必然ラヴァーズ

須藤慎弥

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 到着した夕方の時点で、葉璃達のMV撮影は三分の一を撮り終えていた所だった。

 現場に聖南が到着するやスタッフ達が慌て始めたので、「口出ししに来たんじゃねぇ」と苦笑してそそくさとスタジオ内へと入る。

 少しばかり腰をかがめ、スタッフに紛れて撮影の模様を眺めようと葉璃達の姿を探した聖南は、カメラの前で口パクをするお目当ての人物を見付けて絶句した。

 あまりの可愛さに、無表情を装うのが大変だ。

 今日の葉璃は五割増しで可愛い。 どうしようもないくらい、人目も憚らず悶えてしまいそうなくらい、何日も会っていなかったせいで息を呑んだくらい、果てしなく可愛い。

 カメラの前に立つ葉璃と恭也は、黒を基調としたお揃いのブラックスーツ衣装を身にまとっていた。

 恭也は髪も整えられ、切れ長な瞳が際立つようにささやかにメイクも施されていて、ビシッと男前に決まっている。

 対して葉璃は担当のヘアメイクからも可愛さを押されたらしく、髪はゆるく巻かれて左耳だけを出したヘアスタイルだ。

 よく見てみると、彼の左耳で何かが光った。

 ピアスホールは開けていなかったはずなので、あの左耳に揺れている細長いものはイヤリングだろうか。


『やべぇ……! めちゃくちゃかわいー!』


 聖南はモニター越しの葉璃を凝視し、いつかの如く鼻血が出てやしないかと、口元を覆うフリでさり気なく右手で鼻の下を触った。

 葉璃と恭也は同じものを着用しているのに、風貌とヘアスタイルであんなにも二人の印象が真逆になるとは凄い。

 あの電話以降、聖南が寂しいと駄々をこねたからか朝晩の挨拶だけは多少時間差があっても送ってくれるようになった。

 それだけで聖南の心は満たされ、朝起きて支度をしている最中に鳴る通知音にワクワクしている。


『アキラが口添えしてくれたのはありがてぇ………』


 控え室に戻ってきたアキラに事の顛末を聞かされ、なんと出来た人間なんだと思った。

 アキラを嫉妬の対象として見てしまった日もあったが、やはり聖南にはない大人の余裕を感じ、「その余裕、俺にも分けて」と真顔で言うも鼻で笑われた。

 聖南はその嘲笑にムッとして、会議テーブルの上に置かれた大量のお菓子をアキラに内緒で彼の鞄に詰め込むという、小学生でもやらないようなイタズラを仕掛けて笑い返してやった。

 何だこれ!と憤るCROWNの実質長男の姿を思い出して笑っていると、ソロ撮影の終わった葉璃に顔を覗き込まれていた。


「聖南さん、聖南さん。 こんにちは。 楽しそうですね」
「……おぉ!! 葉璃! おいで!」


 ちょっと葉璃君借りるよ、とその場の監督に言い伝え、遠くからこちらを窺っていた恭也に右手を上げて挨拶すると、思い出のある編集室へとやって来た。

 パソコンが三台並んだ質素な個室に入ると聖南は無言で鍵を締め、大人しくついて来た葉璃を思いっきり抱き締める。

 柔らかく小さな体を抱くと、聖南の枯渇していた心に再び泉が湧き始めた。


「かわいーなぁ、なんでそんなにかわいーんだよ。 いっつも変顔してろよ、あんなかわいーの世に出したら俺どうしようもねぇよ」


 葉璃はいつも可愛いが、今日は撮影中のため綺麗に着飾っている。 この普段とのギャップが何とも言えない。

 ガラ空きな左のうなじに今すぐにでもキスマークを付けて、「コイツには俺っていう熱烈な彼氏がいるんだぜ!」と知らしめてやりたい。

 聖南が真顔で様々思いを巡らせていると、ふっと笑った葉璃は背中に腕を回してくれた。


「何言ってるんですか。 聖南さん、お仕事大丈夫だったの?」


 きゅっと抱き付いてきた葉璃は、髪が乱れる事も厭わずこてんと聖南の胸元に頭を寄せてきた。


『かわいーじゃ足りねぇな。 会いに来て良かった……』


「大丈夫。 ほんとはミーティングあったけどそれ月曜にやるらしいから、俺がもぎ取るまでも無かった」
「そうなんですね。 あれからジメジメは治りました?」
「治ったよ。 葉璃の声聞いてから超元気」
「もうアキラさん達困らせちゃダメですよ? きのこ生えそうって言われたんでしょ?」
「生えねぇっつーのに」


 いつもながらアキラとケイタはしょうもない事を言うもんだと思っていたが、葉璃がふふっと楽しそうに笑うので、それもまぁいいかと寛大になれた。

 葉璃の笑顔を見たくて顎を取ると、やはり目元に少々疲れが見て取れる。

 がんばってる、と言っていたのは本当のようだ。

 デビュー日まで相当に忙しい事は、聖南自身も経験がある事だからとワガママは言わない気でいたのに、わずか三日連絡がないだけで騒いでしまった。

 いくら我慢しようとしてもそれを凌駕する葉璃への想いは、何とも恐ろしい。


「葉璃、無理だけはすんなよ。 お前が過労で倒れたら、関わってる奴みんなボッコボコにしちまうかもしんねぇ」


 そう言ってじっくりとまた葉璃を抱き締めると、腕の中から可愛く聖南を見上げてきた。

 その瞳は、一目惚れしたあの瞳よりもさらに魅力的になっている。


「大丈夫ですって! 俺こう見えてもほんと体力ついたんですっ。 去年の今頃はこんなキラキラした世界にいるなんて想像も出来なかったけど、俺最近は毎日楽しいです。 聖南さんの背中追い掛けられたらいいなって目標あるから、がんばれるんです!」
「葉璃……」


 やはり葉璃は、強い人間だった。

 まかり間違ってネガティブで卑屈に育ってしまっていたけれど、葉璃は少しの導きでこれほど大きく成長している。

 「聖南を追い掛けられたら」……そんないじらしい事を言われて、葉璃にメロメロな聖南が我慢できるはずもない。



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