必然ラヴァーズ

須藤慎弥

文字の大きさ
51 / 541
12❥

12❥3

しおりを挟む



 エレベーターを降りて病院前を横目で確認すると、大量のマスコミ陣がカメラやマイクをスタンバイして聖南を張っているのが見えた。

 事前に教えてもらった裏口へ足早に向かうとそこにもちらほらとマスコミがいるようだったが、ここは病院スタッフの出入り口でもあるため警備員が常駐しており、簡単には近付いてこれないようで安心する。

 待ち構えていた事務所スタッフに誘導されて裏口を出ると、そのスタッフらを乗せた一台目のタクシーが発車し、マスコミはまずそちらに流れていった。

 その隙に聖南はキャリーバッグを運転手に任せ、目深に帽子を被ったマスク姿の葉璃が先に乗車している三台目のタクシーに乗り込む。


「……退院、おめでとうございます」


 すると、無事に任務を終えた相棒のように前を向いたままの葉璃が、そう声を掛けてきた。

 三日ぶりの葉璃の姿、そしてこの秘密裏な状況も手伝い聖南のワクワクは止まらない。


「あざっす」


 あの日から葉璃は、聖南からの連絡を一度も拒まなかった。

 ごく普通のカップルのように連日連絡を取り合い今日の日を迎え、入院中の聖南の心は葉璃によって保たれていたと言っても過言ではない。

 聖南が目覚めたと知って毎日代わる代わるお見舞いにやってくる芸能関係者に、ベッド上からだがお詫びを伝える日々はなかなかに堪えた。

 そんな中での聖南の唯一の癒やしは、葉璃だった。

 どういう心境の変化なのか、聖南の好意をまともに受け取ってくれていると実感できるほど、今の葉璃は以前とは雲泥の差で心を開いてくれている。


「なんか食った?」
「お昼一緒に食べようと思って朝抜いてきたんで、腹ぺこです」
「バカ、抜くなよ」
「ふふっ」


 ── あ、目がなくなった。かわいー……。


 葉璃が笑っている。

 未だ葉璃の笑顔を見た事のない聖南は、以前であればその帽子とマスクをすぐさま取り去って拝んでやる所だが、対峙していればチャンスはいくらでもあると、この何日かで心に大きなゆとりが出来ていた。

 葉璃の嬉しい心境の変化と、これから自宅に招くという高揚感で興奮を隠しきれない。

 だがあまりはしゃいでもカッコ悪い。努めて冷静に、無表情を装った。

 聖南の自宅マンションの地下駐車場でタクシーを降り、馴染みの運転手と目配せした聖南の隣で、スマホを持った葉璃がチラと見上げてくる。

 やはりここにもマスコミが遠巻きにいるようだったが、小柄な葉璃は出入り口付近に駐車された聖南の大きな車の影にすっぽりと隠れていて、聖南一人しか移動していないように見えただろう。

 マスコミの位置を確認し、葉璃の手を引いて足早にエレベーターに乗り込む。


「あ、あの……聖南さん、すみません。電話出てもいいですか?」


 先程からバイブ音がしていると思ったら、葉璃のスマホだったらしい。


「いいけど、誰?」
「佐々木さんです」
「…………いいよ」


 葉璃の仕事である影武者の話だといけないので渋々と許した聖南だったが、葉璃に気があるかもしれない男との会話は堂々と盗み聞きをする。


「もしもし。……あ、はい、お疲れさまです」


 聖南の部屋がある十二階に到着したので、通話中の葉璃の手を引き自宅の扉を開けた。

 お邪魔します、の意味なのかペコッと頭を下げて入って来る葉璃の頭をヨシヨシしてやりながら、玄関先から上がらないままの盗み聞きは続く。


「え、家に来てるんですか? あー……でも俺いま家にいないんで……」
『そうなんだ。この前みたいにランチ一緒にどうかと思ったんだけど。あの話もあるし』


 電話の向こうの佐々木と葉璃は明らかに親しげで、聖南の表情がみるみる強張る。


「今日はすみません。それに、あの話は受ける気ないですから」
『今日のところは帰るけど、そう言わずにあの話は考えておいてよ』
「ん~……。考えるだけ考えます」
『考えるだけじゃダメだぞ? 前向きに頼むよ』
「まぁ……、はい、それじゃお疲れさまです」


 葉璃は小さく溜め息を吐きながらスマホをポケットに直し、聖南に「すみません」と謝った。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...