必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 いつもより早く目覚めた朝、聖南はすでに日課となっているコーヒーを飲んでから仕事へと向かっていた。

 今日は葉璃と恭也のデビュー曲の仕上げを編曲を任せているいつものスタッフ四名に託し、歌入れ直前の状態まで持っていく。

 二人の声を聴いての綿密なパート割りは、聖南の仕事の合間を見てではあるがそれでも一週間を要した。

 その間、曲の細かい部分の修正もしたのでそんなにかかってしまったというわけなのだが、何せ聖南の復帰と被ってしまい、編曲者たちとの都合を合わせようとすると今日の数時間しか時間が取れなかった。

 レコーディングまであと二週間しかないが、何とか年内に歌入れまで終わらせて、年明けから本格的な曲メインの基礎練習が出来れば彼らにとっても十分な余裕が出来ると思う。

 広報部との宣伝活動やマネージャーとの挨拶回りもしなければならないし、早いに越した事はない、……などと、聖南は午後の映画が待ちきれないだけで尤もらしい事をスラスラ言えた。

 業界関係者からの ″セナは口から産まれた男″ という謎の異名通り、本心を交えた聖南の言い分は編曲者たちをいたく感激させていた。

 ようは、早く終わらせようぜと言いたかっただけなのである。

 データを読み込んでいる最中の彼らの後ろでドカッとソファに腰掛けた仕事モードの聖南は、膝の上にノートパソコンを置いて歌詞を見ていた。


「……結構細かくパート振りしてますね」
「そう、それを覚えてほしいんだよな、アイツらに。 すげぇ計算してあっから」
「あの時、セナさんが二人の声持ち帰るって言ってたから驚きましたよ。 デビュー曲だし大事なのは分かるけど、パート振りなんて、その場で出来た事じゃないですか?」


 熱心だなーと思いました、と言われ満更でも無かったが、それはちょっと良いように受け取りすぎだ。

 聖南は本当に、二人の実力を甘く見ていた。

 葉璃との事を想像しながら大切に作った曲でもあるし、特に恭也の声は同じ歌手として嫉妬してしまいそうなほど仕上がった声だった。

 それだけに、生半可なものは作りたくないと創造意欲が掻き立てられてしまったのだ。


「まぁな。 でもな、二人の声聞いたろ? 俺が半端な事したら二人の良さを全部壊す事になり兼ねない。 いくら曲が良くて、声が良くて、ダンスが上手くても、聴く人に届く歌をちゃんと歌唱させないと意味ねぇもんな。 だから二人には……俺の分までやってもらうって感じだ」


 正直なところ、聖南が所属するCROWNはダンスパフォーマンスと、三人三様のルックスと明るいノリで人気を博している感は否めない。

 せっかくの聖南の歌声があまり活かされてない、なぜバラードを歌わないのか、という取材を度々受けるものの、それは事務所の方針でと応えるしか出来ないのだ。

 CROWNが結成された当時は、聖南がまだ高校に入学したばかりだった。

 そこからすでに皆成人を迎え、そろそろ音楽性のシフトチェンジをしてもいいのではと誰もが思っているのであろうが、簡単にはそう出来ないのもまた事実であった。

 アキラとケイタが本格的に役者に転向したとしても、CROWNは二人が帰る場所でありたいと思っている。

 CROWNがあるから安心して違う場所で輝けると、二人にはそう思っていてほしい。

 まず一番に、そもそも聖南がラブバラードを歌うという気持ちが煮え切らない。

 自分達やファン等へ、明るく前向きで何も心配しなくて大丈夫だと銘打つアイドル歌手が、まさにCROWNだからだ。


「……これ、セナさんがソロで発売しても充分売れそうですけど」


 聖南が仮に歌ったデモを聴いたスタッフ達は一様にそう言ってくれるが、聖南はフッと笑いを零す。


「今はそう思ってくれてても、いざ二人に歌わせてみ。 細かくパート割りした意味が分かるから」
「はぁ……セナさんがそう言うなら」


 葉璃達の芸能界への第一歩となる曲を聖南が提供するとは、まさに運命的だと思った。

 アキラの助言が無ければこうはならず、聖南もデビューで動いているスタッフ等に掛け合ったりはしなかった。

 デビュー曲に限っては聖南が取り仕切っている今、絶対に、彼等を含めたすべてにおいて失敗などさせない。




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