習出来なかった。

 それなのにあんなに完璧なものを見せられた後に俺だなんて、順番おかしいじゃん、ってまたほっぺたが膨らみそうだったんだから。

 意外にも度胸があるというか何というか、見掛けによらず人前でも緊張しないらしいから、これからすごく頼りになるし、見習わなきゃいけない。

 補い合えるだけのものを俺は全然持ってないから、恭也に補ってもらうばかりにならないように、ちゃんと地に足付けてがんばろう。

 ……まずは、目先のやらなきゃいけないこと。 春香の影武者だ。

 駐車場で待っていてくれた聖南と一緒に、佐々木さんの待つダンススクールへ向かっていた。

 車で三十分はかかるから、とりあえず俺は佐々木さんにメールした後、失礼なくらい爆笑された恨み節を聖南に言っておく。


「───ひどいです。  あんなに笑わなくても良かったですよね」
「まーだ怒ってんの?  仕方ねぇじゃん、葉璃が想像とかけ離れた事言うから。  ここ何年かで一番笑ったかもしれねぇ」


 今思い出してもウケる、なんて言う聖南は運転中だからか大好きな眼鏡姿だけど、怒ってる今はさすがにキュンキュンしない。

 会場中じゃがいもだと思えって言われたから、想像力を働かせてそう見えるように頭をフル回転させたのに、何にもうまくいかなかった。

 それに気を取られると挨拶をまともに出来ないから、じゃがいも作戦は壇上に上がってすぐに失敗と判断してやめた。

 とにかく、教えてくれた張本人の聖南があんなに笑うのは許せない。


「ま、無茶だよな。  俺も五歳で初舞台踏んだ時そう言われた事あったけど、どうやっても見えるわけねぇよ」
「ほら!  そうでしょ!  危なかったです。  あのままじゃがいも作戦続行してたら、何にも話せないで終わってました」
「じゃがいも作戦って何だよ……美味そう」
「またバカにしてる!」


 どの言葉を間違えたのか分からないけど、遠慮なく笑い始めた聖南は俺をからかってるとしか思えない。


「はいはい、分かったから。  俺が悪かった。 じゃがいも作戦教えちまって、悪かったよ」
「~~~~ッッ」


 信号待ちで停車し、ニヤニヤしながら俺に視線をやる聖南へ最大級の怒りを見せてやった。

 両目をぎゅっと瞑って、少しだけ舌を出す。

 小さな子どもが不貞腐れた時によくやる、あっかんべーだ。


「お、こんなとこでキスの催促?  ちょっと待って、路肩停めるから。  あ、マスコミいねぇよな?」
「えっ?  え?」
「ちょうど俺も、したいなぁと思ってタイミング見てたんだよ」
「いや、違っ……んんっっ……」


 違う、違う……! キスの催促なんかしてないよ!

 ほんとに路肩に車を停めた聖南は、ハザードを付けるなり俺の後頭部を持って深く口付けてきた。

 車だからアルコールは飲まないって言ってたのに、何だかお酒の味がする。


「んんっ、……ん、……っ……」


 ほんの一分くらい猛烈なキスをし掛けてきた聖南は、満足そうに俺の頬を撫でて離れていった。


「葉璃から催促なんて嬉しい。  怒ってたのに、どういう風の吹き回し?」
「いや、催促してないんですけど……」
「したじゃん、ベロ出して」
「それは……っ」


 そ、そういう事か!

 俺は、もう知らない!って意味であっかんべーをしたのに。

 そっか……そうだった。 エッチの時、いつも聖南からのキスの催促は「舌出して」だった事を思い出した。

 ───駄目だ、あっかんべーはもう使えない。




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