52 / 541
12❥
12❥4
しおりを挟む葉璃と佐々木の会話の内容が気になりまくるが、玄関に居続けるわけにはいかないので、聖南は葉璃の手をギュッと握って一通り部屋の中を案内した。
「わぁー! ここに一人で住んでるんですかっ?」
窓から見える景色も十二階ともなると壮観で、広々とした室内や生活感が無く少ないけれど、置かれた家具家電の豪華さに葉璃は素直に興奮している。
そんな葉璃の反応に気を良くし、頷きながら、落ち着かない葉璃をふかふかのコーナーソファに座らせた。
「コーヒー飲むか? 甘いの作れるようになったから」
「いいんですかっ? じゃあ……お願いします」
いつ葉璃がこの家に来てもいいように、自分では絶対に飲まないカフェオレをさらに甘く作る方法を調べて、聖南は夜な夜なこっそりと練習していた。
コーヒーメーカーに水を注ぎながら、思い出す。
お見舞いに来てくれたあの日、葉璃が自販機で買って飲んだと言っていた紅茶も淹れられるようにならなければとふと思った。
しばらく仕事から離れる身なので、練習する時間はたっぷりある。
「聖南さん、体大丈夫ですか? ……疲れてますよね」
ゆっくりとした動作でコーヒーの支度をしていると、ソファからそう心配の声が飛んできた。
「聖南さん病み上がりだから俺も手伝います」、と気を使う葉璃を無理やり座らせたからなのか、キッチンでゆらりと動く聖南を可愛い視線が追い掛けてくる。
「疲れてるように見える? 葉璃が来てくれた次の日からずっと人と会ってたからなぁ」
「あぁ、仕事関係の?」
「そうそう。 で、葉璃はちゃんと学校行ってたか?」
あまり顔には出していないつもりだったが、葉璃の言う通り、慣れない入院生活や休み無くやってくる関係者の相手、昼夜問わず鳴り続ける電話の対応にと、疲労困憊なのは確かだ。
その合間に入る葉璃のメッセージにほっこりしても、次々と見舞い者が来て息つく暇もなかった。
あの日以後、学業優先だと伝え葉璃とは携帯でのやり取りのみで正解だったかもしれない。
「行ってましたよ。 退院の日まで病院来ちゃダメって聖南さん言うから……」
「俺も会いたかったけど仕方ねぇだろ。 早退して来てくれたんだから、学校ある日に来させらんねーよ」
「土曜日は学校ないから行けたもん」
言いながらぷぅと頬を膨らませている様は、何とも言い難いほど可愛い。
『また もん とか言ってるし……可愛すぎだろ!!』
内心悶えながら、葉璃のために作った甘いカフェオレの最後の仕上げにバニラエッセンスを三滴垂らす。
いかにもお見舞いに来たかったと言わんばかりの発言に、喜びを隠しきれなかった。
「ちょうど事務所の奴らとか来てたから葉璃来てもまともに話せなかったと思う。 ほら、膨れてねぇで飲んでみろ」
この時期だと暑いかもと思ったが、バニラエッセンスを香らせたいがためにホットにしてみた。
「美味しい……っ」
小さな両手でマグカップを持ち、唇を尖らせてフーフーする葉璃のそれに吸いついてやろうかと不埒な事を考えながら、聖南も隣に腰掛け、自身は濃い目のブラックコーヒーを飲む。
「これ聖南さんが作ったんですかっ!? 毎日飲みたいくらい、めちゃくちゃ美味しいです!」
「良かった。 これ毎日飲みたいなら早く卒業してここに来い」
「えっ……?」
「葉璃も住むんだよ、ここに」
「そ、そんな先の話……」
「先でもねーだろ? あと一年ちょっとだっけ?」
「そうですけど……」
いきなり未来の話をされて戸惑うかと思ったが、葉璃は意外にもほんのりと頬を染めて嬉しそうだ。
聖南は傷跡が引きつるせいで長い足を組めないため、オットマンがある方へ移動し葉璃と密着した。
「いつ佐々木とランチしたの?」
マグカップをガラステーブルに置いたのを見計らい、葉璃の肩を抱いて先程の疑問を紐解いていく。
問い詰める事の出来る恋人の特権を、フル活用だ。
「急にですかっ。 佐々木さんと……うーん……ちょっと前ですよ」
「曖昧だなー。 じゃあ、あの話って何?」
全部聞こえてたんですね、と苦笑する葉璃に構っている余裕など無く、聖南は遠慮なしにグッと肩を抱き寄せた。
「あーそれは……。 聖南さん前にしてすごく言いにくいんですけど、俺をデビューさせようっていう話があるらしくて……」
「あ? マジで? ソロ?」
佐々木との意味深な会話が聖南の不安を煽るようなものではなかった事に安堵しながらも、葉璃にそういう話がきているとは驚きだった。
「分かんないです。 俺の返事と話し合いで、ソロかユニットか決まるみたいで。 ユニットってなっても、少数だそうです」
「そうなんだ。 そこまで話詰められてんのか。 てか葉璃はそれ断ってんの?」
「はい」
「なんで?」
「なんでって……。 俺には分不相応ですから。 こないだのは春香のために仕方なくやりましたけど、人前に立つ仕事はしたくないです」
15
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
潜入した僕、専属メイドとしてラブラブセックスしまくる話
ずー子
BL
敵陣にスパイ潜入した美少年がそのままボスに気に入られて女装でラブラブセックスしまくる話です。冒頭とエピローグだけ載せました。
悪のイケオジ×スパイ美少年。魔王×勇者がお好きな方は多分好きだと思います。女装シーン書くのとっても楽しかったです。可愛い男の娘、最強。
本編気になる方はPixivのページをチェックしてみてくださいませ!
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21381209
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】
NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生
SNSを開設すれば即10万人フォロワー。
町を歩けばスカウトの嵐。
超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。
そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。
愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
EDEN ―孕ませ―
豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。
平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。
【ご注意】
※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。
※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。
※前半はほとんどがエロシーンです。
トラック野郎親父の雌堕
熊次郎
BL
大輝はレスリング経験者で今でも体がゴツい。父親の健吾は男らしくガタイのいいトラック野郎だ。仲のいい父親と2人で暮らしているうちに大輝は親父の白ブリーフの膨らんだ中身が気になり始める。思春期の経験があってはならない方向に導く、、、。
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる