必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 発注されていた曲は、新しい恋に胸を踊らせる詞でレトロポップスに仕上げた。

 どちらかというと、恐らく男性よりも女性に寄せた造りになってしまったかもしれない。

 誰に歌ってもらうか分からない段階での作業は困難を極め、しかも全く気乗りしなかったその曲作りを、考えを改めて黙々と無心で作ったのには訳がある。

 プロデュース業にも力を入れてほしい、そう言われてから、聖南はふとした時によぎる事があった。


『俺には演技の才能がねぇから、音楽しかやれる道がねぇ……』


 台本を読んで頭に台詞を叩き込む事は得意なのだが、それを実際に演じてみると自分でも分かるほどの大根である。

 顔と体が命であるモデル活動も、年齢を重ねていくうちにいつ切り捨てられるか分からない。

 ただ音楽は、才能が開花すれば死ぬまで仕事としてやっていける。

 この世界しか知らない聖南にとって、芸能界から離れるという選択肢は最終手段に他ならない。

 幸い、曲を生み出す作業は楽しいし、今回のように誰のためにか分からない状況でなければわりといつも安産だ。

 三年ほど前にサポートを頼まれて猛練習したドラムしか、聖南は叩けない。

 コードや楽譜はほとんど読めないがギターもピアノも弾ける。

 腕前は大したことはないけれど。

 まったく気付いていなかったが絶対音感を持っている聖南は、耳に入った音楽を数分でコピーする事が可能なのである。

 それに気付いたのが、CROWN結成から二年後の事だった。

 聖南は細部の音程の違いを実に細かく歌い分け、アキラとケイタにその違いを指摘しているところを現在のプロデューサーに見付かった。

 それからはパソコンを使った打ち込み作曲を教わり、以降そちらにも多大に関わらせてもらっていて、今やプロデュース業はどうかと持ちかけてもらえるまでになった。

 この機を逃すわけにはいかない。

 そんな気がして、聖南は真剣に曲と向き合った。

 どんなグループが歌うのかは分からないが、この曲はCROWNとETOILEにはない色を出さなければと思い至る。

 聖南が今までに作った事のない曲調のため、目の前でデモを聴きながら作曲家の後藤が驚きを持って聖南を見た。

 聖南はこの後、葉璃達のMV撮影に行きたいあまり腕時計をチラチラ見ていたのだが、興奮気味の後藤がそれを許してくれるかどうか。


「セナ、セナ……!こ、ここれは素晴らしいじゃないか……!」
「そう? 俺の声入れてるし微妙な顔してっからボツなのかと思った」
「いや、いやいや、そうじゃない! 感動に震えてるんだよ! セナ、こんなレトロポップスも作れるのか……」
「みたい。 今までとはまったくの別ものを創りたかったからな」
「素晴らしい! 本当に素晴らしい! 早速月曜のミーティングでチームのみんなにも聴いてもらうよ!」


 喜びと驚きを前面に出してくれた後藤の反応に、ホッと胸を撫で下ろす。

 曲調を変えた事で何か言われてしまうと危惧していたが、実に安心した。

 我ながら良い曲に仕上がったという自負があるので、これを編曲担当がさらに上質なものにするべく旨味を足してくれれば、確実にヒット間違いナシだ。

 ……誰が歌うのかが問題ではあるが。


「……でさ、プロデュースがどうのってこないだ話してたじゃん。 あれ本気で考えてみよーかなと思ってんだけど」
「本当か!?!」
「あぁ。 俺気付いたんだよ。 歌うのも踊んのも好きだけど、同じくらい創るのも好きだ。 それでこの事務所に貢献出来るならなお良い」
「よーし、よく言った! ツアー後が楽しみだなぁ! 忙しくなるぞ~!」
「あ、でもな、ツアー終わり五ヶ月は俺めちゃくちゃ忙しいから、ちょっと前にも電話で言ったと思うけど本格的に関われんのは来年からだ。 その曲に関してはやるけど、それ以外はって事な」
「そうなのか? 五ヶ月って事は舞台か何か?」
「そ、ミュージカル」
「え!? セナ、舞台はもうやらないって言ってなかったか?」
「昨日、台本下見してきたんだよ。 監督と助監督に泣きつかれた。 思った以上に台詞少なかったし、これが最後って事で承諾したんだよ」


 恭也の言っていた事が気になっていて、随分遅くはなったが台本の下見に行ったのが昨日の事だ。

 自分は大根だと公にも語っているが、それは決して大袈裟には言っていない、本当に演技が出来ないのだと説明して丁重に断るつもりでいたのに、Hottiの担当者の如く二人のお偉方にハの字眉で「出演してほしい」と懇願されてしまった。

 非常に気の重い仕事ではあるものの、恭也の言っていた通り、あれは聖南をイメージして書かれたものである事は誰の目にも明らかで、断るつもりが承諾して帰ってきている。

 この事をまだ成田に報告していないので、またもや「一言相談してくれよ」と泣き言を言われるかもしれない。


「この曲に関わってもらえるなら、ひとまずは安心だ。 来年セナの体が空いたら一人プロデュースお願いしたい候補が居るから、それはその時にまた話すよ」
「え、気になんじゃん。 誰?」
「それはまだ秘密。 今はツアーに舵切ってるだろう? それが終わってからな」
「モヤモヤすんなぁ。 ……まぁいいけど」


 そんな意味深に含みを持たされては気になってしまう。

 だが今は一刻も早く葉璃達の元へ行きたい。

 葉璃をぎゅーしに行かなければならない聖南は、モヤモヤすると言っておきながら車に乗り込む頃にはその事などすっかり忘れ去っていた。



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