必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 すっかり恭也を信頼した聖南は、晩飯一緒に食うか?と軽やかに誘ってみたのだが、キッパリと断られた。

 デート楽しんでください、などと、聖南よりも大人びた発言をした恭也を自宅に送り届けて、葉璃と共に夜の街を車で流していた。


「葉璃はどうする?」
「…………帰ります」
「俺ん家に、だろ?」
「………………はい」


 照れ隠しなのか窓の外を見たまま、葉璃が小さく頷いた。


「晩飯食ってから帰ろうな。 ノンアルあるとこはナシで」
「またそれ言ってる! しつこいですよっ」


 どうにかこちらを向かせたくて意地悪と分かっていて言うと、案の定パッと聖南を振り返ってまた膨れている。


「あはは……っ! ごめんって。 んな怒んなくても」
「だってしつこいんだもん……」
「もん」
「それも! 初めて聖南さんと喋った時、それもイジられた気がします」
「もん、だろ? イジった気がします」
「えーっ何ですか、聖南さん。 今日意地悪な日ですか?」


 さすがにからかい過ぎたようで、もうそれ以上膨らまないよと教えてやりたくなるほど頬を膨らませ、怒りを表している。

 運転しながら横目でそんな葉璃の様子を窺うが、可愛くて可愛くて運転に集中できなくて、一旦車を路肩に停めてしまった。

 葉璃は本当に、何をしても、どんな顔をしていても、愛しくてたまらない。


「いやー? 逆だよ。 俺今日めちゃくちゃ気分いい」
「うそだ……。 あれ、何で車停めたんですか?」
「分かったんだ。 葉璃がそんな機嫌悪いのは腹減ってるからだな?」
「違いますよっ! 子どもじゃあるまいし!」


『俺から見ればまだまだ子どもに見えんだけどな~』


 見てくれの問題ではなく、葉璃は純粋過ぎるのだ。

 不可能ではあるが、世の中や社会の汚さ、人間の悪の部分などを後々知っていくだろう事柄すべてを事前に取り除きたいと無茶を思う。

 ハザードボタンを押し、本格的に葉璃を見詰め始めた聖南の視線の先には、ぷっと膨れた頬と尖った唇があった。

 怒りを表現するのにすぐ頬を膨らませるなど、男子高校生はおろか今時女子高生でもやらないのではないだろうか。

 怒りの感情をこうして分かりやすく表してくれると、どうも口元が緩んでしょうがない。


「拗ねんなって。 あとでちゃんと可愛がってやるから」
「…………ッ!! ひっ……」
「あ? 何?」
「い、いえ……聖南さんが急にドキってする事言うからしゃっくりが……ひっ」
「なっ、マジで!? あははは……っ! やべぇ、ツボ入った! めちゃくちゃ可愛いじゃん! あはははは……っ!」
「………………」


 笑い事じゃないのに…と言いつつ唇を尖らせている葉璃は、立派にイジけているつもりなのだろう。

 しかし数十秒おきに「ひっ」と小さく肩を揺らす姿を見て、聖南は笑いが止まらなかった。

 腹筋がつって痛くなり、目尻からはここ数年まったくお目見えしていなかった涙まで流す始末で、葉璃の頬は膨れたままなかなか元に戻らなかった。

 葉璃には自然体でいればいいものを、可愛がってやるから……などとカッコ付けてしまった自分がバカみたいだと思った。

 計算など何もない、真っさらで素直な葉璃は、食事の席で水をガブ飲みするまで「ひっ」と言い続け、終始聖南の笑いを誘ったのだった。




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